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触媒雑記帳(4)~かたりすとの日常「少女と大人」

 七 少女と大人
 平日の朝八時前後にエレベータ前で時々会う少女。小学校高学年と思われるが制服をきちんと着こなして黄色い帽子をかぶりわたしと会うと「おはようございます」といつも先にお辞儀をしてくるのでこちらが恐縮してしまい「おはようございます」とかしこまって返事をしてしまう。見かけは華奢で小さな可愛らしい女の子だが物腰は完全に大人だ。
 その子は同じ高層階に住んでいるので朝の通勤通学ラッシュ時のエレベータでよく遭遇するのだが、降りてきたエレベータに乗っている人数が多いと「お先にどうぞ」と彼らに言って決して無理に乗ろうとはせず、遠回りになるがもうひとつあるエレベータのほうに駆けていく。小さいからいくらでも乗れるはずなのに無理をしない。何度もそういう光景を見たが本当に賢くて礼儀作法が身についたいい子だと思う。会ったことはないが、こんなふうに育てた親の人柄も自ずとわかるというものだ。
 一方で、今朝などは真逆の大人がいた。エレベータ内はすでに満員にも関わらず母親と小学生の娘の二人連れがいて、母親がためらう娘の手をひくように無理矢理押し入ってくる。遠慮のかけらもない。無理に乗るからブザーが鳴ってやっと降りたが見るからに不平そうだった。子供は戸惑うばかりである。こんな親に育てられたらこの先どうなることやら思いやられる。
 ちらっといつもの少女の姿が浮かんだ。
 あの子のほうがこの母親よりはるかに大人である。


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