おとなの趣味のはじめかた
いつからだろう。
履歴書などにある『趣味』という欄に、なにを書けばいいかわからなくなってしまったのは。
小学生の時は友達と絵を描いたり、ごっこ遊びをしたり、マンガを読んだり、アニメを観たりしていた。
中学生になっても絵を描くことをやめなかった。
友達と交換日記ならぬ、交換マンガを描いて遊んでいた。
高校生になると剣道をはじめた。
卒業までに弐段を取得できたのはちょっとした自慢だ。
大学生になってから、一眼レフにのめりこんだ。
……というか、まぁ、コスプレから派生した趣味だったのだけれど。
ともあれ、この時の趣味はまぎれもなく『写真撮影』だった。
社会人になってからは…………。
そう。問題はここからだ。
社会人になってから、「趣味は?」と聞かれると、途端に答えに窮するようになったのである。
あんなに描いていた絵も、夢中になって汗を流した剣道も、
必死にいいアングルを探した一眼レフも、気づけば自然と遠い存在になっていた。
なんというか、毎日を生きるのにいっぱいいっぱいだった気がする。
中国留学や現地での就職、帰国してからはコールセンターでほとんど終電帰り。
転勤で上京してからは、東京での暮らしと仕事に慣れることに精いっぱい。
毎日が刺激的すぎて、趣味に割く時間がなかったように思う。
(今となっては、単なる言い訳かもしれないが。)
いろいろな経験をして、いろいろなことを学んだ。
仕事に恋愛、夢、生き方、考え方。
社会人になってからの毎日が、私を人間として成長させてくれたのはまちがいないし、今しあわせだと思うのは、自分が精いっぱい頑張ってくれたからに他ならない。
しかし、そろそろ
「趣味はなんですか?」
という質問に対して、何らかの、確固たる回答ができるようになりたいなぁと思っている。
いや、その質問に回答したいから趣味をはじめたいのではなく、
なんというか、子どもの頃、学生時代に感じていた、あのワクワクの感覚を取り戻したいのだ。
でも……
趣味って……
どうやって始めればいいの?
インターネットで『趣味 はじめ方』と検索すれば、答えは出てくるのだろうか。
誰か……家族や友人か、たまに話すスーパーの店員さんに「趣味ってどうやってはじめればいいかな?」と相談すれば解決するのだろうか。
いや、そんなことはない。
ヒントになる答えを得ることはできるかもしれないが、
結局『自分が何をしたいか』という点に収束する。
『自分が何をしたいか』
これがまた、私を悩ませる質問なのである。
自分が何をしたいのか。
自分は何をすればワクワクするのか。
自分のことなのに、どうにもハッキリと答えが出せない。
何かしたい。
何か趣味をはじめたい。
そんな気持ちだけが積もり積もっていく。
(趣味をはじめたくてここまで悩むのは私ぐらいなのかもしれないが。)
そんな時だった。
Twitterでお世話になっているフォロワーさんから、お絵描きバトンを受け取ったのだ。
Twitter上で絵を描いているわけでもなく、自己紹介欄に『イラストレーター』と書いているわけでもない。
なぜ、私がこのバトンを受け取ったのか。
バトンを回してくれたフォロワーさん曰く、
「アイコンが可愛かったので、絵を描かれる方なのかと……!」
ということだった。
ガッデム。
私のTwitterのアイコン(noteも)はココナラで依頼して、絵が上手な方に描いてもらったものだったのだ。
なるほど、そういうワケだったか……。
とは思ったものの。
実は、お絵描きバトンをもらったことで、私の中でひそかに『やってみたい』と思っていた気持ちに火がついた。
それは、
「もう一度絵を描いてみようかな」
という、淡い気持ち。
子どもの頃、一緒に絵を描いていた友人たちが上手すぎて、
「自分には無理だ……」
と思ってやめた、絵。
もう一度やってみたい。
絵を、描いてみたい。
私の中で、『やりたいこと』が確立した瞬間だった。
とりあえずやってみよう。
やってみて、どうにもワクワクしなかったのであれば、それはそれでいい。
別の趣味を探すまでだ。
この『とりあえずやってみる』精神で、液晶タブレットとお絵描きソフトにまで手を出した。
そしてお絵描き道具一式を手に入れた時、ふと感じたことがあった。
『とりあえずやってみる』という気持ちが、趣味をはじめる上で大切なものなのではないか、というものだ。
私を含めて、趣味がないという人は、『とりあえずやってみる』精神がすこし薄れてしまっているのではないだろうか。
もちろん、とりあえずやってみることにはリスクが存在する。
新しく買いそろえた道具や書籍がすべてムダになってしまうことだ。
でも、今はメルカリやジモティーなど、不要になったものを誰かにゆずるということがカンタンにできる時代だ。
それに、とりあえずやってみることで、何かしらの経験になることはまちがいないのだ。
仕事や恋愛、夢を追いかけ、毎日の暮らしに忙しかった20代。
そんな20代を終えて、今は結婚もして、子どもがいて、毎日しあわせだ。
ゆとりがあるからこそ、『とりあえずやってみる』という気持ちになったのかもしれないが、とにもかくにも、趣味をはじめるタイミングが、今こそやってきたのだ。
大人のいいところは、ある程度、自由に使えるお金があるところだ。
『とりあえずやってみる』と思った後、新しい道具や書籍を短時間で買いそろえることができる。
(この点、子どもの場合は親を説得して、道具や書籍を買ってもらうところからはじめねばならない)
時間もお金もそれなりにある。
さぁ、やるぞ。
もう一度、あのワクワクした気持ちを取り戻すんだ。
おとなの趣味のはじめかた。
何はともあれ、『とりあえず、やってみる。』
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