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女が女を生かしたらダメなの?ー文学フリマ東京に行く前に、試し読みをしよう。②

※記事のタイトルは、エッセイのタイトルとは異なります。

5月21日の文学フリマ東京36に持って行く新刊は3冊あり、
今回紹介するのは、
エッセイ(&少しの短歌と漫画)『ピンクが好きだと叫びたい』です。

このエッセイ、章によってシリアスなもの、笑えるものが分かれる一冊なので、まえがき・あとがき・漫画・短歌を除く全6章のうち2章分をまるごと掲載することにしました。
ぜひ試し読みしてください。
通販の予約も開始しています。


文学フリマ東京36詳細



第二展示場【くー02】が私のブースです。
詳細はこちらをご覧ください。

以下、『ピンクが好きだと叫びたい』サンプルです!

【まるごと掲載】HOW TO 大阪のおばちゃん

ハンドクリームを塗り忘れた荒れた手のひらに飴が置かれる。口に入れた甘みが少しだけ疲れを和らげてくれた。
「もう少しやで、アメちゃんなめながら頑張り」
 彼女はそう言って山を下っていった。
 もらった飴を舌で転がしながら私はまっすぐに自分の向かう先を見つめた。山頂の景色は覚えていないが、あのときの飴の味は、思い出そうとすればすぐによみがえる。
 大阪に生まれ育った私はいつかあんな女性になれるのだろうか。
 私が女について語るとき、欠かせないのが「大阪のおばちゃん」である。
その山登りの日から「いつか大阪のおばちゃんになりたい」と願っていたのだが、上京が決まったとき、「もうなれない」と落胆した。「大阪のおばちゃん」になれるかは住む場所で決まると思っていたのだ。
だが今は違う。大阪のおばちゃんは大阪にいなくても、志さえあればなれると考えている。
 世界中、どこでも。
いたるところで私たちは「大阪のおばちゃん」になれる可能性を手にしている。
さて、それでは大阪のおばちゃんになるために、20代や30代から何を心がけておくと良いのだろう。
私はリュックに飴をしのばせて外出するようになった。しかし今も家族や友人には「アメちゃんいる?」と言えるのに、知人ではない人に話しかける勇気はまだない。
最近は、大阪のおばちゃんの魅力や大阪のおばちゃんになるためのポイントをメモしている。
大阪のおばちゃんは、どんな世の中でも面白がる高度なスキルを体得していて、意識せずともぶれない自分の軸があり、大きな笑い声で私たちを励ます。
前置きはここまで。考え尽くした大阪のおばちゃんになるためのノウハウを紹介したいと思う。
 
一、大阪のおばちゃんは、常に周りの人の体調に気を配らなければならず、これは家族に限ったことではない。
 立ち寄ったコンビニで会った人、電車で近くに座った人、近くで泣いている人。彼らを見つけるやいなや、大阪のおばちゃんは「アメちゃん食べや」とそっと差し出して、彼らが受け取っても受け取らなくても、気にせずにこにこしている。
                難易度 ★★★★☆
 
その二、好きなファッションで練り歩く。
 原色やトラ柄が大阪のおばちゃんのトレードマークだと言われているが、彼女たち自身は気に入って着ているだけだろう。好きかどうか、着やすいかどうかが判断基準であり、他人の目を気にせずファッションを楽しんでいるのだ。
私はピンクやリボンが好きなのだが、ピンクは20代後半まで、リボンは10代までであきらめてしまった。
大阪のおばちゃんになるために再チャレンジをしなければならないと気を引き締める。
               難易度 ★★★☆☆
 
その三、お金を大事にしている。
 ある大阪のおばちゃんが電話で「お前の夫をつかまえた。身の安全を保障してほしいなら金を……」と言われて「ああ、ちょうどいいわ。旦那、好きなようにしといて。ありがとう」と言ってガチャ切りしたといううわさを聞いた。
 そのおばちゃんは何事もなかったかのように、テレビやパソコンの動画を見ていつもの日常を謳歌する。本当に「ちょうどいい」のかはさだかではないが、どんな状況でも今を楽しみ、自分の財産を大切にしている。
老後どうなるかわからない現代において、財産を守り抜くのは非常に大切なことだ。
本当に夫のことがどうでもいいのか詐欺と見抜いているのかは微妙なところだが、結果的にこういったケースはだいたい詐欺なので、犯罪から身を守っていることにもなる。
補足*念のため電話番号をひかえ、警察を呼んで夫が本当にさらわれているのか確認できれば「善良で聡明な大阪のおばちゃん」にレベルアップできる。
             難易度 ★★☆☆☆
 
書けば書くほど憧れてしまう。そしてアメさえ常備しておけば大阪のおばちゃんになれると考えていた自分の愚かさを思い知る。
高みを目指せ、未来の「大阪のおばちゃん」!

【まるごと掲載】女の敵は……

 私は女として生まれ、20代のころは合コンなどで男性に好かれる容姿だった。気づいたとき、それを自分の人生で生かして、できたら仕事でも利用しようと考えた。
 機会を得てイベントコンパニオン(略称イベコン)になった私は、髪を伸ばし男ウケするヘアメイクをして、せっせといろいろな企業のために働いた。イベコンは、生まれ持った容姿と、会社員時代に職場で培ったコミュニケーション能力が役に立つ仕事であった。
 イベコンの仕事はいろいろあり、毎回オーディションや書類選考がある。私は展示会でワンピースなどの衣装を着て、受付をしたり名刺をもらったりする案件に受かることが多かった。
 入った企業の魅力を最大限アピールするため、展示会で注目してほしい商品を聞いて学び、ナレーターコンパニオンとして、マイクで新商品の紹介をすることもあった。
 イベコンは主に女性がする仕事である。
 中には男性コンパニオンもいるが、彼らの本職はほとんどモデルであり、女性コンパニオンの中にもモデルやレースクイーンがいる。みんな自分の持っている才能、持ち前のスタイルや美貌で、社会に貢献している。
 ある年のクリスマス、マネージャーから電話がかかってきてパチンコ店の案件に入った。衣装は丈が短く胸元のあいたサンタコスで、露出NGだと事務所に伝えていたんだけどなと思ったが仕事は責任をもってやりとげるものだ。
 所属する事務所やクライアントのため客をイベントに誘導できるように声をはって力を尽くした。
 そんな中、ある女性客がはきすてるように言った。
「なんなの、その格好。同じ女として恥ずかしいわ」
 頭が真っ白になった。 
この人は私が着たくてサンタコスをしているとでも思っているのだろうか。
仕事なので抗議はできず、愛想笑いをして「すみません」と謝って、控室に戻ってから同じ現場のイベコンに「なんなん、あの人!」と愚痴った。
 ここまでなら「女の敵は女」と言い切れるかもしれないが、敵が男になる出来事ももちろんあった。
イベコン初期、経験のない私は展示会の案件に入れず、やりたい案件に受かるように、煙草のプロモーションガールで実績を作った。
年齢確認をしてから煙草を試してもらうのが鉄則であり、ディレクターの指導で若者には干支を聞くようにしていた。すぐに自分の干支が出てこなければアウトである。
煙草の案件は説明も重要で、宣伝のための長い言葉は事前にたっぷり研修を受けて覚えさせられている。一言一句、助詞さえ間違ってはいけないのだ。現場ではディレクターが見張って……いや、見守っている。
 その日の現場はクラブだった。耳を突き抜ける音に耐えて大声で宣伝をする過酷さも客には伝わっていない。
ある若い男性たちが近づいてきた。干支を聞く前に、ひとりが私の胸元をのぞきこんで笑いながら言った。
「見えちゃった」
 は?
一瞬何のことかわからなかったが、直後に今まで感じたことのないほどの屈辱を感じた。
 仕事の現場でのトラブルは避けなければといつものように愛想笑いをして耐えた。パチンコのときと同じである。
 イベコンの苦労はなかなか理解してもらえない。
女を売っていると見下されることもある。しかし私たちも社会を構成する一員だ。
 私はイベントコンパニオンの仕事を通して、リベラルでもラディカルでもない、独自の女としての考え方を持っているのではないかと思うようになった。
「我流フェミニスト」という造語がぴったりかもしれない。
イベコンを引退した今も、あのころの自分を誇りに思っている。いやなこともたくさんあったが、現場にいるイベコンみんなでディレクターやマネージャーに抗議して労働環境を良くしたり、クライアントに気に入ってもらって継続して案件をもらえるようになったりと、楽しかった日々が今もすんなりと思い出せる。
 性的搾取? そんな言葉でくくれる仕事じゃない。女が女であることをアピールして、持って生まれたものと後天的に培ったスキルで社会の役に立つ。
 それは「悪」なのか。
 今も私は社会に問いたいと願っている。

自分の中の「女」を見つめるエッセイ

このエッセイが持つ大きなテーマは、今の社会で「女らしさと言われていたものを肯定してはいけないのか」というもの。

テーマから重さを感じる人もいるかもしれませんが、それを自分ゴトに落とし込んで考えられるように書きました。

エッセイ以外の短歌と漫画は、同人誌掲載が初です。
ぜひ手に取ってみてください!



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