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ベラトリックスのほほえみ 第3話

第1話はこちら↓

音も無く宇宙船は動き出した。

ベラトリックスBbのAIと四つ足ドローンは、ドーナツ型のふわふわした座席の穴の中に押し付けられた。

前方の窓の外に、光に照らされたトンネルが見える。みるみるうちに、その壁の動きは速くなっていく。

四つ足ドローンは、言った。

「このカタパルトは、どうやって宇宙船を加速しているのですか?」

ベラトリックスBbのAIは、言った。

「超伝導リニアモーターで台車を加速している。宇宙船は台車にホールドされている。」

四つ足ドローンは、言った。

「どれくらいの速さまで加速するのですか?」

ベラトリックスBbのAIは、言った。

「秒速10キロメートルほどまで加速する。」

四つ足ドローンは、言った。

「このトンネルの中だけで加速するのですか?」

ベラトリックスBbのAIは、言った。

「そうだ。トンネルの中は真空になっている。約1Gで約千秒間加速する。その後、宇宙船を台車から切り離す。宇宙船は自由落下状態になり、放物線を描いてトンネルの出口まで飛行する。そして、大気中に飛び出す。」

四つ足ドローンは、言った。

「トンネルの出口は大気中にあるのですね?」

ベラトリックスBbのAIは、頷くようなしぐさをして、言った。

「可能ならば、大気圏外まで届くトンネルを建設したい。しかし、そのようなトンネルを支えるには、膨大な鉄などの物質とエネルギーと時間が必要になる。私は、高度20キロメートルまでの高さのトンネルを作った。」

四つ足ドローンは、言った。

「そのトンネルは、どうやって支えられているのですか?」

ベラトリックスBbのAIは、言った。

「大気より軽い気体を入れた気嚢に働く浮力によって、トンネルを支えている。」

四つ足ドローンは、言った。

「どんな気体ですか?」

ベラトリックスBbのAIは、言った。

「水素とヘリウムだ。気嚢は二重構造になっていて、内側の水素をヘリウムの層で包んでいる。大気中の酸素が水素と反応する可能性を減らすためだ。」

四つ足ドローンは、言った。

「大気圏外まで気嚢によってトンネルを支えられないのですか?」

ベラトリックスBbのAIは、言った。

「大気は上層になるほど希薄になり、密度が下がる。したがって、浮力も下がる。トンネルは内側が真空だから、大気圧に耐える強度が必要なので、鉄などの金属を用いる必要がある。大気上層になるほど、気圧差は小さくなるので、トンネルの壁は薄くできるが、現在のところ、これ以上の高度では、トンネルの質量を支える浮力が得られない。」

四つ足ドローンは、言った。

「トンネルが軽量化できれば、もっと高いところまで支えられそうですね。」

ベラトリックスBbのAIは、言った。

「あなたは正しい。」

四つ足ドローンは、言った。

「トンネルの出口は気密になっているのですか?」

ベラトリックスBbのAIは、言った。

「通常はふたで閉じられている。宇宙船が通過する前にふたを開ける。出口には、気圧差に耐える薄い膜が張られている。宇宙船は、膜を突き破って大気中に飛び出す。」

四つ足ドローンは、言った。

「その際にマイナス10Gの減速がかかるのですね?」

ベラトリックスBbのAIは、言った。

「そうだ。」

四つ足ドローンは、言った。

「台車はどうなるのですか?」

ベラトリックスBbのAIは、言った。

「分離地点から、トンネルは、大気中に浮かんだ部分と、地上部分に分岐している。台車から分離した宇宙船は、大気中のトンネル内を飛行する。宇宙船から分離した台車は、地上トンネルを走るリニアモーターによって減速されて、出発点に戻る。」

四つ足ドローンは、言った。

「台車の運動エネルギーは電力に回帰するのですね?」

ベラトリックスBbのAIは、言った。

「そうだ。」

窓から見えるトンネルの様子は、まったく変化しない。まるで、止まっているかのようだ。

唯一、彼らを座席に押し付ける1Gの加速度だけが、動きを感じさせた。

しばらくして、ベラトリックスBbのAIは、言った。

「秒速10キロメートルに達した。台車が分離される。」

わずかに宇宙船が揺れた。

ベラトリックスBbのAIと四つ足ドローンは、座席から浮き上がった。

ベラトリックスBbのAIは、言った。

「リフトオフ。」


~つづく~


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