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サンテグジュペリ『星の王子さま』を原文で読む(7)

Bonjour ! 今年もいよいよ残りわずかとなりましたね。私の住む浜松の街でも、だんだん Noël (クリスマス)の話題が上るようになりました。多くの店が sapin de Noël(クリスマスツリー)を飾り、その美しさ ( la beauté ) を競い合っています。かと思うと暖かくなる日も多いので、それほど年が押し迫った感じもありませんが。

さて、主人公は王子さまに頼まれた通りにヒツジ ( un mouton ) の絵を描くのですが、どれも弱そうだったり年寄りに見えたりでなかなか相手の気に入るものが描けません。業を煮やした主人公は、半ばやけくそになり「これがヒツジだ」と言わんばかりに次のような絵を描いて渡します。

Alors, faute de patience, comme j'avais hâte de commencer le démontage de mon moteur, je griffonnai ce dessin-ci :
Et je lancai :
-Ça c'est la caisse. Le mouton que tu veux est dedans.

(日本語訳)そうこう言われて、私はもう我慢ができなくなり、(その上)(飛行機の)エンジンを急いで取り外し始めなければならなかったので、私はこの絵を殴り書きし、それから王子に投げつけてやりました。ーほら、これはオリだよ。君が描いてほしいヒツジはこの中にいるよ。

原文の faute de ~ 「~がない(ので)」avoir  hâte de 「急いで~をする」という意味の熟語です。前者の後に来る ( la ) patience は「忍耐」や「我慢」を表す女性名詞で、二つ合わせると「(もう)我慢ができないので」という意味になります。要するに、せっかく描いた絵をあれも駄目これも駄目と言われて腹が立った訳ですね。ところで、後に続く文に griffonnai  lancai という形の動詞が出てきますが、この形は単純過去 ( Passé simple ) と言い、書き言葉で過去のお話を語る場合にのみよく使われます。特に一昔前までのおとぎ話などを原文で読むとお目にかかることが多い用法です(逆に言えば、インターネットでよむ現代の新聞記事や論説文などで使われるケースは余りありません)。

ところが、この絵を受け取った王子の反応は意外なものでした。

Mais je fus bien surpris de voir s'illuminer le visage de mon jeune juge :
- C'est tout à fait comme ça que je voulais !

(日本語訳)ところが、私の若い審判員(※王子さまのこと)の顔が輝くのを見て、私はとても驚いた。ーそうだよ、こんな風に描いてほしかったんだ!

原文の fus も、「~である」を意味する動詞 être の一人称単純過去形で、「私は~だった」と書く場合にのみ用います(会話、すなわち話し言葉では使いません)。また、voir +動詞+名詞 (名詞+動詞)と書くと「・・が~するのを見る」という意味になります。C'est~que...「・・のは~だ」という意味の構文ですが、ここでは「僕(王子さま)が(描いてほしいと)望んでいたのは~だ」という形になる訳ですね。文中の ça は前の内容をさす言葉ですから、要するに主人公が半ばやけくそで書いた絵をむしろ気に入った訳です。tout à fait 「まったく」という意味の熟語ですが、ここでは「そうだよ」と違う形で日本語訳しておきました。

でもよく考えれば、小さい頃にゾウをのみこんだ大蛇の絵を見せて「これは帽子だ」と言われた時と逆の構図になっていますね。主人公は「この中にヒツジがいる」と言って適当に描いたオリ ( la caisse ※「箱」という意味がある)を見せたら、かえって「これが僕の描いてほしかったヒツジだ」と喜んでもらえたのですから。この反転した構図は、いったい何を意味しているのでしょう? これを理解するには、さらに物語を先へ追っていく必要がありそうです。

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