【映画評】「パリは燃えているか」(1966) パリが燃えなかったせいで平和ボケしたフランスによるプロパガンダ映画

「パリは燃えているか」(ルネ・クレマン、1966)

評価:☆★★★★

 10月13日、BSプレミアムで放映されていたのをなんとなくダラダラと鑑賞。ナチス占領下のフランスのレジスタンスを描いた、今どき顧みられる機会も少なそうな大作映画である。その長さ、3時間弱。
 ああ、長かった……。
 恐ろしく冗長で退屈な映画だった。テンポが悪すぎる。戦争映画のくせにのんびりし過ぎである。なんとなくダラダラと観ていても、ひたすら苦痛なだけだった。
 どうやら製作中、ド・ゴールによる露骨な検閲があったらしい。しかもフランス共産党とフランス労働総同盟の支配のもとで制作がなされたため、左派からの圧力も強かったらしい。映像がモノクロなのは、当局の許可を得るためハーケンクロイツの赤い部分を緑に塗って撮影したのをごまかすためだったらしい。――というような裏話が書かれたウィキペディアの数行の記述のほうが、3時間弱の本編よりも遥かに面白い。本編は観る価値なし!
 ここまでひどい作品に仕上がったのは、オールスターキャストのせいでもあるだろう。ジャン=ポール・ベルモンド、アラン・ドロン、カーク・ダグラス、オーソン・ウェルズ――ビッグな俳優を集めすぎると、見せ場を盛り込むために映画が間延びしがちである。しかも監督はクレマン、脚本はゴア・ヴィダルとフランシス・フォード・コッポラ。スタッフまでオールスターキャストだ。おまけとばかりにド・ゴールと共産党が二重に圧力をかけ、検閲官までオールスターキャストである。
 劇中、「まさかフランス人が(ナチ側の)スパイだっただなんて……」というレジスタンスのセリフがあって笑ってしまった。おーい君たち、ナチ時代のフランスについて、なにか重大なことをなかったことにしていませんかー。
 はいはい、ナチス・ドイツは絶対悪で、一方フランス人民は全員善良で、全員レジスタンスを支持していて、全員解放の日を待ち望んでいたんですよね、わかってますよ……。そんな善良な市民がひしめくパリが燃やされなくてよかったですね、めでたしめでたし、ワルシャワみたいな辺境の地とは、歴史の重みが違うんだから……。

 あまり関係ないが、映画のあと、引き続き『映像の世紀バタフライエフェクト』の「ヒトラーVSチャップリン 終わりなき闘い」特集が放映されたのでこちらも鑑賞した。たかが、ドイツから遠く離れた地でヒトラーを揶揄するプロパガンダ映画を撮ったという程度のことで、チャップリンを「ファシズムによる迫害の被害者」扱いする大げさな内容には笑ってしまった(1933年のドイツで「マブゼ博士の遺言」を監督したフリッツ・ラングじゃあるまいし)。チャップリンの映画を検閲するなんて、ナチス・ドイツはなんて悪い奴らなんだろう。自由に映画を作ることもできないなんて、ファシズム社会は恐ろしいなあ。
 ん、でも待てよ、1966年にもなって大統領が映画製作に口を突っ込んでくる、野蛮な「自由・平等・友愛」の国もあったようなのだが……。

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