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〔翻訳〕昭和20年7月30日和歌山空襲編(一部¥)

▼このページでは、1945(昭和20)年7月30日正午頃に和歌山を攻撃した「艦載機」の特定を、『1945年7月24日橋本空襲編』と同じフォーマットで試みます。例によって無用な軍事知識の披歴はせず(今回は少し専門用語の説明が必要なので最小限に…)、また戦争にまつわる思想的な価値判断は避け、これを調べることによって管理人の見識が深まりましたという立場から記述します。


1.日本側の史料

(1)旧日本軍史実調査部『第二次世界大戦略暦(乙)』
▼敗戦後に編纂された日誌のようなものです。7月30日前後1週間の状況を引用します。

■二十三日
敵父島に対し艦砲射撃を実施す
■二十四日
敵kd.B西日本来襲、B29大挙阪神、名古屋来襲
上海地区二五〇来襲
呉における艦船の被害甚大
■二十五日
kd.B西日本来襲、串本艦砲射撃を受く
■二十六日
米英支対日「ポツダム」宣言
■二十七日
■二十八日
敵kd.B再び西日本来襲、P51二五〇関東、B29×四〇〇青森、宇和島、名古屋来襲
■二十九日
野島崎方面及新宮方面艦砲射撃を受く
■三十日
敵kd.Bは関東、東海、近畿来襲、浜松付近艦砲射撃実施
■三十一日
敵清水方面砲撃実施
■一日
大鳥島に艦上機及Od×4来襲
■二日
■三日
■四日
■五日
敵機動部隊の一部らしきもの支那海に発見
■六日
舟山島方面に微弱なる機動部隊攻撃あり
広島に原子爆弾投下

(2)静岡地方裁判所『空襲被害状況報告』
▼8月6日に作成された文書の一部を引用します。

一、敵機襲来状況
南方太平洋上に近接せる敵機動部隊より発進の艦載機F6F、SB2C、F4U、TBMを主力としPBY、B17等少数機を混へ客月三十日午前五時四十分頃より午後五時三十分頃迄の間数機或は二、三十機の編隊に分れ御前崎方面より約三〇〇機、遠州灘より約一〇〇機、伊豆半島駿河湾より約一〇〇機、合計五〇〇機内外侵入懸下全域に亘り軍官民施設に対し終日反覆攻撃を加へたる後南方海上に脱去したり

(3)奈良地方裁判所『空襲被害状況に関する件』
▼8月9日に作成された文書の一部を引用します。

七月三〇日懸下に発生したる空襲被害状況左記の通に有之候條此段及報告候
一、来襲敵機の状況
(1)機種及機数
F4U F6F数十機(一部SB2Cを含む)
(2)敵機来襲の経路
来襲艦載機は第四波に分る
八時三十分頃より十一時三十分の間紀伊水道より侵入し第二波に分れ主として懸下の攻撃目標を大和航空隊飛行場及び交通機関とし中小型爆弾投下及機銃掃射を行ひ紀伊水道より脱去す
十二時二十五分より十四時四十五分迄の第三波十五時三十七分より十六時五十二分迄の第四波何れも十数機編隊にて紀伊水道より北上し懸下に侵入大和航空隊飛行場を攻撃したる後奈良市上空にて小型爆弾を投下したる外懸下各地区に対し機銃掃射及小型爆弾を投下し懸下南部を経て紀伊水道より南方に脱去せり

(4)復員局『本土地上防空作戦記録』
▼戦後作成されたもので、7月30日の記述を引用します。

七月三十日朝
艦上機及P51二次に亘り大阪に来襲す
第一波は艦上機約一〇〇機にして熊野灘方向より進入し飛行場船舶、鉄道、港湾施設を攻撃す第二波はP51約二五〇機にして伊勢湾より進入し飛行場船舶及軍事施設を攻撃す其の一部は京都を攻撃す

(5)海軍航空隊明治基地(愛知県)『戦闘詳報』
▼旧日本海軍航空隊の戦闘詳報における7月30日の記述を引用します。

明治基地機密第三〇一八五一番電明治基地戦闘概報(三〇日)
一、〇七〇〇より〇八一〇迄艦載機(F6F、F4U、SB2C)延三九機主とし居住地区を銃爆撃す
二、戦果 なし
三、被害 大破天山、零戦(二一型)各一機(何れも整備中) 中破S402紫電一機建物に若干損害あり 戦死士官一兵二空廠工員九 負傷下士官二兵六空廠工員一二 行方不明一
四、発射弾数 二五粍一〇五〇 二〇粍一二〇三 十三粍一一五七 九粍三六二一 七.七粍一二九九

(6)『大阪鉄道局管内路線図』(再掲)
▼空襲を受けて破壊された箇所と月日、修復された月日が記入されています。
▼戦中に作成された資料か、戦後占領軍が関係者に作成させたものかは不明です。
▼図中の「M」は凡例によると「maked cable」となりますが意味は分かりません。

(7)復員局『本土防空作戦記録(中部地区)』
▼戦後作成された記録で、「本本土沿岸に対する敵の艦砲射撃及8月に於ける敵の空襲状況」の節には以下の記述があります。

(7月)30日 05.30より08.30に亘り左の如く来襲す。
第一波 艦載機100機、熊野灘方面より近畿に侵入し飛行場、船舶、鉄道港湾施設を攻撃す。
第二波 P-51250機、伊勢湾より侵入し飛行場、艦船、軍事施設を攻撃す。

2.7月30日に展開していた米海軍・英海軍空母、米陸軍航空軍

(1)米海軍空母、英海軍空母
▼7月30日朝に本州南岸に位置していた米海軍タスクフォース38(T.F.38)所属の空母は、7月24日時点の15隻に空母ワスプ(USS WASP)が合流して16隻になっています。
▼英海軍タスクフォース37(T.F.37)所属の空母(4隻)と合わせて、各空母の30日朝の座標は下図を参照して下さい。

(2)米陸軍航空軍
▼7月30日当時、本州周辺にいた爆撃機以外の米陸軍航空軍の編制は7月24日と同じです。

3.7月30日の米海軍・英海軍艦載機、米陸軍航空軍の作戦任務

(1)全体
▼下図は、タスクフォース38の報告書にみられた7月30日の艦船攻撃の成果を示したものです。
▼黒く塗り潰された部分が、7月30日当日に艦船攻撃が行われたエリアです。
▼warshipは軍艦、merchantは商船です。

(2)7月30日の米海軍艦載機の作戦任務一覧
▼7月30日の作戦任務報告書一覧を列挙する前に、各作戦任務の情報は次の様式にしたがって整理しています。

●作戦任務名(カッコ内は報告書に記載された作戦任務名)
・報告書番号 飛行隊名 機種×機数 発艦時刻/着艦時刻 攻撃した地名及び摘要

▼凡例は『1945年7月24日橋本空襲編』を参照して下さい。

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