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我が家に子猫がやってきた、という話。

皆様は、NNN(ねこねこネットワーク)という秘密結社についてご存じだろうか。

現在のNNNの知名度がどの程度あるかは分からないが、この組織は、インターネットを介して人々に広く知られるようになった2010年代よりも遥か以前、恐らくは太古の昔から存在している。たぶん。
猫を飼いたいと意識的に、あるいは無意識的に願っている人間の元に、最高のタイミング・最高の手段で野良猫を派遣するのが、この秘密結社の役割だ。彼らは一度リストに載った人間を決して逃さず、一生マークし続けることにおいて、他の追随を許さぬ能力を持っている。きっと。

そして、私と母は恐らく、このNNNのリストに載ってしまっている。
母は人間として見ると多少性格に問題はあるものの、猫に対しては「良い飼い主」であると判断されているのだろう。まぁまぁ価値観の古さなどはあるものの、世代的・地域的に見れば善良な猫飼いの範囲だと思う。

さて、我が家では現在、オセロという名の猫を飼っているが、ほんの数か月前まではもう一匹、「きなこ」という名の茶トラのオス猫がいた。
きなこも元野良猫で、震災の年に我が家の庭に迷い込んできたのを母が保護して飼い始めた。長年オセロの兄貴分として、主に母と寝起きしていた彼だったが、12歳を超えてがんが見つかり、治療も難しいとのことで虹の橋を渡って行ったのが今年の夏の初めの話である。

母はしばらく凹んでいたが、2、3か月経った最近は徐々に立ち直ってきたように見えていた。
そしてつい先日、唐突に生後4か月ほどの子猫を腕に抱いて家に帰ってきた。なんと、車で轢いてしまったというのである。

母の長い長い話をまとめると、こういうことだった。

母は自宅から徒歩5分の距離にあるパート先に、車で向かっていた。その距離でわざわざ車!?と都会の方は仰るだろうが、まぁまぁ田舎というのはそういうものである。
その道中には猫を大量に飼っているというべきか、地域猫にエサやりをしているというべきか、とにかく庭先に大量の猫が常時いるご家庭があり、付近にはしばらく前から子猫が4,5匹駆け回っていた。そして母が車で通りかかる際、その内の一匹を轢いてしまった、らしい。

母が車から降りて確認すると、その子猫は外傷こそ見当たらなかったが、後ろ足が全く動かない状態だった。そして母はその家の人に事情を説明した後(「うちの庭にいるのは事実だが、飼っている猫ではない。気にするな」との話だったらしい)、怪我をさせてしまった子猫を病院に連れて行った。
レントゲン撮影の結果、骨には異常はないとの事だったが、後ろ足が2本とも全く動かない――つまり神経に損傷を負っている可能性があるらしい。
排泄が無事出来るかどうかも不明、足もどの程度回復するかは分からないと言われた母は、事故の後遺症により障害の残る可能性の高い被害者に対し、加害者として補償を行うことにした。つまり、その子猫を引き取ることにした――という話だ。

そんな経緯で我が家にやってきた子猫が、こちらである。

転がって寝ていたのに、スマホを向けたらすぐ起きた。
サービス精神旺盛な模様。

猫風邪・結膜炎・ノミと、保護猫にありがちな標準セットの治療を受けた子猫は、「ポポ」と名付けられた。
命名は私の息子である。なんでも、星のカービィの開発初期の名前が「ポポポ」で、そこから取ったらしい。マニアック。

心配されていた排泄は問題なく出来ていて、翌日には立ち上がって歩けるようになったポポだが、事故から一週間経つ今も、足の片方は上手く力が入らないようだ。
ベッドに飛び乗ったり、猫用オモチャやカーテンにじゃれついたりする動作は出来ているので、飼い猫として暮らす分には大きな不都合はなさそうだが、足に何らかの障害が残る可能性は高いと見た方が良いだろう。
気の毒ではあるが、車に轢かれて即死する猫も多いことを思えば、それ以上の重傷でなかったのを幸運だったと思うしかなさそうだ。

救いなのはこのポポが、非常に人間にフレンドリーな性質をしていて、母が拾ってきた日――つまり事故から僅か半日の時点で、覗き込んだ私や息子にゴロゴロ喉を鳴らしてみせるほど人懐っこいことである。外傷そのものはないために、怪我の痛みもないらしい。
ペットロスに陥っていた母がやる気をみなぎらせて世話を焼いている効果で、毛並みも整って綺麗になったポポは、この一週間でガリガリだった体に少し肉がついてきた。ぽんぽこりんのお腹を晒してヘソ天・バンザイで眠る姿を見る限り、まぁまぁ現在の境遇に満足してくれているようだ。

NNNの采配――と呼ぶには少々過激すぎる出会いの形で、ポポにとって我が家に来たことが「良かった」と言えるかどうかは難しい所だ。事故がなければもっと良かったのは間違いない。
ただ、母にとって猫が必要だったのは事実だろうし、これも一つの縁の形、と思っておくことにしよう。

もう一つ心配だったのは先住猫であるオセロの反応だが、彼は現状、ポポのいる建物――離れにある母の部屋の周りをうろついたり、時折網戸越しにポポと見つめ合ったりしつつも、今の所、極端な反応を見せてはいない。
「狩り」の腕に秀でたオセロは、本質的には非常にビビリな猫である。外で他の猫に出会うと尻尾を3倍ぐらいに膨らませて帰ってくる彼が、ここ数日は通常サイズの尻尾のままでポポを眺めていた所を見ると、ポポの存在について危険がないと認知しつつあるのだろう。
もう少しポポが機敏に動けるようになるか、オセロが狩れないと言い切れる大きさまで育つか、オセロが十分にフレンドリーな態度を見せてくれるようであれば、少しずつ両者を引き合わせていきたい所である。

ペットを飼うのは、人間のエゴだ。だが、イエネコという種族自体が人間のエゴで生み出されたものである以上、中途半端な野生の環境下に生きるよりは、ましてや怪我で足が動かないような状態になってしまったからには、ポポにとってのベストは「人間の家で飼いネコとして暮らす」一択だろうし、その飼い主が母であることは、別にポポの幸福を阻害はしないだろう。

ひとまずポポの風邪が無事に治って、出来れば足ももう少し良くなってくれることを祈りつつ――出来るだけ彼に幸福な猫生を送ってもらえるように、サポートしていきたい所である。

オセロとは対照的に、白多めの配色。
見分けがつきやすく、暗くても視認性が高いのは、人間から見て助かるポイント。



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