#25 大手テック企業ハンターのリナ・カーン氏、スタートアップへの影響は?
大手テック企業が世界中で訴訟を起こされている中、バイデン政権は今月、連邦取引委員会(FTC)の新しい委員長としてリナ・カーン氏(Lina Khan)を任命しました。32歳の同委員長は、大企業の独占禁止法の問題、特にビッグテック企業に対する発言力が強いです。2017年、カーン氏は「Amazon's Antitrust Paradox」という論文を執筆しましたが、この論文では、アマゾンが独占的な地位を維持するために、いかに略奪的な価格戦略を用いているかが強調され、十分な注目を集めました。彼女がまだFTCの委員長に任命される前の今年1月、あるインタビューで彼女は「今後24ヶ月の間に、フェイスブック、グーグル、アマゾン、アップルでなにかしらの構造的な解体が起きるだろう」と予測していました。その発言が実現されれば、今日の時点で、残りは18ヶ月となります。
彼女の就任には多くの意味があり、消費者である私たちがどのような影響を受けるのか、アメリカの大手テック企業が他のグローバル大手テック企業に対してどのように競争力を維持していくのかなど、さまざまな変化があると思います。その中でこの記事では、特にスタートアップ企業にとってどのような意味を持つのかについて話してみたいと思います。
結論から言うと、これはスタートアップ企業にとって素晴らしいニュースだと思います。多くの領域において新しいオポチュニティが生まれてくると思いますが、すぐに影響を受ける可能性のある分野をいくつか挙げてみたいと思います。
1. データ・ポータビリティ
現在、あるプラットフォームから他のプラットフォームに移行することは非常に難しいです。例えば、フェースブックから自分のデータをすべて取り出して、他のソーシャルメディアプラットフォームに移行することはほぼ不可能です。つまり、今はデータ・ポータビリティが殆ど存在しないのです。この不在は、大手テック企業の強力な競争優位性として守られてきました。すでに、消費者がプラットフォーム間の切り替えを容易にするための法案が出ていて、これが施行されれば、特に分散型のデータベースであるブロックチェーン技術を活用するスタートアップに大きなチャンスが訪れると思います。例えば、米国のStacks社は、各ユーザーが自分のデータを保持できる、「ユーザーが所有するインターネット」を実現しています。彼らのインフラストラクチャーを使えば、ユーザーは好きな時に好きなプラットフォームを簡単に切り替えることができるようになります(ディスクレーマー:私はStacks社の投資家です)。
2. 検索エンジン
ご存知の通り、Googleは検索エンジンの分野で約90%のシェアを持つ王者です。その一方で、新参者も続々と登場しています。ユーザーのデータを広告主に売らないとするDuckDuckGoは、昨年1億ドルを調達しました。また、過去の記事でも紹介したように、Googleの幹部たちが設立したNeevaは、SequoiaやGreylockなどの著名VCファンドから3億ドルの評価を受けています。ユーザーがデフォルトの検索エンジンをより簡単に選択できるようになれば、これらの新規参入スタートアップがより多くの市場シェアを獲得していくことは想像に難くありません。さらに重要なことは、GoogleがGoogle MapからGoogle Flightsまで、多くの隣接プロダクトを作ったように、それぞれの検索エンジンに必要な隣接プロダクトの需要が高まり、それは他のスタートアップへの新しいチャンスに繋がると思います。
3. Eコマース
アマゾンは、アマゾンベーシックの商品に、アマゾンを利用するサードパーティの販売者データを乱用していると非難されています。これはアマゾンが望むときにサードパーティ販売者を市場から押し出す力を与えてしまいます。Eコマース業者の中には、アマゾンが最も多くの潜在的購買者にアクセスできるプラットフォームであるにもかかわらず、このリスクを理由にアマゾンを利用しないケースもあるようです。その中、彼らがもしアマゾンと同じ土俵に立つことができれば、そのような販売者が生き残る可能性も高くなります。また、すでに急速に成長しているDTCを含むEコマースブランドそのものだけでなく、例えばDTCブランドのアグリゲーターであるThingtestingや、Eコマース・マーケティング・プラットフォームであるYoptoなど、さまざまな隣接プロダクトにもにも多くのチャンスが生まれてくると思います。
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もちろん、マイナス面もあるかもしれません。例えば、AWSの価格が上昇して、スタートアップ企業のイノベーションのペースを妨げることになったらどうでしょうか。しかし私は、潜在的なデメリットよりもメリットの方が大きく上回ると考えています。カーン氏、すべての大手テック企業、そして私たち消費者が、今回正しく対処すれば、これはテクノロジー業界の前向きで意味のあるパラダイムシフトとなるでしょう。周知のように、大きな変化の中には必ずチャンスが潜んであります。そのチャンスを見つけ、掴むことができた者が、明日の勝者となります。
References:
- She’s Bursting Big Tech’s Bubble by Sway - https://open.spotify.com/episode/5ucIVEcgXRJBSaXx8w8JKO?si=bY_UVQ-MQf6dSS8V0Wsrlw&dl_branch=1
- E36: New FTC Chair, breaking up big tech, government silent spying, Jon Stewart, wildfires & more by All-in - https://open.spotify.com/episode/3sqqRhYwtAvhE38cBkRu4k?si=9a1ee55bdaad4c4b
- Amazon’s Antitrust Paradox by Lina Khan - https://www.yalelawjournal.org/note/amazons-antitrust-paradox
- Lina Khan: The 32-year-old taking on Big Tech - https://www.bbc.com/news/technology-57501579
- China isn’t the issue. Big Tech is - https://messaging-custom-newsletters.nytimes.com/template/oakv2?campaign_id=158&emc=edit_ot_20210617&instance_id=33245&nl=on-tech-with-shira-ovide&productCode=OT®i_id=72911032&segment_id=60975&te=1&uri=nyt%3A%2F%2Fnewsletter%2F75d02bb6-842b-53cb-8025-4a4f81176ee4
- The Big Tech antitrust bills get their hearing - https://www.platformer.news/p/the-antitrust-bills-get-their-hearing
- On a growth tear, DuckDuckGo reveals it picked up $100M in secondary investment last year - https://techcrunch.com/2021/06/16/on-a-growth-tear-duckduckgo-reveals-it-picked-up-100m-in-secondary-investment-last-year/
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