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人の孤独を笑うな

言葉にするのも憚るくらい、寂しい時間が毎日ある。

一人が怖い。

誰もいない家。動かない物質。このまま世界が滅んでいても気付かないくらいの静けさ。

私は一人が好きだと思っていた。
本当の一人になるまでは。


この一年と八か月の間に行った場所は、自分の寝室と、すぐ隣のトイレ、そこから目の前の階段を下って、脇にある和室。長く伸びる廊下と、その先の脱衣所、お風呂場、真横にあるトイレ。

どんなに多く見積もっても八つしかない空間に、永遠のように横たわっている。


もしももっとたくさん歩けたら?
もしもこの家の構造が単純だったら?
もしも玄関が目の前にあったら?
もしも道路までニメートルだったら?

存在しない「もしも」を考えても意味がない。できることはなんだってやってきたんだ。どうすることもできないことが、この世にはある。


生身の人間は天然記念物になった。

お父さん、お母さん、先生、看護師さん、一度だけ来た電気屋さん。

たったの五人。たったの五人しか人間を見たことがない。画面の向こうにはくさるほどいるのに。シブヤには五月蝿いほどにいるのに。


ともだちと話したい。

会いたい。顔が見たい。

電話がしたい。

せめて人並みにLINEがしたい。

でもどれもできない。

どれもすることを許されない。

それが病気だから。


家族が出かけている間じゅう、ずっと不安でたまらない。このまま誰も帰ってこなかったら。一人で動けなくなってしまったら。この国は私を助けてくれるんだろうか。

何も動くものがない空間で、窓越しに庭の木々だけが揺れる。気まぐれに遊びに来る目白たちが天使に見える。今日もまた一つ、椿の花が落ちる。

外の通りも見えない。人の往来はあるのだろうか。ただそこに居るだけで、はじまりも終わりもあったあの頃。


頼みの綱はインターネット、と思いきや、それすらも満足にできない。痛む手を握り締めながら、せめて自分のペースでと、文章を書いては投稿する。一体誰の需要があって?

人の往来が見たくてSNSを覗く。外にはまだ人間がいるようだ。

人の姿形が見たくてテレビを点ける。人間が笑っている。人間が泣いている。人間がそこにいる。


能動と受動。
一人と集団。
病気と元気。
涙と笑顔。

人は一人では笑えない。


一人が好きってなんだ。

集団を避けて、見知らぬ人たちの往来に囲まれて、人混みに腰を落ち着けて。

一人でいると思っていたあの時間、私は一人ではなかった。

あなたがきっと一人ではないように。


人の孤独を笑うな。



HAPPY LUCKY LOVE SMILE PEACE DREAM !! (アンミカさんが寝る前に唱えている言葉)💞