「前借り」～シロクマ文芸部参加ショートショート

　月曜日は一週間の始まり。社畜に戻る日。
　だけど手元にはこの錠剤があった。夜市で手に入れた謎の薬。これを一錠飲めば、先週の土曜日の朝に戻ることができる。かなり続けて使った気がするがまあいい。彼は迷わず一錠飲んだ。一瞬の目眩と共にたちまち土曜の朝に時間が巻き戻った。心が躍る。これでまた土日の連休を堪能できる。音楽聴いて昼からビール飲んでテレビで映画を観るのだ。　
　そんな風に過ごしているとたちまちまた月曜日の朝がきた。もう一錠、そう思って手に取った瓶はもう空だった。そして但し書きが目にはいた。
「副作用：巻き戻った時間は未来の前借りです」
　前借り？なんかよくわからないが空では仕方ない。おれは渋々嫌々会社に向かった。そしてしばらくしてから意味がわかった。働いても働いても土日が来ないのである。金曜日の次の朝は月曜日だった。休みがない。へとへとである。いったい何錠飲んだっけ。おれは泣きそうになった。
　そしてそれから半年以上、土日が訪れることはなかった。

（了）