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戦略策定の前に決めること-戦略上位概念について-

今週もウェブ解析士のnoteをご覧いただきありがとうございます。
ちょっと、「中の人」がぎっくり腰を患って長時間作業することができなかったので更新がこんなタイミングになってしまいました。
さて、今週はマーケティング戦略のさらに上位、ハイコンセプトとなるものについて書いてみようと思います。
戦略の上位に位置するものとして、「中の人」はこれらを【戦略上位概念】と呼んでいます。世間ではMVV(Mission・Vision・Value)と呼ばれるものですね。

戦略的上位概念とは

公式テキストでは「ブランディングの方向性を決めるコンセプトワーク」として書かれている戦略上位概念ですが、それが持つ影響はブランディングの範疇にとどまりません。全ての戦略の上に立つ”信念”とも言えるものだと「中の人」は考えています。
戦略上位概念とは、別の言い方をすれば「経営理念」です。企業の在り方そのものを定義し、企業の存在意義や目的を打ち出すものです。戦略が、ある目的達成のための道筋であるとすると、その目的を定義するものが戦略上位概念ですので、ブランディング戦略・マーケティング戦略・採用戦略etc…”戦略”とつくものは全て戦略上位概念に基づいて策定されるのが自然です。
そういう意味で企業活動の根幹であり、全ての戦略の上に立つ概念が戦略上位概念なのです。

戦略上位概念の意義

上述した通り、戦略上位概念とは企業の目的や存在意義を示すもの、すなわち企業のあり方を定義するもです。これらを明文化することは特に以下の3点において意義を見出すことができます。

経営の基軸を明確にする

何のために企業活動を行うのか、何を目指して活動するのか、どんな価値観を大切にしているのかという点を明確にすることで、難しい判断を迫られたときや判断に迷うような時に立ち戻ることのできる”経営の基軸”としての役割を果たします。

組織を強くする

戦略上位概念を組織に浸透させることで、個々の社員はそれを軸に自律的な判断・行動ができるようになります。また、戦略上位概念が社会的に意義のあるものであれば、「社会に役立つ仕事をしている」という誇りから士気意欲の向上につながります。加えて、魅力的な戦略上位概念は優秀な人材を惹きつけ、企業の価値観に共感する人材の採用につながります。
いわゆるインナーブランディングに効果を発揮します。

信頼の獲得

確固たる戦略上位概念を社外に発信することで、企業活動を通して社会にどんな価値を広め、貢献しているのかという企業の想いを伝えることができます。その想いに共感する人からの信頼獲得を可能にします。
こちらはいわゆるアウターブランディングにつながります。

と、いうように直接的にはコーポレートブランディングに大きく寄与するため「ブランディングの方向性を決めるコンセプトワーク」という公式テキストの捉え方は正しいですね。ただし、ブランディング”にしか”効果がないという捉え方は極端であり、間違っていると思っています。

戦略上位概念の構成

戦略上位概念は、一般的にはミッション・ビジョン・バリューという要素で構成されています。その呼称は「経営理念」や「社是」といったものもあり様々です。ここではミッション・ビジョン・バリューに加えて、近年注目を浴びているパーパスという考え方についても簡潔に説明してみます。

ミッションについて

まずは、公式テキストの既述を見てみましょう。

ビジョンを実現するための目的で、やりたいことや果たしたい役割を説明します。カスタマーや社会に対して貢献する姿を書いたり、自分たちが極めたい技術やサービスを表現したりすることもあります。

『ウェブ解析士認定試験公式テキスト2023』

ちょっと、これでは言葉不足のような気がするので、「中の人」の見解を詳述していきます。

ミッションは日本語にすると「使命」です。何のために(WHY)、誰に対して(WHO)、どんな価値を(WHAT)を提供するのかを定義しています。もっと端的にいうと、何のために企業活動をしているのか=存在意義を定義するものです。
つまり、事業の原点とも言えるパッションを指し示すものとなります。この際に注意すべき点は、ミッションの定義はすなわち事業ドメインを定義することと同義です。事業ドメインとは、どのフィールドで企業活動を行うのかを定義するものです。これについては、過去に書いた記事を参照ください。

そうは言っても、創業時のパッションがいまいちよくわからないという企業もよく目にします。そういった場合、「中の人」は【こだわり】という表現を用います。普段、顧客と接するときや業務を遂行するとき、何にこだわりを持って活動しているのかを突き詰めることで等身大のミッションを導くことができます。綺麗な言葉で着飾るだけでは、リチャード・P・ルメルト氏が指摘するような”悪い戦略”となり、機能しないお飾りになってしまいます。
では、良いミッションの条件とは何なのでしょうか。いくつか考えられるものがありますが、最低限備えていなければならない条件が下記4点だと考えています。

1)自社の特徴や強みが強調されていて、比類のないもの
ミッションはその企業の存在意義を示すものです。他者が模倣できるようなミッションを掲げては、「自社は代替が効くものです」と宣言していることと変わりません。
2)柔軟性・拡張性があるもの
ミッションは事業ドメインを定義するので、時代の変化やイノベーションにも対応できる余地を残し、マーケティング近視眼に陥らないように注意します。
3)様々なステークホルダーを考慮しているもの
自社が良ければ他はどうでも良いと言ったミッションは社会に受け入れられません。また、消費者など業界外の人が専門用語を理解できるとは限りません。誰がみても同様の理解を得られるような言葉選びが理想的です。
4)創業者や経営者の言葉で語られていること
既述していますが、ミッションとは創業時のパッションやこだわりの言語化であり、ロジカルである必要はありません。どういった思いで事業をおこなっているのかを熱量を持って届けるには、当人の言葉で語るのがベストです。

ビジョンについて

こちらについても最初に公式テキストを参照してみましょう。

実現したい社会、環境、未来を表現した理想の状態です。理想の状態を実現したときの自分たちや周囲の状況を説明するストーリー化して表現する「ペインテッドストーリー」を作ることもあります。

『ウェブ解析士認定試験公式テキスト2023』

公式テキストの記述通り、希望する未来の状態を表現するものです。不確定な未来を示すため、抽象的になってしまいがちです。5年後、10年後と言った想像しやすい未来にゴールを設定し、可能な限り具体的である方が理想的です。前述したように、企業活動の基軸になるものが戦略上位概念です。その一部であるビジョンが抽象的では行動にブレが生じてしまいます。具体性を持たせるという前提条件のもとで、さらに良いビジョン設定に必要な最低限の条件を下記の3点だと考えています。

1)夢があること
荒唐無稽なビジョンは共感されるどころか失笑を買います。しかし、当たり前のように達成できるような卑近な目標では、組織内の雰囲気を弛緩させ、事業の停滞を招きます。戦略上位概念の意義である「士気を高め、組織を強くする」効果は見込めません。
2)強みや現在の事業内容を考慮している
実現可能なもので、市場や消費者にとってインパクトのあるものが理想です。自社の事業内容とかけ離れたビジョンでは説得力に乏しく、強みを活かせなければ達成できず掲げただけで終わってしまいます。
3)数値目標を掲げない
できるだけ具体的にと述べましたが、数値目標にしてしまうと景気や産業構造の変化によって目標が変動することになります。例えば、「〇〇円を売り上げる会社になる」とビジョンを掲げた場合、物価変動や為替変動により目標のハードルが上下することになります。
そのため、定性的な表現であったり、相対的な地位(業界No.1など)を利用した表現が好ましいとされています。

バリューについて

公式テキストには記載のないものの、一般的には戦略上位概念に位置づけられるのがバリューです。バリューとは組織内で共有する価値観のことを言います。もっと言うと、ビジョンを達成するためにとるべき行動様式を指します。その価値観に基づいて行動することがビジョンの達成へとつながっていくと言ったイメージですね。例えば、「信頼される企業になる」というビジョンを掲げたとして、「利益重視」という価値観を据えてしまうと、ビジョンの達成は難しそうですよね。逆に「嘘をつかない」という価値観だけでは物足りなそうな気がします。
このように、ビジョンに到達するために今とるべき行動の拠り所になる価値観をを、過不足なく定める必要があります。
良いバリューにするための最低条件は以下の3点であると考えています。

1)具体的にする
バリューとは、その組織に属する人の行動様式を規定するルールのようなものです。したがって、組織に属する人みんなが同じ解釈を持って行動できるようにしなければなりません。その価値観に従った際にどのような行動を取るべきかイメージできる程度には具体性が必要になってきます。
2)環境変化に左右されない拠り所にする
価値観とは、モラルや倫理観のように不易なものであるべきです。時代の変化や経営状況によって変えざるを得ない価値観では組織内で深く浸透させることが難しいものです。
3)人間性があること
どんな崇高なものを掲げても、実行するのはその組織内の人間です。組織内の人に共感してもらえなければ、その価値観に基づく行動は引き出せません。そして、共感を得やすいのは人間性のある内容であると言われています。

(おまけ)パーパスについて

ビジョン/ミッションと同じような枠組みに”パーパス”というものがあります。近年、注目されているパーパスは日本語にすると「社会的存在意義」などと訳されます。社会において、自社がなぜ存在し、どんな社会を目指していくのか定義するものです。
ビジョンが目指す未来像を定義し、ミッションが存在意義を定義するというこれまでの記述と照らし合わせると考え方が似ているように見えます。
似たような考え方でありながら、ビジョン/ミッションとパーパスが決定的に違うのは、語る際の主語だと言えます。
ビジョンやミッションは「私(の会社)は〜」と言ったように一人称で語られますが、パーパスは自社を取り巻く多様なステークホルダーや地域、環境などを含んで「私たちは〜」と言った三人称で語られることが多いです。
言い換えると、パーパスは社会においてどのような役割・責任を果たすのかという社会性を含んだものだと言えます。
また、似たような考え方にCSR(企業の社会的責任)や、CSV(共創価値想像)と言ったものが挙げられますが、文字数がすごいので割愛します。(笑)

まとめ

戦略上位概念とは、企業活動の根幹となる考え方・思想・哲学の総称です。よく、ブランディングに関する話でよく取り上げられますが、企業活動全体に影響を与えるものであると認識すべきだと考えています。
ミッションは存在意義を、ビジョンは理想の姿を、バリューは行動様式を規定します。ただし、大切なのはこれらの言葉や枠組みに囚われるのではなく、「なぜ事業を行うのか」「どうなりたいのか」という問いに対する答えを明確にすることです。
目指すべき方向性が定まると、資源配分などの戦略的決定や、どう成し遂げるかと言った戦術的決定を行えるようになります。そのため、戦略上位概念は企業活動をする上で最も大切なものの一つとなります。

あとがき

今週も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
「中の人」はこの辺りを業務として扱うことが多いのでなんだか筆が乗ってしまったようです。冒頭にも触れた通り、ぎっくり腰を患って、長時間の作業が苦しかったので割と書けそうなテーマを選んだつもりが、逆にヘビーになってしまいました。(笑)
ちょっと小難しい内容になってしまったので、箸休め回をどっかで作りたいですね。

そういえば、公式テキスト2023年版が手に入るようになりましたね。
早速開いてみたのですが、だいぶデザインが刷新されて雰囲気が変わりましたね。まだ、中身を詳しく読めていないのですが、追記された箇所や更新された箇所を見つけたら共有しますね。
それではまた来週お会いしましょう。

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