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物語『桜の花が咲き乱れる河原で』

 苦しみから解放され、心のやすらぎを感じることができる物語。                               ユージは気づきます。「本当の自分は、目には見えないエネルギーなのだ。すべての動植物の体の中に流れ込んでいる『大いなるいのち』が、自分の中にも流れ込んでいる。自分は限りない力を持つ存在だ」と・・・。
 ユージは、生きる勇気を取り戻し、「結果など気にせずに、今この瞬間に全力を尽くすぞ」と誓います。

 春、四月。河原には数えきれないほどたくさんの桜が咲いていました。
高比良ユージは桜並木を歩いていました。ユージは中学校を卒業したばかり。しかし、県立高校の入学試験で不合格となり、落ち込んでいました。
 ユージは歩きながら、考えました。
「県立高校に落ちた僕は負け組だ。これから僕は苦しみ続け、そして、いつか死んでゆく。どうせいつか死ぬとわかっているのに、生きることにどんな意味があるのだろう?」
 ユージは桜の木の下に座り、いつしか眠ってしまいました。
 夢の中でユージは桜の花びらになっていました。ユージは右隣りの桜に言いました。
「僕という桜の色と形を見てよ。どうだい?  僕みたいにかっこいい桜はいないだろう?」
 右隣りの桜が言いました。
「そうですね。私は年寄りの花びらで、色も形も醜いです」
 年寄り桜は淋しそうに泣きました。
 しばらくして、ユージの左隣りの若い桜が威張って言いました。
「やあ、ユージ。俺という桜の色と形を見てよ。誰よりも美しいだろう?」
 ユージは舌打ちして、言いました。 
「確かに君の方が僕よりも、色も形もいかしている」
 その時、白髪の老人がユージの下に立ちました。老人はユージに言いました。
「ユージ。まわりをよく見るんだ。お前は、お前のまわりにある数えきれな桜と同じ、『いのち・・・目に見えないエネルギー』だ」
 ユージは老人に向かって言いました。
「いいや。僕は他の桜とは違う。僕は色も形も段違いに素晴らしいよ。確かに、左隣りの若い桜には負けてしまうけど」
 老人は言いました。
「お前は単なる肉体なんかじゃない! お前も皆と同じ『いのち』だ! そして、ここに咲いている、すべての『いのち』は、やがて『大いなるいのち』へ還っていく」
 ユージは震えながら言いました。
「僕もいつか死んでしまうんだ」
 老人は首を縦に振って、言いました。
「すべての肉体は滅んでいく。お前だけじゃない。しかし、『いのち』は・・・」
「いやだ。僕は死にたくない。どうすればいいんだ?」
 老人は静かに言いました。
「ユージ。曇りなき眼で、『本当の自分』が何者かを見極めるんだ。そうすれば、お前は苦しみから解放される」
 老人はそう言うと、歩き去りました。
 ユージは自分に問いました。
「『本当の自分』って、何だろう?」
 それから毎日、ユージは考え続けました。
「僕は今まで『自分とは肉体だ』と思ってきたけれど、違うんだ。肉体は単なる衣のようなものだ。本当の自分は、肉体の中に流れている、見えない『いのち』のエネルギーだ。見た目の良し悪しは重要ではないんだ!」
 ユージはその後も考え続けました。
「僕は今まで『自分とは心だ』と思ってきたけれど、違うんだ。まわりの人と自分を比べて、優越感を感じて喜んだり、劣等感を感じて落ち込んだりしてきた。でも、本当の自分は、『小さなエゴ』の心を意識できる、『いのち』のエネルギーだ。頭の中の思考や悲しみや劣等感やエゴ意識は、僕ではないんだ」
 ユージは叫びました。
「自分の中には、『いのち』と呼ばれる、見えないエネルギーが流れている。だから、生きていられるんだ。すべての動植物の中に流れているエネルギーと同じものが、自分の中に流れている。つまり、宇宙の生命体すべてに流れているエネルギーの一部が僕の中に流れている。自分は『大いなるいのちの一部』であり、本質的には『大いなるいのち』と同じものなんだ! 僕の中には無限の力が秘められている。小さなエゴを忘れて、自分の中に流れている偉大な力を発揮するんだ」
 さらに、ユージは叫び続けました。
「なぜ僕は人間の肉体を与えられたのか? なぜ僕に『大いなるいのち』のエネルギーの一部が流れ込んだのか? それは僕に果たすべき使命があるからだ。そして、僕の肉体が滅ぶ時、自分の中の『いのち』は、宇宙に流れている『大いなるいのち』のもとへ還っていく。死ぬことはこわいことではなく、本当の自分に還ることだ。喜びなんだ!」
 その時、ユージは目が覚めました。
 ユージの傍に白い犬が立っていました。そして、「ワン!」と吠えました。
 ユージは答えました。
「わかったよ。僕は自分の使命をはっきりさせて、その実現のために百パーセントの力を注ぐよ。結果など気にせずに、今この瞬間に全力を集中させるよ」
 ユージは立ち上がって走り始めました。



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