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月刊「読んでみましたアジア本」

日本で出版されたアジア関連書籍の感想。時には映画などの書籍以外の表現方法を取り上げます。わたし自身の中華圏での経験も折り込んでご紹介。2018年までメルマガ「ぶんぶくちゃいな」(…
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#天野健太郎

【読んでみましたアジア本】壮大なスケール。あなたの想像空間メモリはついていけるか?:劉慈欣『三体』(早川書房)

今年のアジア本でトップを争う人気本となった中国SF小説『三体』。もう今さら小出しにしてもしょうがないので、さっさとご紹介すると、著者の劉慈欣氏は1966年生まれで、1990年代に中国でSF作家として頭角を表した。本職はコンピューターエンジニアで、現在は山西省娘子関という、万里の長城の旧関所近くに勤務している。つまるところ、きっと星がキレイな、相当など田舎である。せせこましくない、文字通り広大な物語

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【読んでみましたアジア本】読者がこの本を手にしたとき、ミステリーのトリックが始まる。:雷鈞・著/稲村文吾・訳『黄(コウ)』(文藝春秋社)

本当に偶然だったのだが、9月末の東京出張のとき、ちょうどその週末に台湾で「第6回島田荘司推理小説賞」の授賞式が開かれるんですよ、と耳にした。つまり、7人目の島田荘司さんのお墨付き中華ミステリ作家の誕生である(第3回にグランプリが2人出ているので、6回目の今回選ばれる人は7人目となる)。

この賞が日本で一般に知られるきっかけになったのは、2017年に香港のミステリー作家、陳浩基さんによる『13・6

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【読んでみましたアジア本】記憶と時代、そして多くの人々を紡いだのは一台の自転車だった:呉明益・著/天野健太郎・訳『自転車泥棒』

「どうせ盗まれるんだから、そんな高級なのを買う必要はないんだよ」

北京で暮らしていた頃、なんどかふと、「自転車欲しいな〜」と口に出したときに必ず誰かにこう言われた。自転車を持つ人で一度も盗まれたことのない人なんていないんだから…と、ちょっとカッコいい自転車に目移りしていたわたしの気持ちが見透かされていた。結局は一度も自分用の自転車を手に入れることはなかったのだけれど、そういえば自転車を足のように

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【読んでみましたアジア本】「そうくるかっ」最後の最後で思わず叫んだ一冊:陳浩基・著/玉田誠・訳『世界を売った男』

2017年に出版された『13・67』で、日本ミステリーファンの投票によって海外ミステリー作品1位に選ばれた、香港人ミステリ作家の陳浩基さんの作品として、2012年に最初に日本に紹介されたのがこの『世界を売った男』。昨年11月に文庫になって再登場したので、手に取りやすくなった。

帯には「香港に鬼才、出現」とある。確かに『13・67』はなんの基礎知識なく読んでも、衝撃的だった。香港という土地にミステ

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【読んでみました中国本】現代から過去へ、香港のリマーカブルな時代をたどる推理小説:「13・67」陳浩基・著/天野健太郎・訳(文藝春秋)

先週、「『英雄本色』が放映3日間で興行収入2017万人民元(約3億4000万円)となった」という記事が中国の新聞に流れていた。

香港映画「英雄本色」は1986年、今では世界的な名監督の1人となったジョン・ウー(呉宇森)の出世作である。日本では「男たちの挽歌」というタイトルで、1987年で公開された。

日本では劇場公開後にビデオになってからこの映画はバカ売れした。ちょうど公開時にわたしは仕事を辞

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