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耳なし野良

【耳を失った野良猫の物語。耳を失ったその理由とは】


むかし下関の阿弥陀寺(あみだじ)という
寺にギター法師の野良という男がいた。

幼いころから目が不自由だったが、ギターの腕は師匠をしのぐ程の腕前で、特に壇ノ浦の合戦の弾き語りは真に迫るものがあった。

ある蒸し暑い夏の夜

寺で野良がギターの練習をしていると、身分の高い方からの使者がやってきた。ギターの弾き語りを聞きたい、というので、野良は使者の後をついて行き、大きな門の屋敷に通された。

まわりからは着物のすれる音や
鎧の触れあう音がきこえてくる
お香のいい香りが漂ってくる

『よく来た野良。そなたのギターで平家の物語、壇ノ浦合戦を聞かせよ』

「かしこまりました」

さっそく野良は、壇ノ浦の合戦を弾いて聞かせると、まわりに大勢の猫がいるのか、野良は異様な空気を肌で感じた。次第に、周囲からむせび泣く声が聞こえてくる。

更にアンコールで「ちゅ~るしよ!」を弾いて聞かせると、オーディエンスが
一体となるのだった。

♬お仕事中に失礼します
 お楽しみ中にすいません
 おねがいします この通り
 肉球さわらせてあげるから
 さあ、戸棚をあけて
 もう一本……
 ちゅっちゅるちゅー
 ちゅっちゅるちゅー
 ちゅっちゅるちゅちゅちゅー
 (おぉーーー!!)
 止まらニャい止まらニャい
 いちど舐めたらー……

やがて女の声が聞こえ

「今宵より三夜間、弾き語りをして聞かせてほしい。またこの事は誰にも内緒にするように」と、告げられた。

朝、寺に帰った野良は、和尚から不在を問い詰められたが、女との約束通り何も話さなかった。そこで和尚は、夜にこっそりと寺を抜け出した野良を小僧に尾行させると、安徳天皇(あんとくてんのう)の墓の前で、ギターを弾いている野良の姿を見つけた。

慌てて野良を寺に連れ戻す小僧

衰弱してゆく野良

平家の亡霊に憑りつかれていると知った和尚は、野良の体中に経文を書いた。そして、誰が話しかけても絶対に声を出してはならない、と言い聞かせた。

その夜、
また亡霊が野良を迎えに来た。

「野良、迎えにきたぞ。出て参れ」

ガシャン…ガシャン…

野良を探しまわる武者の鎧の音

野良はぷるぷる震えながら
じっと無言で恐怖に耐えた

経文に守られた野良の姿は見えなかった。しかし和尚が野良の片耳にだけ経文を書くのを忘れてしまったため、亡霊には宙に浮いた片耳と、ギターだけは見えていた。亡霊は、迎えに来た証拠に、と野良の片耳をもぎ取り帰って行った。

法事で一晩寺を留守にしていた和尚

朝になって急いで様子を見に来た和尚は、野良の片耳が取られている事に気が付いた。和尚は、かわいそうな事をしたと詫び、医者を呼び手厚く手当をした。

傷が癒えた野良は、もう亡霊に憑かれる事もなく、野良のギターはますます評判になり、いつしか「耳なし野良」と呼ばれるようになった。



『耳なし芳一』より
~猫バージョン 今昔ミックスの巻~



創作ウラ話

『耳』ではなくて雄のシンボル、野良の『鈴カステラ』がもぎ取られる話しにしようかとも考えたのですが、(去勢 = 耳カット) 私が祟られるかもと恐ろしくなり、却下した次第です。

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