3月16日(月)もうすぐ2年ぶりの外(に出られるかもしれない)

【読みもの】

既にお察しの方もいらっしゃるかもしれませんが、うちの庭、無駄に広いんです。どういう神のいたずらか狭小住宅が2軒建つくらいの広大なスペースが空いていて、それでも綺麗だったら良いのかもしれないんですけど、家族数人で地味に暮らしていると手入れがとても追い付かず、抜けども抜けども植物が生えてくる。母がこの地に嫁いでからウン十年、そのうちなんかの遺跡でも発掘するんちゃうかというくらいの地層の深さを体感した彼女は、やがて1本たりとも雑草は抜かなくなったと語っていたものでした。今では基本的に草木は常にボウボウに生い茂り、年に1度、庭師さんに大胆仕上げで切ってもらわないとそれはもう大変なことに……というジャングル大帝状態でした。

さらに、既にお察しの方もいらっしゃるかもしれませんが、うちの家、無駄に広いんです。綺麗だったら凄く良いんだと思うんですけど、何度も増改築を繰り返した物凄く古い建物で、間取り好きの私にも間取りが再現できない謎の構造。あちらこちらと段差でガタボコ、バリアフリーなんてあったもんじゃない大変な状態で、あと「外で寝てる?」と思うくらい寒いエリアとかもあって、この家と建坪12坪の渡辺篤史系住宅なら絶対後者に住みたいなと確信するくらいには住み心地が悪いんです。

元気な頃こそそれで良かったのですが、今の私は病気で寝たきりのため、生活がハチャメチャメチャクチャの七転八倒七転び八起き、倒れるのか起きるのかどっちなん?みたいなことになってしまいました。線維筋痛症の症状の1つとして、身体に加わる圧力が全部痛みに変わってしまう、というなんとも厄介なやつがあるのですが、歩く時にも足の裏が「痛みを伴いながら足音に変わる」というなんだかコナンのテーマ曲みたいなことになってしまい、1度に10歩くらいしか歩けないんです。

座ったり寝転んだりも大変で、ふかふかのベッドやクッションじゃないと硬さがこれまた痛みに変わり、大河ドラマの殿のいる場所?というくらい高台になったベッドに寝たり、無数のクッションを敷き詰めたりして難を逃れています。スリッパもふかふかじゃないと痛いし、畳に直に座ったりはできないので、立ち上がったら最後、次のベッドかクッションまではどこにも立ち寄れないという、RPGゲームでどくどくの沼を避けて生きてるみたいな変な暮らしになっています。

もちろん手も痛くてまともに使えないので、家族に車椅子を押してもらって、謎の構造の廊下を行ったり来たりして巣籠りの憂さを晴らす、外には全く出られない生活を送ってきました。外に出るための脳内シミュレーションを何度繰り返しても、車椅子に乗ったままでは通れない段差や崖?が玄関までにいくつもあり、さらには玄関から道路までの間も石畳や土のうを積んだかのような盛り上がりが続いていて、その距離を歩いた暁にはもう足がどくどくの沼に侵されてしまうことがわかりきっているのです。

自分がどうやら謎の病気の患者らしい、おまけに治療薬や治療法は特にないらしい、ということが分かった2年前の春、今よりも全身が痛くてたまらず、仕方がないので、「歩ける距離が伸びるまでは外に出ないことにしよう」と心に決め、絶対に無理はしないよう、安静を心掛けました。お医者さんには訪問診療で診に来てもらって、必要なお薬は出してもらって、痛みを感じないように、痛くならないように。

それでもなんなんでしょうね、やっぱり人間、陽の光を浴びたり、外の空気を吸い込んだりしないと、だんだん弱っていくのでしょうか。

油ものでお腹をすぐ壊すようになり、歯の食いしばりで硬いものが食べられなくなり、肌がすぐかぶれるようになり、月経前にめちゃくちゃ落ち込んだり怒ったりするようになり、もう生活はめちゃくちゃですよね。確かに痛みはほんのうっすらだけ良くなりましたけど、期待していたほどの変化には到底及びません。ほぼ横ばいの状態で、ただただ体力が落ちていく一方で。安静にしていたこと自体は最良の判断だったと思いますが、簡単に外に出られるような家に住んでいれば、こんなことには……という考えが浮かばないわけではありません。

このままじゃ一生このままなんじゃないかって次第に思うようになりました。このままなんて絶対いやだよ。せめてお庭にだけでも出たいよ。こんなに目の前にあるのにこんなに遠いなんて。こんなに庭は広いのにこんなに部屋は狭いなんて。

「切り取られることのない、丸い大空の色を優しいあの子にも教えたい」

スピッツは朝ドラの主題歌でそう歌っていました。私のことですか?切り取られることのあるお空、見慣れてしまいました。画角がいつも同じなんですよ。ずっと同じ構図の写真を見てるみたいなんです。丸い大空、どんなんやったかなぁ。

そうしてついに根をあげた私は家族に頼み込み、謎廊下にある吐き出し窓から階段とスロープを作り、そこから庭にコンクリートの道を通し、最終的に道路に出られるよう、工事を行ってもらうことになりました。工事の詳細は個人情報保護の観点からここには記しませんが、距離が距離だけに凄い金額が掛かることが分かり、私の心は心底折れかけましたが、それでもOKしてくれた親にはただただ、おおきにと申します、としか言いようがありません。

先週から続いていた工事もついに仕上げに入り、道の土台にコンクリートが敷き詰められました。乾かす前のコンクリートって想像してたよりもったりしてるんですね。ゆるめの砂遊びみたいに、木枠にズリッペタッ、ズリッペタッと塗っていく作業は遠目に見てる分には楽しそうやけど、実際にやってみたらズッシリ重くて大変なんやろうなぁーと思いました。

廊下のカーテンに隠れて工事の人たちを眺めていたら、うっかり目が合ってしまって、「こんにちはー」と挨拶された時、「あ、こ、こんにちは」と、動揺しながらも普通に自分も挨拶し返していて、2年ぶりに外界の人と接触した割には思ってたより普通なんやなぁと思いました。

切り取られることのない丸い大空の色も、案外そんなもんなんかもしれへんな。

楽しみです。

あと、家が割と広いこととか、なんやかんやで工事が出来てしまったこととか、たぶんそういうことを書いたらこれまた疎ましく思う人もいるんやろうなぁとは想像できるんですが、もうこれは全然じまんとかではなくてほんまに2年間十二分に苦しんできたことで、2年間外に出られへんって想像するより余程のことで、それがついに終わるかもしれへんという光と喜びを込めて書いたことで、よそはよそうちはうちなので、もうただただ多めに見てください。お願いします。


HAPPY LUCKY LOVE SMILE PEACE DREAM !! (アンミカさんが寝る前に唱えている言葉)💞