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『ケルト人の夢』 マリオ・バルガス=リョサ (著)を読んだ。その前に読んだ『きらめく共和国』 について、読書師匠しむちょんが「熱帯のジャングルと向こう岸まで4キロの茶色い川に沿った町で、なんだかペルーのイキトスを想像するとぴったりな感じ」と。そのイキトス、『ケルト人の夢』に出てきます。偶然奇遇。

『ケルト人の夢』 2021/10/28
マリオ・バルガス=リョサ (著), 野谷 文昭 (翻訳)


Amazon内容紹介

「一九一六年、大英帝国の外交官であった男に死刑が執行された。その名はロジャー・ケイスメント。植民地主義の恐怖を暴いた英雄であり、アイルランド独立運動に身を捧げた殉教者である。同性愛者ゆえに長くその名は忘れられていたが、魂の闇を含めて、事実と虚構が織りなす物語のうちによみがえった。人間の条件を問う一大叙事詩。
■内容紹介
20世紀初頭、コンゴとアマゾンの先住民に対する虐待、植民地主義の罪を告発したアイルランド人がいた。その名はロジャー・ケイスメント、大英帝国の外交官である。しかし彼は祖国アイルランドの独立を成し遂げるため、第一次大戦中はドイツに接近、反逆罪で絞首刑となる。同性愛者であったが故に翻弄されていく運命。恩赦の請願さえも聞き入れられず、希望は潰えてしまうのか。英雄であり、反逆者でもあった百年前の外交官を描きながら、歴史書よりも深く善悪の境界を問い、評伝よりも大きなスケールで人間の不思議さに迫る。ノーベル賞作家がよりよき世界を希求するすべての人に贈る未来のための賛歌。」

ここでちょいと僕の感想。岩波書店の担当者の紹介文作成能力、ものすごく高いな。見事な要約。これ以上うまくは要約できません。そういう本。
そして、本の帯にもついている推薦文から、池澤夏樹氏のもの。


「世界史を動かす原理を一身に体現した人物の物語。彼は英国領事として赴任した先のコンゴとアマゾンで先住民の惨状を告発する。更には郷里アイルランドの独立を謀って、絞首刑になる。しかも、この男は実在した。

これも、これ以上できないほど、簡潔かつ完璧な推薦文。


で、ここから僕の感想。


 というか、この本をここ数週間読みながら、同時に世界に起きたこと僕に起きたこと、考えたことが絡み合っていて、これはとても短くは感想が書けないほど内容の濃い小説なので、改めてnoteに、おそらく「超長文」を、書きます。すぐに書きます。超ヘビー級の傑作なのですが、とにかく一言では言い尽くせない。


 なので、ここでは、この直前に読んだ『きらめき共和国』とこの本の意外なつながりに、読書師匠のしむちょんが気づかせたくれた、という話だけ、忘れないうちに書いておこうと思います。


『きらめく共和国』 アンドレス・バルバ (著), 宇野 和美 (訳) についてはこの前noteを書いた。(下線部クリックすると飛びます。)

 おそらくは中南米のどこか架空の街、ジャングルと川に挟まれた亜熱帯の町に、理解不能な言葉を話す32人の子どもが現れて、そして数ヶ月後、一斉に命を落とした、という事件を描いた中編小説なのだけれど。

 そうしたら、しむちょんがこの本を読んでくれて、「熱帯のジャングルと向こう岸まで4キロの茶色い川に沿った町で、なんだかペルーのイキトスを想像するとぴったりな感じで、思い出しながら読みました。」と感想をくれた。しむちょんは若い時に南米を放浪してまわって、そのときにイトキスにも滞在していたことがある。しむちょんの、Facebookプロフィール写真は、南米の子供たちと一緒に、すごくいい表情で映っている若き日のしむちょんなんだけれど、それ、イキトスで撮ったものなのだという。


 イキトスというのは、ペルーの都市なのだけれど、Wikipediaで調べると「陸路で行けない世界最大の都市」なんだそうだ。陸路で行けないってどういうことかというと、Amazonの奥地の都市で、地図で見れば太平洋側に近いのだけれど、ジャングルに囲まれていて、道路の便がなく、昔はブラジルの大西洋側のアマゾン川河口のマナウスから船で行くしかなく、今も、アマゾン川を何千キロも遡る水路か、飛行機でしかたどり着けないのだそうだ。

 このペルーのイキトスというのが、こっちの『ケルト人の夢』で、主人公がペルーのゴム農園(イギリスの会社)での、原住民への奴隷的虐待を調査告発する起点となる町なのだな。もう、本当に人間の悪が、残酷さが、丸出し剥き出しになるひどいことが行われていたのであります。


 で、『きらめく共和国』についていて読んでいて、実はよく分かっていなかったことが、『ケルト人の夢』と、しむちょんの一言で、急にいろいろとはっきり分かってきたのだ。


 というのは、中南米のどこかの国で「原住民」というのが、どういうイメージなのかについて。『きらめく共和国』だけを読んでいた時は、メキシコ周辺なら「アステカの民」、南米ならコロンビアかエクアドルあたりで、原住民ていうのは、「インカの末裔」のインディオの人、とイメージしてしまっていたのだけれど、それだとどうも違うみたいだと気がついた。


 ブラジルを除く南米の国での人種民族構成というのは、インカ帝国の圏内で「インカ文明」化していたインディオの人たちと、それを征服したスペイン人。その混血、という人たちがペルー、コロンビア、チリでは人口の多数を占めて、そこに黒人奴隷の人たちが入った国、あまり入らなかった国で、その混血具合の比率が違う。というのが中南米各国の人たちなんだろうなあと思うわけですが。

 という中で、『きらめく共和国』の中に出てくる、街の周辺にいる原住民、というのが、イキトスで奴隷的に迫害されていた「アマゾン先住民」のことだ、と思うと、いろいろすごく納得できる。つまり、「白人(スペイン系」と「スペイン系とインディオの混血・メスティーソ」と「インカ系の末裔」の人は、すでに数世紀の歴史を経て文明化した一般市民となっているのだけれど、その周辺に、アマゾンの先住民として、文明化が遅れている部族の人たちが住んでいる、その人たちの対策をする公務員というのが、『きらめく共和国』の主人公だったのだ。で、そのアマゾン先住民は、かつて、ものすごくひどい暴力的扱いを受けて、絶滅しかけていた。


 そういうイキトスの歴史的背景が、『ケルト人の夢』を読むとよくわかり、それが分かると、『きらめく共和国』が、くっきりと違って見えてくる。


 しむちょんのことを「読書人生の師匠」と呼ぶのは、ものすごい量の世界文学を読んでいる、その読書量と読書力読解力もあるのだけれど、世界中を旅してまわって、本当にいろいろな世界文学の舞台について、人や風土や景色や、そういうものへのリアルな体験があるというのも、本当にすごいなあと思うからなのでありました。

 では、『ケルト人の夢』についての、読書感想文本編は、これから次のnoteで腰を据えて書こうと思います。


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