マガジンのカバー画像

月刊「読んでみましたアジア本」

日本で出版されたアジア関連書籍の感想。時には映画などの書籍以外の表現方法を取り上げます。わたし自身の中華圏での経験も折り込んでご紹介。2018年までメルマガ「ぶんぶくちゃいな」(…
¥200 / 月
運営しているクリエイター

#中国SF

【読んでみましたアジア本】画一的な中国観・中国人観を打ち破るには最適の一冊/ケン・リュウ選『金色昔日:現代中国SFアンソロジー』(ハヤカワ文庫SF)

劉慈欣『三体』のNetflix版ドラマの配信開始で、再び視野に入ってきた中国SF。

Netflixドラマは主要登場人物の人種や性別が原作と大きく違うことで、中国のみならず、同じ東アジアの日本でもファンの間で違和感を唱える声も上がっているときく。しかし、逆にわたしのような「中国屋」の目から見て、ゴテゴテの中国っぽい「しがらみ」を出発点にしたあの作品を、西洋人やインド系、黒人に置き換えても立派に成り

もっとみる
【読んでみましたアジア本】SF本を開いたら、そこには「現実」が広がっていた/郝景芳(ハオ・ジンファン)『人之彼岸(ひとのひがん)』(ハヤカワ・SF・シリーズ)

【読んでみましたアジア本】SF本を開いたら、そこには「現実」が広がっていた/郝景芳(ハオ・ジンファン)『人之彼岸(ひとのひがん)』(ハヤカワ・SF・シリーズ)

2022年5月の最後にこれを書いている。上海はやっと明日6月1日から「通常化の生活」に向けて、9割のロックダウンが解除されるという。

中国が世界に誇る大都市上海でなんと2ヶ月間も続いた「完全ロックダウン」。わたしの知り合いが住む地域は3月初めからすでに団地封鎖が始まっていたので、すでに80日近く封鎖されたままだった。

それは日本の緊急事態宣言の比ではない。人々の外出を禁止すべく、団地に設けられ

もっとみる

【読んでみましたアジア本】壮大なスケール。あなたの想像空間メモリはついていけるか?:劉慈欣『三体』(早川書房)

今年のアジア本でトップを争う人気本となった中国SF小説『三体』。もう今さら小出しにしてもしょうがないので、さっさとご紹介すると、著者の劉慈欣氏は1966年生まれで、1990年代に中国でSF作家として頭角を表した。本職はコンピューターエンジニアで、現在は山西省娘子関という、万里の長城の旧関所近くに勤務している。つまるところ、きっと星がキレイな、相当など田舎である。せせこましくない、文字通り広大な物語

もっとみる

【読んでみました中国本】 「政治的分析はお控えください」――でもやっぱり比較してしまう面白さ:ケン・リュウ(編)「折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー」(早川書房)

◎ケン・リュウ(編)「折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー」(早川書房)

正直な話、この本を読むまで中国作家のSF作品がこんなに面白いとはこれまでまったく知らなかった。

この「読んでみました中国本」で何度も書いてきたとおり、わたしは大人になってからほとんど小説を読まなくなった。なので大人になってから暮らすようになった香港や中国でも、あまり当地の小説には関心を払ってこなかった。

だいたい、

もっとみる