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【#Real Voice 2022】 「人間的思考からの脱出1歩目」 2年・橋爪瞭

ブログとは ウェブログweblog(「ウェブ上に残される記録」の意)が短縮されブログと称されるようになり、内容は政治・社会問題に言及するジャーナリスティックなものから、個人的に興味のある、いわば趣味的な話題に関するもの、日々の雑感を記した日記風のものなど多様である。と日本大百科全書に記されている。
そこで、今回は何かに向けて思いを伝えるというより、自分が日常を過ごしていて興味を持ったことについて、飄逸と綴っていることを先に断っておく。


人間はせわしなく生きている。

アラームを止めては二度寝をし、起きたと思えば夢の中。パンを加えて家を飛び出し、忘れ物を発見しては慌てて引き返す。日々、閉じるか閉じないかの電車に滑り込み、1日というスタートを切る。流石にここまで漫画のように過ごしている人はいないと思うが、朝は戦いかのように思って生きている人は多いはず。
ゆっくりと起床し、温かい紅茶を入れる。朝ドラを見て、一服をしてから出発する。こんなことが出来ている人なんてごく一部。例外であろう。

多事多端に過ごす毎日の中で、ゆっくりしたいもっと寝たい。このように考える人は少なくないと思う。
ここで1つの疑問をいだいた。
自分が人間ではなく、他の生き物だったらどのような日常を送れるのだろうか。日向ぼっこをして昼寝して、移動してはまた日向ぼっこを繰り返す猫のようにのんびりとした時間を送れるのだろうか。
人間という世界の中で生き、自分が人間という生き物のスピードで移動しているために、この時間の流れ方が当たり前に思っているだけではないのか。
もし人間の移動スピードがめちゃくちゃ遅かったらどうなるのだろう。

こんなことを気にしているうちに、地球上でもっとも遅く移動する生物について考えたくなった。

はじめにナマケモノが頭に浮かぶ。けれど、ナマケモノは同じ場所にずっと居座っているだけでほぼ動かないし、知らないだけで動き出したらめちゃくちゃ速いのかもしれない。
他にどのような生物がいるだろうか。のったり、のったり進む生き物は。

ナメクジはどうだろうか。

実際に地球上の生物の遅さランキングについて調べてみると、1 番が貝類であった。けれど貝類が移動するイメージはあまり湧かない。2番目、ここでナメクジが登場する。秒速1~4mm という驚異的な遅さで進む。ちなみにナマケモノは秒速3㎝で 4 番である。(検索サイトによって違いあり)。

4G から5G ネットワークへの変化や日々進化する光回線。新幹線よりさらに速いリニアモーターカーの開発。AI 化による製造ラインの進化。新たな高速道路の建設。身近なことだと切符からICOCAやSUICAなどのICカードへの変化による移動時間の短縮化など。これらのように、現代を生きる我々は知らず知らずのうちに「速さ」について考えさせられ、気づかぬうちに実感している。
速さが求められる今だからこそ、スローワールドの英雄とも言えるナメクジが興味深く感じた。

そのため、ここからはナメクジについて触れていこうと思う。

ナメクジ。
ヌメヌメとした体で気持ち悪い。ジメジメとしたところに生息し、気持ち悪い。ゆっくり進み気持ち悪い。とりあえず気持ち悪い。
これが一般的な意見であり、決して間違っていないと思う。
ナメクジは害虫であり、葉物野菜に1回入ると居続け、果物などに這い跡がつくと商品としての価値がなくなる。農業者にとってナメクジの被害は深刻なものである。

はい、これでナメクジの説明は終わり…。とはならない。決まり文句のように「ナメクジは気持ち悪い」が先行して、ナメクジについて多くを知らない人が多数であろう。
もっとナメクジを知ることができれば、何かしら学べることがあるのではないか。このように考え、ナメクジについて学んだことの中で関心を持ったものをいくつか記す。
(以下、松尾亮太『考えるナメクジ』株式会社さくら舎 2020 年 5 月発行より一部引用)。

•食べ物は全身をめぐる消化器官を通過した後、糞として体の右側にある孔から排泄される。この排泄孔は呼吸孔と出入口を共有しており、排泄をしていない時は、ときどきこの孔を開いて、外の新鮮な空気を取り入れている。呼吸孔と肛門が共有されているというある意味シュールな体のつくりになっている。

•ナメクジがゆっくりと進むのにも意味がある。ナメクジはつねにまわりの様子を触覚で探りながら這い進み、採るべき進路を周囲の科学情報に基づいて慎重に判断し、一歩一歩着実に進んでいる。また、あえてゆっくり動くことで、動くものの検出を得意とするカマキリや鳥などの捕食者に見つかりにくくなっている。

•ナメクジは1回の学習だけで非常に長期間にわたる記憶を形成できる。線虫やアメフラシ、そしてハエなどでは記憶が成立するためには複数回の繰り返し学習が必要であるうえに、どれも数時間から数日以内しか記憶を保持できず、すぐに忘れてしまう。ところがナメクジは最長で 2 ヵ月くらい「まずかったもののにおい」を記憶している。これはナメクジの寿命が1~2年程度であることから考えると、後にも示すが、かなり小さい脳であるのにも関わらず、驚くべきことと言える。

•ナメクジの脳は頭部にあり、成体のナメクジの脳の大きさは1.5mm角くらい。この 1.5 mm角の脳に含まれるニューロンの数は数十万個とされており、ヒトだと数百億個のニューロンが脳にあるとされているので、ヒトの 10 万分の1程度の数しかニューロンを持たないことになる。その脳の中心に食道が通過しているので、口から入った食べ物は、脳の真ん中を通過していくことになる。ヒトに置き換えて考えてみると少し奇妙な感じがするかもしれないが、昆虫も同様な作りになっているため、むしろ食道の周囲を脳が取り囲む構造の方が、動物の世界では普遍性のあるボディープランなのかもしれない。

先ほども述べたがナメクジの脳はヒトの脳に比べて10万分の1程度の数しかニューロンを持たない。それであるのに、ヒトの脳ではできないことをやってのけるのである。たとえば、ナメクジは、単に匂いと嫌いな刺激を結びつける「学習」だけでなく、もっと難しい「論理思考をともなう連合学習」もこなす。論理思考ができるとは、わかりやすくいえば「A=B で B=C であれば、A=C」といった理屈が分かるということ。
また、脳や触覚は破壊・切断されたまま放置されてもひとりでに再生できるし、取り出された脳自体もそのまましばらく生き続ける。必要となれば DNA を、倍々ゲーム方式で何千倍にも増やすこともやってのける。
さらに、触覚の先端にある眼を除去されても脳で直接光を感じ取り、暗い場所へ逃げ込むことだってできる。
これらはどれも人間の脳にはマネできない能力だといえる。
このように松尾氏(2020)は述べている。

以上のようなナメクジの特性を知っていた人はどれくらいいるのだろうか。
ナメクジが名を馳せた背景には、決して旺盛な繫殖力だけでなく、人間の脳ではマネできないすぐれた脳力を持ち合わせていたからだと言えるのではなかろうか。
すぐれた脳機能で繫栄を築いたのは、人間だけではないのである。

我々は人間の世界に生き、人間としての空間を過ごしている。けれど、それは生物全体として見ればニンゲンという一種の枠組みでしかなく、小さな世界で生活しているだけなのであろう。ナメクジの生き方について調べたことで、もちろん人間にしかできないことは多くあるにせよ、なにも人間だけが進化し、特筆すべき能力を持ち合わせているわけではないことがよく分かる。
今からナメクジとして生きることはできないし、これからナメクジの脳力を手に入れることももちろんできない。しかし、ナメクジのように動くことはできるのではないか。
急いては事を仕損じるや、走れば躓くということわざが古くより伝えられてきていることからも、必ずしも速く物事を行うことだけが最善とは考えられていない。つまり、遅さに注目し、利点を感じていた人がいるということだ。
目まぐるしくものが行き交い、速さが求められる現代だからこそ、あえてナメクジのようにゆっくりゆっくりと、遅く遅く移動してみると、今まで気づかなかった新しい景色や世界が見えてくるのかもしれない。
そしてそのナメクジスタイルを実行している過程で、人とは異なる脳力を手に入れることができたりするのかもしれない。
人間という限られた小さなカテゴリー内だけで視野を持つのではなく、自分は人間以外の様々な生物、環境に囲まれており、生物種の中の一種の存在であるニンゲンに過ぎないという見方を持って物事を認識することができるようになれば、目に見えない新たな価値が見えるようになり、本当の意味でのユーティリティさを持ったニンゲンになれると僕は思う。

人間が持つ既存の固定観念を捨て、新たな思考を持つニンゲンになるために、ナメクジスタイルを築いていくことは革新的な考え方の1つではないでしょうか。

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◇橋爪瞭◇
学年:2年
学部:教育学部
前所属チーム:近畿大学附属和歌山高校


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