波乗りガールになりたい話
結婚ラッシュ、というものは本当にある。
それを痛いほど実感したのは、働き始めて3、4年が経った頃か。
大学を卒業し、新卒で就職、仕事もいい感じに慣れて生活面にも余裕が出てきた頃。SNSの投稿に入籍の報告がぽんぽんぽんっと上がった。
ああ、結婚ラッシュだ、そう気づいてしまうと、純粋におめでたいと思う気持ちに、焦るような気持ちが陰る。
ちょうどいい頃合いだよね、25~26で結婚。学生時代から付き合っていた恋人と結婚するには、ちょうど良い時期だわ。
結婚ラッシュの第一波は、ハタチを過ぎて少しした頃、新卒で就職した頃、一度小さな波がきていた。高卒で働いている同級生がパラパラと結婚。学生だったり、就職して間もない自分には、他人事に思えていた時分。勝手に、大人だなぁ、結婚することを決められるなんて、など自分とはかけはなれたことのように思えていた。
これはまだ可愛い、小さな波だった。
20代半ばで迎える第二波の結婚ラッシュは、それよりも段違いに、痛いくらいに身に染みた。ああ、結婚ラッシュがきていると。いきなりけっこうな大きさの波がきた。
おそらく、年齢的な焦りと、自分がまだそのような将来を見据えられていない不安、どこかみんなから置いていかれていくような疎外感からくる、身に染み入る思い。
この第二波の頃、フリーの友達と会って話したこと。
次の波はこれ以上のとんでもない大きさの波がやってくる。30ギリギリに滑り込みビッグウェーブがくるから、その波に乗る準備をしないといけない。波に乗り堪える、目ぼしいサーフボードを見繕っておかないといけない。
そんな話をした。
お互い良いボード見繕って、華麗にビッグウェーブに乗ろうね、なんて。今は砂浜から波に乗る人たちを見てるだけで、スタート地点にも立てていない私たちだけど、ボディボードでもだめ、波打ち際でぱしゃぱしゃしてるんじゃなくて、巨大ウェーブに耐えられる理想のサーフボードを見つけて、ビッグウェーブを乗りこなそう。
そんな話をした2年前のクリスマスシーズン。
焦りは、もちろんあった。
それまでも出会いに対して何も動いていなかったわけじゃなくて、微々たる動きだったかもしれないけれど、マッチングアプリをやったり、合コンに行ってみたり、行動は起こしていた。それでもあまり実にならなかったから、焦りがあった。
30までに、ちゃんと、良いサーフボードを見つけていないと波にのまれてしまう。そのとき私は、自分の将来についてどう思うのだろう、と。
安定した職に就いているし、自分ひとりで生きていくだけのことはできると思うけど、なんとなく、パートナーがほしいと思っていた。結婚していく友達に対して羨ましいと思う気持ちには、先の未来を一緒にいようと思える唯一無二の存在に出会えているということに対する、妬みの気持ちがあった。
パートナーだからって安泰ということはないのかもしれないけれど、絶対的だと思える味方がいると思えること、それが心強いと感じた。
ひとりで生きてはいけると思うけれど、誰かと一緒にいられたら、より良いと思う自分がいる。
彼と出会って半年、付き合って2か月。
正直、まだこの先の未来を考えることは、今の自分にはちょっと難しかったりする。当然、一緒にいて居心地がいいから付き合っているし、今この瞬間は一緒にいたいと思うから、そばにいる。
だけど将来を見据えて、さあどうなの、と自分に冷静に問いかけたとき、純粋に彼といたいと思う自分がいる一方で、彼とずっとは一緒にいられないかもしれないと思う自分がいる。
きっと、自分が思い描いていた理想のボードと違うからかもしれない。彼では波にのまれてしまう、と心のどこかで思う自分がいるのだろう。
いまは彼と恋愛をしている。だけどその先に結婚はあるのだろうか。
友達に、めちゃくちゃお互いに相手に惹かれ合っていたのに、うまくいかなかった子がいる。
彼女は彼のことがすごく好きになったから、結婚に対する理想の条件には当てはまらないけど、付き合うことを優先したかった。だけど彼のほうは、実家に入ってもらえない可能性があるなら結婚は難しい、だから好きだけど付き合えないと判断をした。
好きなら、なんで付き合えないの、絶対にそうなるとは限らないし、付き合って変わっていく可能性もあるじゃない、と友達はとても傷ついていたけど、彼には一緒に波に乗れないと判断されてしまったのだろう。
彼女は恋愛をしたかったけれど、彼は結婚をしたかった、その違い。
結婚は目的じゃなくて手段だよね。ずっと一緒にいたいと思ってするものが結婚だと思う。
私の彼はそう言う。今現在、私が彼とは恋愛をしているというのは彼もわかってはいるだろう。彼だって、恋愛のつもりで私と一緒にいるのだと思う。だけどこれが、将来を見据えた関係に変わることはあるのだろうか。
2か月で何を、とも思うし、30が近づくなかで、一旦結婚のことは置いておいて、彼と恋愛をしようと決めたのは私自身だ。なのに何をうじうじと、と思う。
今は恋愛に集中するんじゃなかったのか。期待はしないと思ってこうしているはずなのに、彼とずっと一緒にいられることを期待してしまう自分が嫌だ。
いまが楽しければそれでいい。まだ波に乗る準備には間に合う、そう自分に言い聞かせているけれど、早いに越したことはないよね、とも思う。
彼といて、私はビッグウェーブに持ちこたえられるのだろうか。
沈みそう。深く、深く沈んでしまったら、私は海面にあがってくることができるのだろうか。
暗くて深い海の底に落ちて。
どうなるのだろうか。そのとき、彼は隣にいてくれているのだろうか。
こんなことじゃなくて、ハッピーな気持ちで明るい未来へパドリングして波を待つ、波乗りガールになりたいんだけどな。
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