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2020年3月 前橋旅5

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 朝7時に起きる。
 ここ最近、ぐっすり眠り呆けることが少なかったら、まだまだ布団の中で春眠を貪りたいのだけれど、でも旅先の朝にこそ、ぜひやりたいと思っていたことがあるので、もぞりと起きる。そうして、シャッとカーテンを引いて、部屋の中にまぶしさを招き入れる。
 視線を駅前通りへと転がせば、「群馬デスティネーションキャンペーン」の幟が、見るからにバタバタと音を立ててはためいていやがる。何か、昨日より風強そうなんですけど……。
(しかしデスティネーションキャンペーン……多分観光キャンペーンだろうと思いつつ意味はわからないけれど、東京でもポスターをかなり見かけるし、コロナの煽りをモロに受けているんだろうなぁ……)

 えぇ、でも決行しましょう。旅先の朝は、しょっちゅうやってきたじゃないですか。というわけで、さっと着替えて、軽くストレッチをして、ジャージにハーフパンツ、防風グローブという出で立ちで、フロントの方々に会釈をしては外に出て、超久し振りのランニングに行ってきます。旅ラン、朝ランじゃー。

 したら、もちろん寒くって、即座に寒暖差で涙がちょちょぎれて、強風で横に飛んでいくっていうね。何それ。コナンの最初の話じゃあるまいに。まぁ、それでもランニングスタートです。

 本当はGPS付きのランニングウォッチを所持しているのだけれど、充電を忘れてしまったために家に置いてきたので、急遽ランニングアプリを導入し、スマホ片手にジョグを。
 とりあえず昨日何度か話に上がった駅南側を実際に見てみようかと。怪我からの復帰一発目だし、まずはキロ6分半程度で5kmも走れば充分かと。
(日常生活への支障は皆無だけれど、ずっと足の裏を怪我していたので、一年以上走るのを中断していたのです)

 足の裏に繰り返される軽やかな衝撃。規則正しく揺れる脚と、腕。リズムよく弾む呼吸。ずっとこの感覚を待っていた。ずっと待ち侘びていた──という感動に包まれるかと思ったら、いやもう風が冷たくてそれどころじゃないです。涙がはらりはらりこぼれては、風で吹っ飛んでいきます。

 しかしビル風だったのか、駅前通りから外れれば、びゅーびゅーがひゅーひゅーという様相になって。まずは縮こまった体をとにかく温めようと、立ち止まることなく走り続けます。ホテルから西に抜け南下して信号に引っかかったため、付近をぐるりと一周。きっと中学校だろう体育館の裏には、ぽっと一本だけ桜が咲き誇っていました。せっかくだから写真を撮ります。
 そうして再び信号に戻るが、またも赤。仕方ないのでその場で足踏み、地団駄。ようやく道を渡り、そのままガード下をくぐって、駅の南側へと。さて、どのへんを走ろう。もちろん地図なんて持ってないし、スマホで調べることなんざいたしません。なんかいいかも、と思った方向に足を向けるだけです。今思えば、昨夜の飲み屋探訪と一緒だなぁ。

 とにかく南に下っていく。向こうに見えるまるんとした植え込みへと走を重ねます。寒いことはもちろん寒いが、体は徐々に温まってきました。うん、これなら問題なく続けられます。
 すると向こうに、芝生広場のある公園が。もちろん誰もいない。空には襷のような雲が伸びていて、青はどこまでも新鮮で。まだ目覚めたばかりの陽光を浴びながら、カラフルな遊具が佇む公園内をゆるりと巡ります。四兄弟みたいに並んだ背の高い樹木たちが、広場に似たり寄ったりの影を落としているのが何だか微笑ましいです。というか桜の花っぽいのが咲いているのに、同じくらい緑の葉が溢れている。なんだこれは。葉桜? 河津桜? よくわからんが、ぐるぐると数周して、もういいかと住宅街に繰り出します。

 工業高校の芝生の青さに、まっすぐ敷かれたアスファルト、ときおり芽吹いている桜花を映じつつ、家々の屋根の合間からちらりと頂をのぞかせるは昨晩お世話になった赤城山じゃありませんか。どうも、おはようございます。いいお天気で。

 けやきウォークなる大型ショッピングセンターの外周をぐるっと走ります。まだ車のないだだっ広い駐車場を突っ切って走ってみたいが、何だか風が吹きつけてきそうなのでやめておこう。しかしLOFTとか、無印とかあるやん。昨日、前橋には何もないみたいな話を聞いたけれど、ちゃんとあるじゃないすか。というか少しずつ、ふくらはぎの動きが鈍ってきました。30分も走っちゃいないが、そろそろ引き上げ時でしょうか。まぁ、超久方ぶりのランニング。もう充分でしょう。

 NEATなる店名の店を横目にしつつ、最後は駅南口へと。うん、確かにチェーン系の居酒屋が多いかな。探せば面白い店もあったかもだけれど、まぁ昨夜は昨夜で正解でした。
 そして今度はガード下じゃなく、前橋駅構内を抜けて、北口へと。丁度電車が到着したのか、改札機からはご出勤の方々が次々と。そんな雑踏に揉まれつつ、ランニングウェアで駆けていきます。こいつ月曜の朝から何やってんだ、とか思われてそ。しかも気まずいことに、信号を一緒に待つっていうね。いの一番に抜け出しましたわ。
 というわけで戻って参りましたドーミーイン前橋。何か、玄関前にごみ取りネットが落ちていたけれど、これはもしや……。

 フロントの皆様に目礼しつつ、一旦部屋に入って、着替えとタオルを手に、もちろん最上階の大浴場へ、露天風呂へ。冷えた体に、運動でばっちり冴えた思考、晴れ渡った空を眺めつつの温泉とくりゃあ、もう。朝ラン後に大きなお風呂に入れるって、めっちゃ幸せです。そんでもってこのあとは、ホテルの朝食が待っているという。
(というか露天風呂の「虫さんもお風呂が好きなので、入ってきたらそっとすくって上げてください」の注意書きの下に、本来あるべきネットが見当たらず。や、まさか、玄関前に落ちていたのは、ここから風で吹っ飛んだのか?)

 アプリによると4.3kmを平均キロ6分で走っていたとのこと。うん、怪我明けにしちゃ、なかなかいいペースだった。サポーターはつけたまま走ったが、足の裏にも痛みはない。復活と見ていいだろうか。

 さぁ、食堂へ。時間が遅いために、他の宿泊客は皆無。一人でのんびりいただきます。ドーミーインの朝食は以前、地元の名物を提供するバイキングスタイルだったのだけれど、コロナ騒動の影響でバイキングは取りやめになったらしく、キッチンでソースかつ丼と、生姜の利いた豚汁をもらい、プラパックに覆われた6種の総菜と、あとはラップがけされた冷温さまざまの総菜を好き放題に選ぶ感じになりました。

 運動後ということも考慮して、納豆(たんぱく質)とひじき(鉄分)は欠かせません。えぇ、食事での栄養まで考えて走る、割と本気のランナーだったのです。ハーフのベストは83分で、けっこー速かったんです。
 というわけで、いただきます。

 うん、うまうま。ラップがけって、どうにも温かみに欠けるけれど、それでも外して一口やれば、そんなん気にならなくなります。前橋はソースカツ丼も名物らしく、実はホテルの朝食で出ると知って、このときまで控えておきました。
 といっても会津若松やら駒ヶ根の分厚いソースカツ丼とは違って、やや薄目のカツをソースにくぐらせて食べるといった感じです。美味しいけれど、やっぱり肉感に溢れたほうが好きだなぁ。えぇ、ソースカツ丼大好きです。
 もちろん納豆をカツに載っけて食うわけにもいかないので、ご飯をお替わりしてまぜもぐ。ホテルの朝食に、納豆は欠かせませんわ。その他、追加で唐揚げやらポテトやら定番のメニューをさらってきて、最後は牛乳で〆ます。無論たんぱく質。ごちそうさまでした。

 さて、チェックアウトは11時までですが、今日は予約している場所があるので、10時過ぎにホテルを出ます。さようなら、ドーミーイン前橋。今回も最高でした。イメージキャラクターが何だか昔から可愛くはないけれど、まぁ、貫けば愛着も湧くかと。
(ちなみに虫取りネットは玄関前から消えてました)

 ホテルを出て、今日も向かうはレンタサイクルの受付。フリーパワーという何だかペダルが軽くなるという仕掛けの自転車も試してみたかったけれど、用意がないらしく今日も電動自転車です。
 まずは一路東へと、国道50号を攻めます。しかし車道との段差が多いし、時間にも余裕があるので、国道から外れて住宅街の中を駆けていきます。日常の風景の中を走りたいのです。
 そしたら大学病院の解体現場に出くわしたり、良さげなカフェを見つけたりと、道行きが楽しいものへと変じていきます。交通量もほとんどないので、気も軽くペダルも軽く。
 っと、電線の向こう、遠くにそびえる富士みたいな偉容は一体何という山だろう。真っ白に冠雪している、その姿から榛名富士かと適当に推測するが、多分違うでしょう(榛名富士=榛名山なので違いますね)。

 そんなこんなで30分以上自転車を漕いでたどり着いた赤城フーズの工場。銘板には「赤城漬物工業株式会社 東前橋工場」と。えぇ、漬け物です。氷菓のほうじゃないです。

「群馬県は和歌山についで、梅の生産量、日本2位なのよ」と、昨日の飲み屋でも聞いておりました。というわけで、梅干し……ではなく、カリカリ梅の工場見学にやってまいりました。
 梅、大好きです。カリカリ梅も好きです。これ書いている今も、よだれが出てきます。

 さて、まずは見学予約の方は売店へと案内書きがあるので、向かおうとしたら……「緊急特別企画 観光バスの自粛長期化により在庫過剰となった商品を大放出!」。つまりは最高半額まで値引きしますと。確かに工場見学と言えば団体客だろうから、影響は大きいよなぁ……、と売店に向かいます。予約時間10分前の到着です。

 店内にお客さんはいたが、丁度買って帰るところだったので、見学は自分一人。売店のお兄ちゃんが、マンツーマンで工場を案内してくれます。
 まずは売店を出てすぐにある八尺の大樽。昔はこれで梅を漬けていたとか。続いて現在の製造ラインを窓の外から眺めて巡ります。店員さんが後ろ向き、つまりこちらと向き合いながらてくてくと歩きつつ、様々説明してくれます。途中、VTRも見るのだけれど、青梅たちがころころとラインの上を転がっていくのが可愛いです。お菓子などの人工的な製品ではなく、生の実そのものだから何だか愛嬌があります。手作業で梅の種を抜いていく工程なんかも、少し離れた位置から眺めさせてもらいます。
 いやはや、20分弱程度でしたが、なかなか面白かったです。

 そうそう、ここのカリカリ梅は国産です。コンビニやらで見かける一般的なカリカリ梅、というか梅商品って国産じゃないことが多いから、個人的にはすんごく貴重な会社さんだと思います。
 しかも、初めてカリカリ梅を作った会社でもあります。

 さて、その後はもちろん売店での試食そして購入であります。一人のためにちゃんと案内してくれた報いをしましょう。
 というか、試食の量が物凄いね。カリカリ梅だけでも十種類以上ありました。片っ端から、というわけにはいかないけれど、気になったのはカリカリします。お茶もサービスであるので、食べては飲み、です。
 2000円以上買えばくじ引きを実施しているとのことなので、その金額になるよう計算してカゴに入れていきます。カリカリ梅だけでなく、梅干し、梅ひじきなんかも手に取っていきます。

 そうしてレジを通してもらったら、2000円ちょっと。やりました。そのままくじコーナーへ行き、駄菓子が入ってた感じの透明な円柱ケースに割り箸がびっしり。お兄ちゃん、引っ繰り返しては赤色──当たりの位置を裏側から見せてくれます。「憶えてくださいね」と。そこから元の位置に戻し、大体この辺だったよなと引っこ抜けば、おー、ハズレ。でも、残念賞のカリカリ梅の漬け物をいただきます。
「大変でしょうけど、どうか頑張って下さい」とエールを送り、お店をあとにします。
 いやー、来て良かった。わざわざ一人のために、どうもありがとうございました。(続→
(現在、オンラインでも割引セールはやっているので、お好きな方はゼヒ)

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