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【#Real Voice 2022】 「二兎を追う」 2年・成定真生也

「ア式ではピッチ外の取り組みにも力を入れている」
部員であれば、よく耳にする言葉だろう。

「学生が主体となり何かの価値を提供しよう」
「社会との接点を作り出そう」

サッカー部であるのに、サッカーじゃないことに力を入れている。

私たちは早稲田大学の体育各部のうちの一つであるサッカー部にすぎない。
そんなはずなのに、私はこのピッチ外に対する考えや取り組みが妙に好きだった。


幼稚園からサッカーを続け、約2年前ア式蹴球部にたどり着く。

存在意義。日本をリードする存在。選手としても人としても一番であれ。
今まで考えたこともなかった言葉たちが私に降りかかる。

ア式での存在意義ってなんだろう。
模索する日々。
じゃあ何のためにア式にきたのか。
そもそもなぜア式にきたのか。

そんなことをよく聞かれたが、
正直に言えば、それなりにサッカーを本気でやってきて大学では体育会でやりたいと思ってたとか、高校の同期一人の言葉とか、強くて何か特別感のあるこの組織の一員になりたいな。くらいだった。
そんなものであった。

もちろんなぜア式にきたのかという質問に対しては取り繕った言葉を並べていた。
聞こえが良い言葉を並べ、目標や意義を持って入部する人間だと思わせていた。
私はその程度の人間である。


そんな私が少し長い時間をかけ、ア式蹴球部での存在意義を模索する。

日々を過ごす中で
一つ、しっくりきたことがあった。


そう。それがこの「ピッチ外での活動。」

サッカー部でサッカーに力を入れることは当然ながら、それでいてピッチ外の活動をすることのなんともいえない特別感。想像してこなかった新たなサッカー部員像に惹かれた。

そして、なにより「ア式に貢献している」そう実感しやすい場所だった。

だから心地よかった。

サッカーでア式を救ったり、トップチームで出場する気配のなかった一年時は、「ピッチ外」の私が唯一の救いだった。

だから力を入れることができた。

同期とのミーティングでは、「真生也はピッチ外でこうゆうことをしてくれている」と言ってくれる同期すらいた。

私の存在意義は「ピッチ外の取り組みに力をいれること」になっていった。

そう信じてたし、そう言い聞かせていた。


8月。
高校の同期で、同部屋の仲間がプロに内定した。
めちゃくちゃ嬉しかった。
初めて身近でプロになった人を見ることができた。
高校での出来事を知っていたし、毎試合がスカウトに見られることへの不安や緊張を同部屋として感じていたからこそ、余計に嬉しかった。
彼が行くチームのアカウントは速攻フォローした。
自分まで嬉しかった。


でも、その「嬉しい」のままでこの出来事は終わればいいはずなのに、
その日を境に何かが変わる。

比較する自分。そしてその度に押し寄せる劣等感。


彼とは高二から同サイドでプレーしていた。
選手権も共に出れたし、高校は私がポジション順で10番をつけていた。
ポジションで番号が決まっていたことは間違いないのだが、ア式ではよく「日藤の10番」っていじられる。
その度に私は首を振り、謙遜する。
「ポジションっす。」ってほぼ確で返答する。

一年のブランクを経て同じ部に所属する。
一個上になった彼はいつのまにか遠い場所にいた。

早稲田のスタメン。世代別代表、大学選抜。

そしてJの内定

高校から違いがあったのは間違いないが、別チームに来ることでその差は明確なものになった。

近ければ近いほど、その遠さをリアルに感じてしまった。



話を戻す。

先ほど、私の存在意義は「ピッチ外での取り組み」だと言った。


これを聞いてどう思うだろうか。この経験をしてどう思うだろうか。

それでも「ピッチ外が存在意義だ」と、そう言い切れるのであれば素晴らしい。

でも正直に、私はそう思えなかった。
というのも逃げていた自分に気付かざるを得なかったのだ。

そうだ。私は逃げていたんだ。

「ピッチ外」を盾に勝負の世界から逃げていた。結果を残すことから逃げていた。

「早稲田のトップで出たい」
この思い無くして、私はこのア式の日々を過ごせてこなかったはず。

「プロになりたい」夢があるはずだが、それを公言できない自分がいた。
プロになるためにア式にきたわけではないように、心からその勝負に逃げてきた。

想いを心の奥底に閉ざし、謙虚という言葉に助けられながら、日々を送っていた。

高校の入学時も、「このメンツだったら出れるだけですごいだろ」とか言って最初からメンバー争いに負けることに保険をかけたりしてた。

よく「謙虚だね」って言ってもらえることが多いが、多分違う。
私は謙虚なのではない。勝負から逃げる弱い人間だ。

自信も持つこともない。

試合に出られなくて、文句が出たことがない。

「あいつじゃなくて俺だろ」なんて思ったこともない。

むしろ試合に出るときに自分より調子が良い人のことを考えたりする。

そんな人間なんだ。

勝負から逃げ、居心地のいい場所を探す。
結果を残すことに目を背け、その逃げたことを隠し、サッカーじゃない取り組みに力をいれ、それを「存在意義」だとも思っていた。


決してピッチ外に取り組むことが問題と言いたいのではない。
これは勝負や結果に逃げた事実をピッチ外の活動を理由に思い込みで隠した自分に対してである。

勝負の世界からは逃げてはいけないし、結果を残すことから逃げてはいけない。

これは私に足りないものであり、強く感じたことである。




「降格しそうなチームが何してんのって話だよ。」

こんなことを言われたことがある。
企業様とのミーティングであったが、ア式が大学に叱られる。そんな会になった。

ピッチ外のある一つの取り組みが、その日、その一言で全て否定された。

チームが勝てていない。
この結果が、ピッチ外に影響した。

悔しかったが、納得するしかなかった。
実際そのことを言われた時、何一つ言葉が出なかった。

「私たちはサッカー部である、サッカーで結果を残さないでどうする」何も言い返せなかった。


そして、私たちは降格した。
それと同時に、全てが変わった気がした。

やってる取り組みは否定される。

「その暇があったらサッカーを強くしてくれ」

これまでの行動が繋げられる。

「だから降格するんだよ」


結局、結果論なのかなって。そう思ったりした。

勝てばなんだかんだ肯定されて、負ければ否定される。

週の練習の取り組み、ピッチ外での出来事。
自分たちから見ても他者から見ても同じことが言えるはず。

もし当時優勝争いやインカレ圏内にいたら、きっとあんなことは言われなかっただろう。

そうやって、私たちはサッカーの結果に左右されるのだ。

100周年の取り組みのひとつとして行ったインタビューを思い出す。「ピッチ外の取り組みも、サッカーで結果を出して初めて評価されるものだ」

その時はさすがサッカー選手だなと思った。
結果の世界で生き残るマインドを持たれているんだなと。
でもきっと私は心の中でその言葉を甘く見ていた。

そしたらまさにその言葉通りのことが、私たちの身に起こった。


結果から逃げてはいけない。勝負から逃げてはいけない。

私自身の経験からも、ア式として降りかかった出来事からも、このことを強く感じるシーズンだった。

そして、結果がピッチ外を邪魔させてはいけない。
そのようにも強く思う。

現在部員のみんなが行ってくれている、ピッチ外の取り組みは全て意味のあるものである。
それを、サッカーを理由に否定させてしまうことは選手である私に許されることではない。

「サッカー強いのにこんなことやってるんだ」でも「こんなことしてて、サッカー強いんだ」でもどっちでもいい。


サッカーで結果を残し、ピッチ外の取り組みにも重きを置く。


そのように、私たちは両方を追い求めるべきだ



後期最終節、私は初めて関東リーグに出た。

降格が確定していたこともあっただろうが、その日は私にとって貴重な経験となった。関東リーグ最終節前日初めて監督から名前を呼ばれ、勝負と結果から逃げる人間が初めて早稲田のトップで試合に出た。

11月11日。
メンバー発表後、監督に呼ばれ、5分程度会話した。
確か、明日出る可能性があるとか初めて選ばれたことに対してどうかとか聞かれた気がするが。

「ピッチ外に取り組んでいるお前がピッチで表すものは光るものがある。」

私は5分のうち、この言葉だけを明確に覚えていた。

そのとき重りがなくなった感覚というか、充実感というか、嬉しかったというか。
そんな感情を持ったのを覚えている。

あれ以来、ピッチ外もピッチ内も私の居場所がある気がした。

そして間違いなくあの日からこの言葉が私の原動力となった。


ピッチ外がピッチ内の私を助け、ピッチ内がピッチ外の私に意味をもたらす。

ピッチ内外はそうゆう相乗効果で成り立っているんだな。
そう思った。


私も両方を追い求めよう。

そう強く思った。

2部での戦いは厳しくなる。
それでも来シーズン、必ず1部に昇格する。

ピッチ外の取り組みも成功させる。


その両方を追い求めてこそ初めて、早稲田大学ア式蹴球部であるだろう。


だからこそ、その一員として

勝負結果から絶対に逃げず、ピッチ内外両方の存在意義を追い求める。



「もう俺の存在意義はピッチ外だけじゃない。
早稲田にサッカーで貢献する、ピッチ内の勝利の立役者がもう一つの存在意義。」


それくらいの自信を胸に。

勝負の世界に飛び込もう。

◇成定真生也◇
学年:2年
学部:スポーツ科学部
前所属チーム:日本大学藤沢高校


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