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サクラサク。ep3

吾輩は猫である。名前は朔(さく)。それなのに最近、サクラというニンゲンに「クロ」という不本意な名前を付けられた。吾輩、未だ納得していない。

しかし、このニンゲン、知恵をつけて誘惑してくるようになった。
「ほら、クロ。ごはんだよ」
カリカリだ。ご主人様がよくくれた味。

ネコはネズミを食べるなんて聞くが、吾輩は生まれたときから家ネコだ。
動物を狩る勇気は持ち合わせていない。
ネコジャラシには目がないが。
だから、このカリカリが本当にありがたい。

サクラはいつもエサを地面に置く。
ご主人様はてのひらから直接くれていたが、サクラは少し怖がりみたいだ。

握手をしようと手を出すと、あわてて少し距離をとる。引っ掻いたりなんてしないのに。

だから、サクラが頭を撫でてくれようとするときは、大人しくされるがままなフリをする。
吾輩はサクラを傷つけないし、どこにも行かないよ、と主張するために。

本当は早くご主人様の元へ帰りたいのだが。

吾輩は、決してご主人様を愛しているのではない。ご主人様は途方もなく寂しがり屋なのだ。だから、吾輩がいないと困るのだ。
きっと今頃、めそめそとしているだろう。

だけど。

「一人って、寂しいね。クロ、私の家の子になる?」

ニンゲンはどうして寂しがり屋ばかりなのだろう。
吾輩はこの小川から離れることが出来ない。

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