
地方のWeb制作屋として働くWebディレクターが直面した課題
前回の記事では、地方のWeb制作の特徴と魅力について自分なりに整理しました。
今回は前回よりも踏み込んだ内容として、「地方のWeb制作において、Webディレクターが直面した課題」について、自分なりの言葉で執筆します。
自分は経営者ですらなく、現場で働くWebディレクターなので、現場主観に偏った内容になっていることはご容赦ください。
また、本記事は関係会社や地方制作を否定するものではなく、自身が直面したこれらの課題に対し、地方で働くことを決めた自身が取り組むべきアクションを整理することを目的として執筆しています。
前回の記事はこちら
ディレクターは地方企業の課題全般に取っ掛かりやすい
前職の時に大変お世話になった上司に、「ディレクターは何でも屋だ。様々な人とコミュニケーションも取りながら、自分で考えて行動しなければならない職種だよ」と新卒の自分は教わり、
その言葉を胸に、お客さんの中のWeb担当者と一緒に制作を行いつつ、社内の制作メンバーやクライアントの間に立ち、プロジェクトの全体を調整しながら走り回っていた記憶があります。
とはいえ当時の自分としては、お客さんの事情に踏み込みすぎず、「Web制作やWebに関わる課題解決」の領域内に限った何でも屋として動くものだと思ってました。(クライアントの規模が大きいと、課題の影響範囲も広いため。)
その後、北海道に戻ってきて、地方企業のお客さんのお仕事させていただくと、あることに気づきます。
「Web制作に留まらず、顧客の課題を発見し解決するためなら何でもする屋」でなければ、クライアントのオーダーに応えられない。
なぜなら、やりとりの窓口が社長、取締役クラスであることがほとんどで、今までは考えなくて良い、避けてしまっていた「企業が抱える根本的な課題」の相談が増えてくるからです。
「ただ依頼通り制作しただけ」では、地方企業の抱える課題へ根本的な解決提案には至らないのでした。
依頼された範囲のみを対応するプロジェクトの限界
「依頼された範囲だけ対応する」ことは、受託事業において間違ったことでなく、むしろ契約上は正しい対応だと思います。
しかし、地方企業が抱える課題は、企業側の若手不足、人材不足、企業の求心力の不足など、より深刻な問題が複雑に絡み合っていて、「Webサイトを作ってほしい」という相手の依頼には、数ある問題が紐解かれないまま、複数の意味合いを込めて「サイトを作って欲しい」になっている。
「なぜコーポレートサイトをリニューアルするのか?」「なぜサイトを今このタイミングで立ち上げるのか?」
きっかけは「今どきのWebサイトにしたほうがもっと採用者の応募が増えるのではないか」とか、「Webサイトがあったほうが、顧客からお問い合わせが増えて売上が伸びるのではないか」「どこも他の会社はやっているよ」と営業を受けただけかもしれません。
そのきっかけから、「よし、会社の予算からWebサイト制作に○百万使ってみよう」と決断されたからには、最低限でも金額に見合うバリューは何なのか、いつまでにどのような課題を解決し、目標を達成するのかなど、中長期目線で一貫性のある戦略を立てる必要です。
その戦略を立てた上で、依頼側と受託側が意気投合し、共に挑んでこそ目標達成に近づくと思っています。
この決して安いとは言えないWebサイト制作費を、「サイトを制作する費用」だけに割かれる地方企業は多いし、制作会社側も受注することに必死になり、クライアントが抱える課題を一緒に紐解くことや、受注した後の課題解決方法のことは二の次になっていることに頭を抱えました。
計画の1つ,2つを顧客と一緒に未来を考え、意気投合する期間すらなく、制作がスタートする。
「Web制作だけを依頼する」側と「依頼された範囲だけを対応する」側。
Webのプロフェッショナルであり、顧客が抱える根本的な課題解決に繋げる施策を行わないと、長期的な結果に繋がらないとわかっているはずの制作会社が、Webの事がわかっていない依頼側に歩み寄りをせずに、ただ依頼された通りのことを行い、受身で対応し続けるサイクルは、受託制作の限界としても感じていました。
地方企業が抱えるのは、共創するプロジェクトの機会が少ないこと
あるコーポレートサイト制作を例に挙げます。
リニューアルの目的は「新しいデザインに刷新したい」という話だったとしても、裏側にある「企業の魅力が社員に伝わっていない」「求職者に自社の事業や魅力が伝わっていない」など、企業経営の課題が垣間見え、それらの解決の一部分をコーポレートサイトの制作に期待されていました。
大企業でも同様の問題が起きているかもしれませんが、地方企業では、大企業より事業・経営課題が深刻化していることも多いです。
無論、Web制作をする上で解決できることは、「すでに言語化されている発信内容」を、Webという媒体で、わかりやすくデザインし、ターゲットに届けるです。
そもそも「その企業の魅力が足りていない」場合、根本から解決するつもりがなければ、見せ方が変わるだけのものに過ぎず、
企業の魅力を見つけ、定義し、再認識するのは、Web制作とは別の工程となります。
たまたま「Web制作会社」という第三者が、Web制作というきっかけから、顧客企業の内情や背景を知り、企業の魅力を社長と一緒に再確認し、それをサイト上に表現するチャンスがあるというだけだと思いました。
第三者といえば、Web制作会社以外にも、「コンサルティング会社」「アプリ・システム開発、保守会社」や「印刷会社」など、いくつも顧客を客観視してくれる企業はあります。
しかし、地方ではそのような外部との接点が少ないように思いますし、あったとしても下請け扱いが多く、下請け側も言われた通りに動く、でお互いに完結していることが多いのではないでしょうか。
「一緒に考えて、良いものを作る」ことを意気投合しやすいのは、Web制作の特徴なんだと身をもって感じた瞬間でした。
(もちろん、制作会社でも下請けマインドで動いていたら、前者と同様ですが。)
実際にWebサイトの内容について顧客と一緒に考え、悩み、共創する場面では、「初めてこういった自社の内情を話しました」とお話しいただく事が多い印象でした。
低予算内で進めるプロジェクトの課題
中小企業向けの補助金を活用したWeb制作は非常に増えています。
補助金申請の際に、制作する対象物や上限金額など、制約のある中で制作を進め流のですが、大体は補助金の予算内で収まらないような規模の制作依頼が頻発しやすい印象にあります。
制作会社としては、「収まる範囲内はここまでの規模」をお伝えするが、1つのWebサイトを制作する中での規模の違いを伝えることは中々に難しい。
まして、地方の中小企業によっては、頻繁にWeb制作を発注するような機会もないので、クライアント側は提示された金額の妥当性を判断することが困難な事だと思います。
制作する側も低コストでの制作は限界に近く、クリエイターは、制作として動いた時間=コストという扱いになるため、低予算では制作時間をなるべく抑える必要もあります。
また、最近の業界的にも言われている「Webデザインの陳腐化」によって、制作者側がコストを削りすぎてしまうと、「昨今のテンプレートを使ったサイトよりも凡で品質も悪くなる」危険性すらある状況。
質の良い制作を短時間で進めるための努力は、人材の乏しい地方では個々人の努力に委ねられ、個々人の努力する人・しない人で差がどんどん広がっていく。
少ない社員の中でこんなことが起きている状態で、どのようにスキルのベアアップを図っていくのか、制作会社の経営課題も大変なものだと思います
ここで私が言いたいこととしては、補助金を使った制作が悪いという話ではなく、「しっかりと時間とコストを捻出し、戦略を練った上で制作ができない」ことです。
補助金は予算の上限と、使用用途が限定されており、申請できる期間が決まっているため、「申請に間に合わせるために、とりあえず急いで作ろう」という流れになりやすく、一度立ち止まって考えてから動くことが難しくなります。
そして、「補助金」は自社の予算外から発生するお金なので、「失敗してもいいからとりあえずやってみようか」というマインドで進めやすいし、そのニュアンスがヒアリングでも感じます。
とりあえず行動しつつ、その都度柔軟に進めることは悪いことではありませんが、Web制作は最低でも数ヶ月かかるプロジェクトであり、計画せずに行動したことで、あまり成果に繋がらず失敗に終わることもある。その場合に失った時間は、決して安い代償とは言えません。
(計画が無いと、振り返りの反省も難しいのが現実。)
臨機応変に進めることと、計画を立てずに進めるのでは、たどり着くゴールもまったく違ってくると思います。
ディレクターに求められるスキルセット
なるべく制作にかかる費用を抑え、短期間で効果が期待できるWebサイトを作るためには、フロントに立つディレクターのスキルセットが重要です。
ワイヤーフレームが引ける、一通りのWeb制作の流れがわかる、デザインや開発の制作進行ができる、クライアントとコミュニケーションが取れるだけでは、地方のWeb制作は支えられないことが身をもって痛感しました。
人材が豊富な首都圏と比べ、地方には各分野で専門経験を積んでいるプロフェッショナルは中々に少ない。自分だけで専門家レベルの知識は不要だと思いますが、顧客のビジネス理解とWebサイトの指針や、戦略を自身で導くことができる以下のスキルセットは必須だと思いました。
顧客の課題を整理し、中長期的な戦略プランニングが立てられるスキル
初対面の顧客と、ヒアリングしながら信頼を獲得できる関係構築力も必要
顧客の業界市場動向の知識と、ユーザーの行動分析能力
それを的確にスピード感をもって調査できるノウハウも必要
ビジネスへの理解、問い合わせから売れるまでの仕組みの理解
実際の案件では、十分に理解を深める時間が限られている分、読書や新聞記事等で情報を知識にうまくインプットできるようになろうと思います。
今回は自身が地方へUターンし、実際に自分が直面した課題について執筆しました。
この課題に対しどのように乗り越えていくべきは、次回に整理することにします。
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