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名古屋vsマリノスでの交代トラブルは「適用ミスではない」が…。JFA審判マネジャーの佐藤隆治氏が見解「別のやり方があった」【無料記事】

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名古屋vsマリノスで起きた交代トラブルについてJFA審判委が説明

 日本サッカー協会(JFA)の審判委員会は4月3日、報道陣向けにレフェリーブリーフィングを開催した。

 2部構成の第1部では海外の審判員を招へいした審判交流プログラムについての報告があり、それから3月末までにJリーグで発生した事象などについての説明に移った。その第2部の冒頭で、登壇したJFA審判マネジャー Jリーグ担当統括の佐藤隆治氏が「この話からしないと先に進まないかなと思いますので」と言及したのが、明治安田J1リーグ第5節の名古屋グランパス対横浜F・マリノスで発生した交代トラブルだった。

 最初に、佐藤氏は一連の流れを時系列で整理。「まずマリノスの選手が交代の準備を終えて、第4審判も交代ボードで番号等を準備して、『まさに今交代をします』というタイミングでフィールドにいるマリノスの選手(渡辺皓太)が負傷で座り込んだ」ところから丁寧に振り返った。

「これは(マリノスにとって)3回目の交代だったんですね。今はルールで(交代は)『3回、5人』でハーフタイムはカウントしませんというルールでやっているので、マリノスの選手側としてはここで交代をしてしまうと、これ以上の交代ができないということで、『待ってくれ』と。

そこで一度待って、当然そこ(ピッチ)では負傷しているので、第4審判はドクターを入れるか入れないかというレフェリーとのコミュニケーション、それから担架が必要かどうかのコミュニケーションにフォーカスしたわけです。

そうこうしているうちに名古屋の方から交代が2名出て、その交代が終わって、マリノスがもう1人、負傷者の分の交代(渡辺皓太→山根陸)を追加で手続きしている。その時点で名古屋の選手はスローインから再開するための準備が完全に整っている。その中で主審は結果的に試合を再開し、(マリノスの)交代を後に回したということです」

 痛んだ渡辺がピッチの外に出たものの、当初交代予定だった山根陸と畠中槙之輔はタッチラインをまたげず、マリノスは一時的に10人に。そして、次の交代タイミングが訪れる前に名古屋のゴールが生まれた。

 一連のトラブルで交代の機会を逸したことにより、審判団に猛抗議したマリノスのハリー・キューウェル監督にはイエローカードが提示されている。また、名古屋が後半アディショナルタイムに劇的なフリーキック弾を決めて2-1で逆転勝利を収めた試合後に「審判員に対して不適切な言動があった」として、松崎裕通訳に2試合のベンチ入り停止処分が課されることになった。

(撮影:舩木渉)

 キューウェル監督は「名古屋のゴールの場面で背後に抜け出したのは、我々のアンカーがマークしていたはずの選手でした。(中略)もしリク(山根陸)の交代が認められていたら、あの選手(森島)をフリーで走り込めないようマークできていたでしょう」と悔やんでいた。だが、佐藤氏は交代よりも試合再開を優先した清水勇人主審の判断は「競技規則の適用ミスではない」と強調する。

清水勇人主審の「試合再開」判断は「最適解ではなかった」

 こうして主審に明確な誤りがあったことを否定した一方で「最適解ではなかった」との見解も示している。佐藤氏は次のように続けた。

(撮影:舩木渉)

「みなさんが見られて、いろいろなことを感じたと思います。我々も1つずつ分析して、審判員ともすぐ話をして、結論としては『もっとやり方はあった』と。もちろんこれは(競技規則の)適用で何かミスをしているのではなく、主審が最終的に再開という判断をしたということで、再開してはダメだったわけではないと思っています。ただ、一連の流れを見た時に、もう少し別のやり方があったんじゃないか、と。最適解ではなかったと思っています」

 マリノスはすでに2回の交代タイミングを使っており、畠中を投入してしまえば、さらなる交代は行えない。そうした背景もあり一度ストップをかけていたところ、名古屋は2選手をピッチに送り出した。一方、マリノス側は名古屋の選手たちが交代を完了させるまでに畠中と山根の準備を整えていたが、それだけですぐに交代を認められるわけではないという。

「競技者の交代はすごく複雑で業務が多いんです。当然チームとして、そしてみなさんが見られていて、『もう交代できるでしょ』と思われるでしょう。交代する選手がまさにタッチラインの近くにいて『あとは入れるだけでしょ』と思われがちなんですけど、交代する時は審判チームとして3つやらなければいけないことがあります。

交代の『3回、5人』というのを間違えていたら大問題なので、1つは間違いなく交代が3回以内なのか、何人目なのかというの(を確認すること)と、(2つ目は)交代時に提出されている交代用紙とメンバー表との照合です。あとは交代で入る選手の用具チェックですね。それは競技規則で絶対にやらなければならないことになっています。

これに加えて、通常は交代ボードを第4審判が作ります。これは国やリーグ、大会によってはチームが作って持ってくるところもありますが、今の日本では第4審判が作るということで、時間がかかります。そういった中で、監督、コーチ、通訳の方々からすごいプレッシャーを受けたと思います」

審判団の中でコミュニケーションはあったが…

 佐藤氏によれば「第4審判と主審で、『今どういう状況か』というのは確認していた」という。とはいえ「『ここでは交代しません。先にゲームを再開してください』ということはしょっちゅうある」とのこと。今回の事象では「第4審判の方は4thオフィシャル席に戻っているので、主審からすると遠いですよね。そこでまだ(交代の準備が)完了していないんだと主審も思ったでしょう」と、清水主審の判断に一定の理解を示した。

「『もっと待てたんじゃないか』というのは当然あると思います。(試合が)終わってから時系列で追っていけば、そんなに長い時間がかかっているわけではなかったんですね。ただ、ピッチに立ってプレッシャーを受けている時って、時間では短いけれども、ものすごく長く感じるという経験ってありませんか?主審としては早く再開しなければいけない、アディショナルタイム(を短くしたい)やアクチュアルプレーイングタイム(が重要)だという中で、『早く』という気持ちにもなったんだと思います」

 今回の交代トラブルに関しては、担当した審判員たちに「適用を間違っているとは言わないけれども、もっといろいろなことを考えた時に、やり方はあったんじゃないか」という考えを伝えた。また、2日までにJリーグを担当する審判員全員にも映像とともに「これをいいとか悪いとかではなく、もっともっとレフェリーにできることがある。やっぱり11対11がサッカーの基本じゃないか?」という考えを佐藤氏から共有したという。

「必ず11対11になるまで待つか……それはケースバイケースだと思います。このシーンで『副審はこうすべきだった』『第4審判はこうすべきだった』『主審はこうすべきだった』と言ったとしても、(今回の例と)ちょこっとでも違えば、そこから導き出されるやり方は変わると思うので、あえて1つずつどうこうとここで話すつもりはないです。

でも、いろいろなことを考えた時に、(試合を)止めて、交代が全部完了してからやるという方法もあったんじゃないか。いろいろな考え方がある中で、レフェリーがリードしてやっていくことが大事で、みんなに受け入れられるものを目指していくことが大事ではないかという話をさせていただきました」

再発を防ぐための改善策は?

 では、同じような事象を繰り返さないためにどういった改善策が考えられるのか。今回のトラブルには「3回、5人」の交代が可能になったことで第4審判のタスクが過剰気味になっていることも関係しているだろう。一気に大量の交代を申請され、それらを第4審判だけで処理して準備を整えようとすれば、おのずと時間がかかってしまう。佐藤氏も第4審判に対して「過負荷になっていることは間違いない」と認める。

 競技規則上の義務ではない交代ボードの作成を、各チームのスタッフやスタジアムの運営担当などに任せてサポートしてもらうのも一案。佐藤氏は「そういったところも含めてJリーグと話をしていきたい」と今後への見通しを明かした。

(撮影:舩木渉)

 単純に「ピッチ上から選手が欠けている場合は、全員が揃うまで待つ」というのをルールとして明文化するのは難しい。そのルールを逆手に取って、勝つために利用されてしまうことも考えられるからだ。ゆえに「審判がその時、その時の状況をいかに感じ取って、何がこの場の最適解かを考えて導き出していくことの方が、今は大事」と佐藤氏は述べる。

「ルールで決めるのはすごく簡単だし、僕らも言いやすいです。でも、サッカーでは今回と全く同じケースは2度と起こらないですよね。そういった中で、いかに最適解を導き出していくかが、僕ら審判。そこは難しさでもあり、面白さというか、そこをどうやっていくかが主審の腕の見せ所だと思うので、そういったところを(Jリーグで審判を担当する)彼らに考えさせていこうと思っています」

 レフェリーブリーフィングでは佐藤氏から大きな物議を醸した交代トラブルに関して丁寧に説明され、審判委員会としての見解も示された。今回の一件を教訓として、同じような事象が2度と起きないようどのような改善がなされていくかに注目したい。

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