見出し画像

作り手と買い手が直接対話するなかで、社員が自信を持てた2日間|深海産業有限会社 深海耕司さん

今回は、昨年11月の和歌山ものづくり文化祭2022に参加された深海産業有限会社 専務 深海耕司さんのインタビューを紹介します。

(聞き手:和歌山ものづくり文化祭 実行委員長 菊井健一)

◆関連記事

―きのくに信用金庫さんからのお声かけがきっかけでしたよね。そのときはまだイベントのロゴも会場のイメージもなく、どういうことをやるかも分かりづらかったと思います。何が決め手で出展されたんでしょうか?

普段から信頼関係のあるきのくに信用金庫さんからの話で、しかも第一回目というのは光栄なことなので、間違いないだろうと。
ワークショップはしたことがなかったので不安はあったのですが、工房のなかで話したところ「ぜひともみんなで参加しよう!」と意見もまとまって出展を決めました。
ただ、最初どんなものをしたらいいのか、まったくイメージが湧きませんでしたね。

―外から見ていると、出展エントリーのときには既にしっかりと決まっていたように感じましたが…

ぜんっぜんそんなことないです。最終的には自分たちの武器はコレだと自信を持てましたが、すごく苦労して考えたんですよ。笑

僕らのなかでは、まずは素人の方や小さい子でも出来るものをしようと決めて、社内でどんなことをしたらいいかと検討を始めました。他社さんは時間をかけて作るものが多いだろう。そのなかで、自分たちは10分くらいの短時間で楽しんでもらえるキッチンブラシ体験にしようと最終的に決まりました。

―他社と比較したポジショニングまで分析されて決めていかれるというのはすごいなと思います。

やっぱり、自分たち1社でやることではないですから。
皆でつくる和歌山ものづくり文化祭という場があって、いろんな企業が出ている。そのなかで、来場者さんに楽しく回ってもらえたらいいなと考えた時に、僕らはじゃあ短時間でできるコンテンツだと。僕じゃなく、職人が言ったんですけどね。笑

あと、僕らは普段のものづくりのなかでも伝統産業の既成概念に囚われないというスタンスを大事にしています。 
自社ブランドであるBroom Craft 自体も、伝統が抱えている課題を違う角度から見て、自分たち独自でやってみようと始めた事業。だから、ルールはないんですよね。新しいことをどんどん取り入れよう、ダメだったら別のやり方を考えようと、普段の仕事のなかでもシフトしていくクセがついています。
なので、ワークショップも「こうやってみたらいいんじゃない?」と自由な発想で考えられたんだと思います。

ー当日、僕は本部から会場を見ていましたが、いろんな人が深海さんの箒を持っていらっしゃいましたよね。あれ?みんな買ってるじゃん!?って思いました。笑

ありがたいですねー!笑
実はこれ、僕が売ったわけじゃないんです。従業員が接客して販売しました。これが、もの文ではいちばん大きかったんですよね。
ものづくりの会社だから、僕以外が接客する事なんて今までなかったんです。だから最初はちょっと心配したんですが、従業員に「接客もしてみて」と言ったら、みんなすごく丁寧に説明して、お客さんも喜んで買っていただける。
その光景をブースの後ろから見ていて、もっと深海産業って違う角度で新しいことができるんじゃないかなという可能性が見えました。

ーもの文って、モノを売りましょうというイベントじゃなかったのが良かったのかなって思います。接客に慣れていない職人さんが真摯に伝えたから、買いたいと思ってもらえたんじゃないかと。

一生懸命モノを作ってる人が、一生懸命そのモノの良さを説明するという姿が刺さったんだと思いますよね。そういう空気感を、出展企業みんなで共有して作ることができたのだと思います。
あと、お客さんも理解いただける方が多かったですね。
僕らのブースには、家族連れの方だけじゃなく、プロダクトデザイナーさんがけっこう来ました。これだけの企業が揃って、本気で考えた体験を集めてるからこそ、何かの参考にしようと目的を持って来る方や、目が肥えたお客さんも多かったです。

ー実は和歌山で成立するかどうか、僕がいちばん心配していたんですよね。だから、来場者に各社の体験や商品の価値がちゃんと伝わった事は、僕にとっても自信になりました。
当日で苦労したことやトラブルはなかったですか?

ひとつだけ、これ自社がミスったんですけど、880円の価格設定はお釣りの10円がなくなって大変でしたね。それくらいしか思いつかないくらい、運営メンバーのフォローはバッチリでした。笑
事前予約や全ブース共通のキャッシュレス導入もよかったですね。高額の商品はクレジットカードなのはもちろんですが、PayPayやIC決済も多くて、改めて時代はキャッシュレスだなと感じました。

―クレジットカードが使えたことも高額商品購入の後押しになっていたようで、運営としてはうれしいです。
もの文に参加して一番よかった事を聞こうと思っていたんですが… 先ほど話があった「職人が接客の機会を持てた」というところでしょうか?

まさに、それに尽きますね。
いままでは売るのは僕の仕事、作るのは職人の仕事だったんですが、社員一同、全員参加で取り組めたことで、売ると作るの合わせ技が出来た。それも、二日を通して大きなトラブルもなく過ごせた。
これが僕たちにとって自信になりましたし、お互いに普段とは違う部分が見えたんですよね。「この人ってこんなに接客が出来たんだ」とか、「こんな風に教えたらうまくいくんだ」とか。
社員それぞれがスキルアップできて、僕も従業員の知らなかった面が見えて、会社としても個人としても強くなりました。

ー今までの展示会ではなかなか任せられなかったことを、もの文では出来たのはなぜなんでしょう?

文化祭って、祭じゃないですか。みんなこのキーワードで入ってるので、失敗してもまぁええわ!という感覚でエンジョイできました。ほんとはダメですけどね、失敗。笑
そういう意味では、「文化祭」ってタイトルは良かったですね。うちだけじゃなくて参加企業みんなに「お祭り感覚」「失敗してもいいじゃないか」という意識があったように感じます。
この感覚って、やってるうちに分かっていくし、終わって振り返ってみると「なんか、あの感じってよかったよな」って思っちゃうんですよね。職人たちも自分たちなりに考えることが多くなったんじゃないかなと思います。

ーもの文が終わって半年たちますが、何か変化や新しく取り組めたことはありますか?

もの文のあと、京都ギフトショーに出展したんですが、今回は初めて従業員もひとり抜擢して連れていけたんですね。その人に前に立ってもらって販売してもらって。そしたら、今まで展示会なんて出たことなかった従業員が、展示会の来場者というプロ相手にきちんと接客できて、お客さん掴んでくるんですよね。できるやん!みたいな。笑
もの文がなかったら、京都ギフトショーもいつもの感じで僕がやってしまってたんですが、あの経験が自信になって柔軟にシフトチェンジできました。

―昨年も大盛況でしたが、もの文2023に向けてもっとこうしたい!という想いはありますか?

実はすでにひとつやりたいことがあって。
前回は短時間で簡単にできるキッチンブラシ作りだったんですが、今年はもうひとつ予約制にして、もっと難しいものづくりに挑戦してもらうと思っています。もちろんキッチンブラシのように手軽に満足してもらうものもやりますが、もう一段ランクを上げて「This is made in Japan」を感じてもらいます。本気で僕ら職人の技に挑戦したいって人に満足してもらいたいですね。

ー今年の深海さんはさらに磨きをかけてきそうですね。ウチの体験コンテンツ、どうしようかなぁ笑

振り返ってみたら、こういう「どうしようかなぁ」ってみんなで言い合ってた時間が楽しかったですよね。ほんと楽しかった。笑
今年も参加できるのが楽しみです。もの文2023も、またよろしくお願いします!

深海産業(有)
所在地 和歌山県海南市阪井1391-4
会社HP https://fukami1178.jp/

聞き手
菊井健一|和歌山ものづくり文化祭 実行委員長
有限会社菊井鋏製作所 代表取締役。祖父の代から続く美容ハサミ製造会社の3代目としてものづくりに携わる。2022年、和歌山ものづくり文化祭を企画し、実行委員長を務める。自宅の庭で海外ビール片手にBBQをするのが至福の時間。

#体験 #ものづくり #職人 #和歌山 #工場 #伝統工芸 #オープンファクトリー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?