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創作小説・随筆・詩

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自作の小説や随筆、詩を紹介します。拙いですがすべての作品の著作権はかたりすと@脇七郎に属します。
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2024年6月の記事一覧

詩「ラムネの音」 #シロクマ文芸部

ラムネの音 ラムネの音は無垢の証 セピア色の真夏の空の下 コールタール状の海水が打ち寄せる…

触媒雑記帳(4)~かたりすとの日常「少女と大人」

 七 少女と大人  平日の朝八時前後にエレベータ前で時々会う少女。小学校高学年と思われる…

「天ぷら不眠」~毎週ショートショートnote参加作品

 野菜天は暗闇の中にいた。四方を囲まれた箱の中にいる。ときたま天井から指す光に照らされて…

「前借り」~シロクマ文芸部参加ショートショート

 月曜日は一週間の始まり。社畜に戻る日。  だけど手元にはこの錠剤があった。夜市で手に入…

触媒雑記帳(3)~かたりすとの日常「ああ無常」

 六 壊れる  先日洗面所の照明が切れた。電球を交換した。  同じ日にトイレの照明も切れた…

「ある晩のこと」~詩集「悪魔に乾杯」から

ある晩のこと 感覚は冴える 壁を這う電灯の光と陰 扉を照らし出し まだら絵を描き 真空を焼く…

「厳かな食事」同族狩り#2~毎週ショートショートnote参加作品

真っ赤な月明かりの深夜、N町通りは野良猫すら姿見せぬほど静まり返っていた。その一角の古びた酒場で臙脂色のドレスと白いベエルで着飾った一人の少女がカウンター席で紅茶を飲んでいた。 荒っぽい音をたてて店の扉が開き、見るからに柄の悪そうな酔っ払いたちが入ってきた。 「女がいるぜ。隔週警察が非番なのによ」 下衆な笑いを浮かべた大男が言った。隔週警察とは二週間に一度しかこの界隈を監視しない警察の俗称である。治安が悪すぎて警察はこの区域を見放していた。 「嬢ちゃん、俺達と遊…」 言いかけ

触媒雑記帳(2)~かたりすとの日常

四 雀 土砂降りの朝、マンションの玄関ロビーの前でとんとん跳ねている一羽の雀がいた。近…

随筆「紫陽花」~シロクマ文芸部 #紫陽花を

紫陽花を今年も見られるとは思わなかった。 そうつぶやいていた父が翌朝亡くなった。 庭の紫陽…

触媒雑記帳(1)~かたりすとの日常

一 初夏 今朝、郵便受けから朝刊を取り出しふらつきながらエレベータに向かう時、マンション…

[創作小説] 短編「午前零時の乗客」

 柱時計は午前零時前をさしていた。  真夏の夜にしては妙に澄んだ空気で心地よいのだが、ど…

[創作回顧録] 散文詩「憂鬱」~高校生の頃こんなの書いてた自分ていったい...

高校生の頃に文学青年かぶれだったことは以前の記事に書いたとおりですが、またまた出てきまし…

「同族狩り」~毎週ショートショートnote

俺は白い壁とステンドグラスが印象的な路地裏の小さな仏蘭西料理店で昼食をとっていた。といっ…

日常に潜む光と影~海外渡航雑記

いずれも一九八〇年代のことであるから、現在と齟齬があるかもしれない… ドイツ銀行の裏道 一九八五年冬、フランクフルトは大雪でトランクを引きずってホテルから目と鼻の先だというのにメインストリートを歩くだけでも大変だった。目的地はドイツ銀行。やっとの思いでたどり着いたが荘厳な建物を見上げるだけで「天下のドイツ銀行」の風格に気圧された。その日は、ドイツ銀行で欧州通貨統合(マルクやフランなどの「ユーロ」への移行)に関する会議に出席する予定だった。 会議が終わったあと、お洒落な商店