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【2話の3】連載中『Magic of Ghost』

※この記事は【2話の2】の続きです。

「……っ! (お、俺か!? なんだよいきなりあいつ! 教員どころか校長に直接言いに行くって相当やばいだろ。なにもしてないぞ俺は!)」
「あぁ、どうですか彼は? クレアさんの元で働けそうですか?」
 校長の口から飛び出した言葉は、理解し難いものだった。
「わざわざロサンゼルスからこんな日本の小さな学校にいらしてくださって感謝しています。依頼を出して一ヶ月間……彼を見てどうでしたか?」
 俺はますます校長の言っていることに理解が出できなくなっていた。
 今現在の校長から出る言葉は、すべてが怪し過ぎるからだ。
「正直に言います。まったくなんの訓練も受けず、あそこまでできる人間がいるとは思ってもいませんでした。本当に日本にはディヴァイン・ジャッジメントのような組織はないのですか?」
 俺は完全に混乱した。
「(デバ、はい?)」
 なにやらクレアの口からわけのわからない英単語が発せられた。
「ありませんよ。そもそもアメリカと違って、超能力や霊能力を利用して犯罪をなくすという発想が日本にはありません。第六感のようなものは存在しないと思っているのです。……桐谷優鬼。そうですか。私の目に狂いはなかったのですね」
「はい。……ただ実戦には向きません」
「……と言うと?」
 声だけしか聞こえてはいなかったが、会話の流れが一変したのがわかった。
「彼はまだ能力の使い方をまったく理解していません。私には『派手に戦えばいい』というように感じられました。時には……いえ、戦闘のほとんどが隠密に行われています。無駄に霊力を放出し続ければ、その霊圧で色々な場所から霊たちを呼び寄せてしまうからです。あのまま彼が組織に入れば間違いなく殺されます」
「……その彼の教育のためにあなたを呼んだのよ。クレアさん」
 俺の心臓がもう限界だと言ってきた。
 それに今のクレアの言葉、まるで先ほどの屋上での戦闘を一部始終見ていたかのような口ぶりだ。
 俺はなにがなんなのかまったく理解ができず、唯一頭に入ってきたことと言えば、得体の知れない金髪女がオレンジジュースを注文していたこと。そして「デバなんとか」というところにあいつが入っているということだけだ。
「ところでクレアさん」
「はい」
「桐谷優鬼はもちろん、そのお友達にもこの件について他言していませんよね……?」
 校長が言葉を発した瞬間空気が一気に変わった。まるでクレアを脅すかのように、校長室の周辺一帯の空間をねじ曲げた。その影響を外でダイレクトに受けた俺は、先ほど食べたばかりの焼きそばパンを吐きそうになり、俺の胃袋が決して美しくはない花を地面に咲かせようとしていた。
「(くっ……お花畑は引っ込んでな)」
 小さな戦闘がここでも勃発したが、必死さゆえの俺の勝利だった。自分の胃袋に勝ったのだ。
 クレアが階段で俺を引き止めたのは、もしかしたらこのことを俺に告げようとしていたのかもしれない。
「もちろんです」
「……そうですか。それならいいのです。ごめんなさいね。変な空気にしちゃって。つい不安な気持ちが出てしまって、悪気はないのよ。ごめんなさい」
「いえ。慣れてますから」
 クレアは平然とした声色で、たった今体に受けた霊圧を慣れていると言っている。重く、そして肌に突き刺さるような霊圧は、少しでも霊感のある者ならば、一瞬で意識を失うほど禍々しいものだった。
 それだけ校長から発せられた霊圧は凄まじいものだったのだ。
「やはりディヴァインのソルジャーさんたちは素晴らしいですね。……ただ」
「……?」
「扉の向こうの子にはちょっと辛かったようですね」
 たった今まで全身から流れていた汗が、まるでなにごともなかったかのように俺を置いて一気に去っていった。
 ここからは相当な修羅場になると俺の全身が告げている。このままでは殺されるのが目に見えている。
 俺はその場から一瞬で消える技を身につけたいと心から願ったが、そんな技はあるはずもなく、足に走れと命令しても居眠りをしているのか一向に動こうとしない。
「……くっ!(いつまで寝てんだバカ野郎!! 俺の足っ!!)」
 『足』のくせをして、完全に『腰』を抜かしているやつを起こそうとしていた時、扉の向こうから確かな気配を感じた。その気配はヒールの足音を立てて俺に近づいてくる。
 その瞬間俺は死を覚悟した。とてもではないが、空間を歪ませるようなやつや、それを平気で『慣れてます』と言うようなやつに勝てるはずがない。
 しかし、逃げるにも俺の体は、後ろの扉を振り向くことすらできないほど硬直しきっていた。
 そして、扉の前で突然ヒールの足音が止まった。
 『もう駄目だ』と思った瞬間、閉じられていた扉がゆっくりと開いた。
「(くっ……ここまでか)」
 俺は死を覚悟して、恐る恐る扉の方を振り返った。
 地獄の門番、あるいは全身黒タイツに巨大なフォークを構えたような生き物が出てくると思っていたが、そこにはそんな想像を遥かに凌駕するほどの聖母のような姿があった。そして天使のような微笑みで俺を迎え入れてくれた。
「そんなところでいつまでも腰を抜かしていないで中に入りなさい」
「ちょ……優鬼っ!! なにしてんのそんなところで!」
 今さら階段での件を聞けるわけもなく、俺は天使の歓迎を受けて4人がけのソファーに座った。
「桐谷君なにか飲みますか?」
「(聞いたことあるぞこのセリフ)じ、じゃあ……コーヒーで」
 俺はブラックコーヒーに目がなかったが、そんな注文ができるはずもない。
 とりあえず先ほどまでの緊迫感がなくなったことに安堵した。
「ごめんなさいないわ」
「(ないのかよ……)じゃあ、オレンジジュースで」
 安心して少しのゆとりが心にできたからか、心の中で突っ込みを入れられる程度にまでは落ち着いていた。
「あははっ! オレンジジュースとか頼んじゃって優鬼こどもみたぁい!」
「てめぇが言うなっ!」

【2話の4】へつづく……

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