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「ある晩のこと」~詩集「悪魔に乾杯」から

ある晩のこと

感覚は冴える
壁を這う電灯の光と陰
扉を照らし出し
まだら絵を描き
真空を焼く

空気は床を這い ソファを撫でて
キッチンを見る
出窓を覗いてから 客室へと向かい
窓を見やる

窓の外は異端児で溢れ帰り
寒空に臭気すら漂う
月は赤く燃えて
街灯はマッチ棒のごとき幽かな灯り
こんな夜には幽霊がよく似合う
ひしめくコンクリートの壁に挟まれて
薄命な幽霊達がぶらついている
公園は大騒ぎ
ブランコに乗り
滑り台で遊び
鉄棒でひと回り
真面目な幽霊達が楽しんでいる
だが
そのうち赤い月に霧がかかり
白き世界の始まりを告げる

感覚はいまだ冴えてはいるが
光は既に玄関にいる
下駄箱を確認して
照明のスイッチを切り
鍵を掛けて 戻る
うつろな世界へと戻る

(一九八〇年頃)


学生時代の詩です。
今は詩はなかなか書けないですね。
たまに書くと理屈っぽくなってしまう。
希望、絶望、情熱、憎悪、愛…
そのような感情が渦巻くことがあまりないので。。。

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