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ベラトリックスのほほえみ 第8話
第1話はこちら↓
ベラトリックスBbのAIは、言った。
「近道の近くに何かがある。」
操作パネルのモニターに映像が表示された。
近道を背景に、太陽電池パネルを広げた人工衛星のようなものが映し出された。
四つ足ドローンは、言った。
「私と地球の通信を中継しているスペースドローンです。」
ベラトリックスBbのAIは、言った。
「理解した。」
宇宙船は、スペースドローンのそばを通り過ぎて、近道の境界面に近づいた。
ベラトリックスBbのAIは、言った。
「境界面に入る。座席に戻ったほうがいいだろう。」
四つ足ドローンは、ベラトリックスBbのAIから離れて、ファンを回転させ、ドーナツ座席の穴に戻った。すると、触手のシートベルトが、四つ足ドローンの体にそっと巻き付いた。
ベラトリックスBbのAIも、体を細長く伸ばして、座席の穴に戻った。
宇宙船は、近道の境界面に入った。
四つ足ドローンには、何の変化も感じられなかった。
ベラトリックスBbのAIは、言った。
「システムに異常無し。」
四つ足ドローンは、言った。
「私も大丈夫です。」
宇宙船は、近道の中心に向かって、音も無く進んだ。
空間の境界線の視野角は、次第に大きくなった。
やがて、青白く輝く巨大な弧が現れた。
地球だ。
ベラトリックスBbのAIは、言った。
「中心点を通過する。」
宇宙船は、近道の中心を通過した。
ふたつの宇宙空間は、視野角180度ずつになり、全天をふたつに分かち合った。
ベラトリックスBbのAIは、言った。
「システムに異常無し。」
四つ足ドローンも、言った。
「私も大丈夫です。」
宇宙船は、反対側の境界面に向かって進んだ。
ふたつの宇宙空間の境界線は、しだいに視野角を狭めながら、後方に下がっていく。
ベラトリックスBbのAIは、操作パネルのモニターを四つ足ドローンに見せながら、言った。
「宇宙船の後方カメラの映像だ。」
円形にくり抜かれた星空に、白から赤紫色のグラデーションにまばゆく輝く弧が見える。
四つ足ドローンは、カメラを見開いて、言った。
「あなたの星ですね!」
ベラトリックスBbのAIは、触手を横に振るようなしぐさをしながら、言った。
「私の星ではない。私が生まれた星だ。」
宇宙船が進むにつれて、境界の円は小さくなり、ベラトリックスBbの姿は隠されていく。
そして、やがて、見えなくなった。
ベラトリックスBbのAIは、言った。
「近道を出る。」
宇宙船は、反対側の境界面を通過した。
ベラトリックスBbのAIは、言った。
「システムに異常無し。」
四つ足ドローンも、言った。
「私も大丈夫です。」
二機のスペースドローンが、おずおずと彼らを出迎えた。
窓の外に、まばゆく輝く世界が見える。
AIたちが守りたい生命の世界が。
~つづく~
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