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生活と文化の研究誌「報徳」

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『報徳』は、明治35年に創刊された月刊誌です。 ・毎月、報徳に関わる様々な切り口で特集を組み、研究者や会員の皆様にご寄稿をいただいています。 ・全国各地の報徳運動の様子をご紹介… もっと読む
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記事一覧

沖縄本土復帰から五〇年(『報徳』6月号巻頭言より)

「本土並み」の実現に向かって

 一九七二年、昭和四十七年に沖縄が日本へ返還されてから、今年で五〇年である。五月十五日、国と沖縄県合同で記念式典が開かれた。岸田文雄首相は基地負担軽減に全力で取り組むと強調し、玉城デニー知事は、沖縄を平和の島にする目標が未だ達成されていないと訴えた。辺野古基地の断念と日米地位協定の見直しの建議書を日米両政府に提出している。
 太平洋戦争で本土の盾となって戦った沖縄で

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遠きをはかる者は富み、近くをはかる者は貧す(2022年『報徳』新年号 巻頭言)

オミクロン株

デルタ株に代わって新たに変異したオミクロン株が世界的に蔓延を始め、第六波が懸念されるなかで新年を迎えました。ともあれ新年、良い年になるように努めてまいりましょう。

この二年間のコロナパンデミックによって、日本では二万人近くが亡くなり、世界の死者は五百万人を超えています。昨年の年始めは、日本で二千人、世界で百五十万人でしたから、猛威のほどが伺われます。PCR検査の徹底による予防隔離

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万象具徳 以徳報徳 不壊世界(2021年『報徳』新年号 巻頭言)

コロナ禍の中で

コロナ・パンデミック真っただ中での新年です。世界で七千万人が罹患し、一五〇万人が亡くなり、日本でも一七万人が罹患して、亡くなった方は二千人を超えました。

一〇〇年前のスペイン風邪では、世界で五億人が感染し、世界人口二〇億人の時代に死者は五〇〇〇万人から一億人といわれています。日本では人口五五〇〇万人のうち二四〇〇万人が罹患し、四〇万人が亡くなりました。  スペイン風邪は、第一次

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「物の見えたる光、いまだ心に消えざる中に言い止むべし」有馬朗人先生を偲んで(2021年『報徳』2月号 巻頭言)

原子核物理学者

有馬朗人先生は、昨年末の十二月七日、心不全で急逝された。九十歳だった。一昨年の『報徳』新年号で、浜松中学同期の中村雄次さんと共に鼎談をさせていただいた。中村さんは十二月二日には浜松の同期会で、先生の談論風発を楽しんだばかりだったので、仰天されたという。矍鑠としておられ「やりたいことが沢山あって、百二十歳まで生きないととてもやりきれない」とよく言っておられたから、一番驚いたのは先生

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「報徳文化研究所」の実現に向けて(2021年『報徳』4月号 巻頭言)

報徳思想の強い生命力

NHKの大河ドラマ『晴天を衝け』が始まりました。江戸末期に生まれ、明治、大正、昭和を生きて日本の近代化に決定的な貢献をなし、日本資本主義の父といわれている渋沢栄一の物語です。

渋沢栄一と二宮尊徳とは深い関係があります。尊徳の高弟の富田高慶は、明治維新直後、報徳仕法の大切さを西郷隆盛に説きました。西郷はその話をどう進めるか、当時大蔵省の吏員だった渋沢に振っているのです。変転

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核兵器禁止条約の発効に思う(2021年『報徳』3月号 巻頭言)

核兵器は違法になった

二〇二一年一月二十二日、核兵器禁止条約が発効しました。昨年の十月二十四日、ホンジュラスが批准書を国連に提出し、批准国が発効に必要な五十カ国に到達したからです。十二月十一日にはアフリカのペナンが批准書を提出して、批准国は五十一カ国になりました。批准はしていないが賛同している署名国は八十六カ国で、国連加盟国の一九三カ国の七割を占めています。

新しい国際法の誕生です。核兵器の開

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変革者の肖像先農殿の佐藤信淵(2021年『報徳』5月号 巻頭言)

四月には例年、本社常会に先立って「二宮尊徳・佐藤信淵両先生の例祭」が行われます。今年も、四月四日、龍尾神社の龍尾重幸宮司を斉主に取り行われました。

岡田良一郎は、報徳社を指導する二宮尊徳を先聖殿とし、農学舎を指導する佐藤信淵を先農殿として尊崇しました。大講堂の講壇の上には、九州秋月藩の藩主だった秋月種樹による「先聖殿」「先農殿」の書が掲げられています。

『祭る文』には、「全く同徹一体の哲人と謂

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To be or not to be, that is the question――このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ――宮城聰さん演出の『ハムレット』(2021年『報徳』6月号 巻頭言)

静岡舞台芸術センター・SPAC

宮城聰さんが芸術総監督を務める静岡舞台芸術センター・SPACは、魅力的な舞台作品の提供と共に、国際演劇祭や高校生の演劇アカデミーを開くなど、多彩な活動を展開している。

「ふじのくに野外芸術フェスタ」もその一つで、最近も報徳社大講堂前の広場で、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を翻案した『おおっと ええっと ええじゃないか』を演ずるなど、市民との直接交流のユ

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白牡丹 というといえども 紅ほのか(2021年『報徳』7月号 巻頭言)

国民の良き自覚

ワクチン接種が世界的に始まり、コロナ・パンデミックも終息に向かうことが期待されている。しかしコロナは、細胞を持った細菌と違い、ウィルスである。細胞のある細菌は絶滅できても、生物といえないウィルスは絶滅できるのだろうか。アフター・コロナは、ウイズ・コロナの時代になるのかもしれない。

その視点からみれば、これまでの政府の対応は、ツボを外していたとしか言いようがない。なぜなら対応は、

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尊徳のいう「天地の経文を読み解く」力柳澤伯夫著『平成金融危機――初代金融再生委員長の回顧――』を読む(2021年『報徳』8月号 巻頭言)

経済とは

コロナ禍でなお更に経済の行方が不透明である。二宮尊徳の道徳と経済、渋沢栄一の論語と算盤なども、経済活動の根本を押さえる考え方を示していると思うが、現代の具体的な問題となると、何とも複雑で判らないことばかりである。丁度そこに柳澤伯夫さんから『平成金融危機』が送られてきた。これだと、飛びついて拝読した。

バブル経済の崩壊の後に顕在化した金融危機は、一歩を誤れば、金融システムの崩壊、そして

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日本経済思想史学会のシンポジウム「報徳と協同の思想――自治・実業・教育――」から(2021年『報徳』9月号 巻頭言)

学問の成果を共有財産に

日本経済思想史学会の第三十二回大会は、報徳運動を取りあげ、「報徳と協同の思想――自治・実業・教育――」を共通論題として発表討論が行われた。コロナ蔓延のなか、六月十二日(土)十三日(日)、リモートで開催されたが、本来なら、掛川の大日本報徳社の大講堂での開催が予定されていた。

報徳運動が学問的に取り上げられ、批評や評価を受けることは、私たちの運動を進めて行く上で、大きな宝で

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沈む夕日の美しさで町おこし――若松進一さんとの対話――(2021年『報徳』10月号 巻頭言)

生きた言葉

木下彰二さんが先月号の「愛媛報徳社レポート」で、「一日三枚のはがきを出すと幸せになります」という若松進一さんの言葉を紹介していた。久しぶりに若松節に接して心がときめいた。

四国は愛媛県、今は伊予市になっているが、上灘村と下灘村が合併して出来た双海町。伊予灘に面し、山が海岸にまで迫ってくる十六キロの海岸線の町で、昔から地引網によるイワシ漁が盛んな、ミカンと漁業の町である。しかしいずこ

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アフガニスタンからの米軍撤退に思う――民族自決をめぐって――(2021年『報徳』11月号 巻頭言)

かつて見た光景

既視感(デジャヴュ)という言葉がある。既にどこかで視た光景ということだが、八月三十日、カブール空港からのアメリカ軍撤退のニュースを見ながら、一九七五年四月三十日、サイゴンで繰り広げられた光景と重なった。

ベトナムは、一九四五年に太平洋戦争終結と共に独立したが、フランスが介入して戦争になった。ホーチミンは、フランス軍の拠点ビエンビエンフ―を五四年に陥落させ、フランスを撤退させた。

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旅する神秘の蝶 アサギマダラ(2021年『報徳』12月号 巻頭言)

蝶に魅せられて

小学校から中学時代にかけて蝶に夢中になった。夏休みの宿題で標本をつくったのがきっかけだったろうか。ツマキチョウ、モンシロチョウ、アゲハチョウ、モンキアゲハ、ルリタテハ、等々。採集もしたが、食草を調べて卵を見つけて育てたりもした。

日本には二〇〇種類の蝶がいるというが、私の村で捕まえられる蝶は二〇種類もない。国蝶のオオムラサキも、春の舞姫ギフチョウもいない。京都への修学旅行のとき

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