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ある日、少年は姿を消したー文学フリマ東京に行く前に、試し読みしよう。①

5月21日(日)
12時~17時
東京流通センターで開催の文学フリマ東京36。

私は第二展示場【く-02】
サークル名は「文は人なり」で参加します。

文学フリマ東京のお品書きです

新刊3冊の中でも問い合わせを多くいただいている、
『後味の悪いマイナー映画20選』
1章分を掲載します。

ぜひ試し読みしてみてください。
通販予約も受付中。(※押すと通販ページに。発送は5/23~)

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ラブレス
2017年・ロシア

 積もった雪と湖が画面に映し出される。ロシアの寒さが皮膚を通して体の奥深くまで伝わり、私を凍らせていく。
 暗い家の中で少年が涙をこぼす。両親の離婚話で、父も母も自分を引き取りたくないと話しているのを耳にしてしまったのだ。両親に気づかれないようにその場を離れ、自室に戻って声をひそめて泣き続ける。翌朝、いつものように彼はリュックを背負いコートを着て、学校へ行くためにアパートの階段を駆け下りる。
 学校へ行くために? 本当にそうだったのかはわからない。なぜならその後、少年は姿を消してしまうからだ。不倫に夢中になっている両親は、2日後に学校から連絡がくるまで気づかなかった。
 同じ窓が並ぶマンションは殺風景で住民の無関心さを表しているようだ。少年の捜索活動に熱心になってくれたのは、警察ではなくボランティアグループだった。これはロシアに実在する非営利の捜索隊がモデルらしく、少年が行きそうな場所を徹底的に探してくれる、本作で唯一ほのかな救いをもたらす人たちである。
生きているかはわからないが、遅かれ早かれ少年は見つかるだろうと私たちは思う。今まで見てきたフィクション映画の当たり前を信じる。
 映画は私たちの気持ちを無視するかのように進み「あれ、残り時間少しだ」と気づいた時、背筋に寒気が走った。
『ラブレス』。この映画のタイトルは「愛がない」なのだ。フィクション作品の「当たり前」にしがみついていた私たちに対する映画のしっぺ返しが始まる。
 捜索は果てしなく続くが、戸惑った表情の両親に息子に対する愛情がないことを私たちは知っている。
 やがてひとつの衝撃的な出来事にたどり着いたとき、なぜか私は「つらいけど答えが出る」と少し安心してしまった。しかし母親がとんでもないことを口にしたせいで、少年の運命はすべて読者の想像にゆだねられることになる。
 場面は切り替わり、その後、離婚した両親がほかの相手と生活している様子が映し出される。終盤で注目したいのは、母親の表情と、木の枝に引っかかっているものだ。
 両親の息子への愛。少しはあったと思いたいのに。

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こういった映画評を20本収録しています。
最後のページにはどの配信サイトで見られるかも掲載しました。
(2023年4月時点の情報であり、配信のないDVDのみの映画もあります)

数か月かけて作りました。
ぜひ手にとっていただけると嬉しいです。

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