スタートアップの採用広報は、結局どうすればよかったのか


スタートアップ界隈で「採用広報」が盛り上がって、しばし経ちました。

なんだか、一巡した感じがあります。私にも「採用広報をやってほしい!」という相談が来ていた時期があったけど、結局あれはなんだったのか……。台風みたいでしたね。

最後まで「情報発信」から抜けきらないままふんわりと尻すぼんでしまって、どこにも着地できなかったなーと切ない気持ちになったりしています。


スタートアップが採用広報を課題に感じている場合、よくよく聞いてみると、「広報PR自体がイマイチできていなくて、なかでも現時点で“採用”という課題がもっとも急務である」だけなことが多いです。

Public Relations全体のなかでステークホルダーとしてのEmployeeサイドが弱い状態なので、面で関係構築を捉えてから採用の課題に絡めると、うまくいきます。

今あらためて思う、2019年後半以降の見通しをシェアします。


採用広報ブームの裏で──。すべては連動するべきだった

スタートアップ界隈で、採用広報が求められるようになった背景はこんな感じ。

背景1. 転職が当たり前になり、「採用候補者」の母数が爆増した
背景2. 採用候補者に情報を届けるメディアが多様化した
背景3. 個人メディアの時代になり、透明性が求められるようになった
背景4. 働き方が多様になり、選択の基準が複雑になった

これは少し前に、なぜ「採用広報」はこんなにも流行っているのか?4つの時代背景 に書いたことです。

上記のような背景によって「採用のための関係づくり」に重きが置かれるようになり、HR領域の人たちにもPRの考え方や手法が届き、連携するようになりました。

それまで会社の素性を知る手段としては「転職会議」や「Vorkers」のような匿名口コミしかなかったので、会社のリアルな雰囲気が伝わりやすくなったのはとてもいい流れだったと思います。

これは私がPRの説明をするときに使っている図です。(業界ではおなじみ)

もともと、Public Relationsの考え方からいうと、「採用候補者」はこのように各方面にいるステークホルダーたちのなかのひとつでしかありませんでした。便宜上6つにわけていますが、これらは相互に行き来することも、重複することも、作用しあうこともあります。

たとえば、

【法人顧客】からの嬉しいフィードバックを社内に伝えると、【従業員】がハッピーになり、それをある社員がSNSでつぶやいたら【採用候補者】に届き、面談のときにそのエピソードが出て、平和に採用決定!

みたいなことも起こる。これは上の図でいうと3つのステークホルダーが作用しあっている状態です。


こんな感じで、全ステークホルダーを絡めて統合的なリレーション構築をしていくことがPRの役目ですが、採用広報という言葉によってなんだか一方向だけ暴走しているような状態になってしまった。。

端的にいうと、図の右上だけがバコーンと突き抜けている状態です。

すべてはバランスよく、皿回しのように、連動するべきだったのに〜。


採用広報=社員のことを発信する、は持続しなかった

「採用広報に力を入れよう!」となってまず手を付けやすいのは、社内の雰囲気をありのままに発信することでした。

ヒアリングさせていただいたときにも、

・Wantedlyで社員インタビュー記事を出したい
・オウンドメディアの記事を充実させたい
・カジュアルなランチ会やMeetupを開きたい
・うちの社長や社員をメディアに出したい

など、アウトプットファーストのご依頼がほとんど。


「人材を集める」というミッションから落とし込んで上記のような施策を取ることはあっても、いきなり手段ベースで着手するとけっこう失敗してしまいます。情報発信って、工数も予算もかかりますし。

それに、コンテンツ過多中の過多である昨今、ただ社員の人生を幼少期からなぞったインタビューをWEBの海に投げ込んでも、よほど面白くなければスルーされてしまいます。「○○さんの取材記事」みたいなタスク単位で依頼してもらっても、解決策それじゃないかもなあーと思ってしまったり。


はじめから「あとはコンテンツを作っていくだけ」の状態まで行き着いてる企業さんって、かなりレア。

その前にやるべきことが多々あるのだけど、私も力不足でそれを上手く伝えることができなかったりして、宙ぶらりんに。。

現に、最近、某ビジネスSNSを解約する会社が増えていると聞きます。(オウンドメディア閉鎖は言うまでもなく)

Twitter採用に流れているとかそういう単純な話でもなくて、やっぱり全体設計のなかでの位置づけができていないと、予算とモチベーションが保てないのかなぁ。成果も測りづらいし。


「採用広報」の本質は内側にあり

スタートアップの採用広報は、けっきょく何をやればよかったのか?

その答えはたぶん、「人」の発信にフォーカスする前の、コーポレートやプロダクトのPR計画を絡めた設計づくり。


当たり前の話ですが、新しい会社に入社する動機は人それぞれです。

たとえばいくら社員やワークライフバランスが魅力的な会社でも、コーポレートサイトに情報が少ない、最後に出ているプレスリリースは半年前、プロダクトに関するニュースがあまり出ていない、SNSで評判が全然回ってない、とかだと、よっぽど興味のある人しか面接に来てくれません。

逆に、その会社のサービスが話題になっていたり大きく報道されていたりすることで、「これから伸びそうだな」というポテンシャルを感じて心が傾くことはよくあります。大型の資金調達をしていることが入社のトリガーになる人だっているかもしれません。

すべての人が「一緒に働く仲間やチームの雰囲気」を最重視しているわけではないので、事業のことをしっかりファクトベースで伝え、社会との接点をつくっていくことも大切です。


で、そういう全体感のあるプランニングをしていくには、いきなり目線をエクスターナルに向けるのではなく、インターナルな施策(というよりも、内省・社内整備)に一定の時間をかける必要があります。

「どういう人をなぜ採用したいか?」という人事的ゴールを設定するために、まず「どんな組織を作っていきたいか?」という経営的ビジョンからの逆算が必要で、そのためには会社のビジョン・ミッション・バリューを見直すなどCI(コーポレートアイデンティティ)策定から着手すべきだったかもしれません。


実はここが難しくて、インターナルをすっ飛ばして発信!発信!とやっても、たぶん少しくらいは採用率は上向きます。だから味をしめて続けます。でも入社後すぐにミスマッチで辞めてしまったり、どうにも空気感があわないなーと感じながら仕事することになったり、退職後にすっぱり縁が切れてしまったり。どこかで必ず綻びが出る。

短期的な利益を求めるとすぐに効果は出るけど、長い目で見たときに組織をゆるやかに崩壊させている──。という、プロダクトサイドでありがちな失敗策になってしまうのだけど、それに気づきにくいのです。

最近こんなツイートもしたように、スタートアップPRを本質的に追求すると、インナーコミュニケーションに行きつきます。

チーム内のコミュニケーションが足りず組織の空気が微妙だと、外に向けていくら発信をがんばっても、絶対にそれはにじみ出ます。今すでに社内にいる「人」たちの関係性からまずはアレンジしていくと、いろいろ円滑になり、リファラル採用率UPというボーナスまでついてきますね。

シャッフルランチとか、(業務外の)1on1とか、社内コミュニケーションの設計をするのもPRの役目です。メディア露出やSNSでの反応などを社内に流して、さりげない会話を生むのもおすすめです。


最終的に、「会社が好き」というひとりひとりの感情をホンモノにしていくことと、それをオープンに言うことをバカにしない空気を醸成していくことが、情報発信の前に目指すべきゴールとして不可欠。

嘘やハリボテはすぐに剥がされてしまう時代なので、内面から磨いていくことが本当の「採用広報」だったのかなと思っています。


法人も個人も、美は内面からです。


ブームで終わらせてはいけない、採用広報とオウンドメディア

この記事(前に書いてお蔵入りさせてたのをリバイスした)をやっぱ公開しとこ、と思ったのは、採用広報やオウンドメディアうんぬんの流れは単なるブームで終わらせるべきではないと思ったから。

界隈ではいろんなブームや新しいキャッチーなキーワードが生まれては消えていくけれど、根っこにある概念はずっと変わらない。PRの考え方にもとづいて行った広報活動が採用に効くのは本当だし、オウンドメディア(企業をまるごと編集して出すこと)はまだまだこれからも必要です。


「採用広報」的なことって、単体ではなくPR全体のなかで考えたほうが絶対によい。

そこを突き詰めると組織づくり領域(Employee Satisfaction, Employee Experience, Personal Relations)にも近づいていったりして、もはや概念を理解するための日本語が追いついてなかったりするんだけど。。視点を変えると、いろいろ見えてきます。


最近はオウンドメディアの終焉とかいわれていますが、そういう目的を考えると、まだまだ終わらなくていいんじゃないかなっと思っています。

マーケティング的な指標・観測視点のもとで従来式のメディアとして運用することが時代に合わなくなってきているだけであって、パブリックリレーションズ的な見方に寄せていくと、オウンドメディアを閉鎖するとかもったいなさすぎ。

企業がメディアを持つことの効力は、やっぱり計り知れないです。

マーケティングメディアとして“運用”する考えはすっぱり捨てて立ち位置を見直し、パブリックリレーションズの発想・思想・担当者・部署のもとで組み立て直すといい感じですよ。


なんだか私は業界に疲れていますが、2019年後半以降はそんな感じではないでしょうか。

企業の伝えたいことが、きちんと社会の流れにのっていけるように、舵取り業を続けていきたいなと思いました。

おわり。Twitterもよろしくお願いします。


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