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#2 - IPOへのチャレンジ: Direct Listing, SPAC, 非上場市場 (1)

今年の8月に著名ベンチャーキャピタリストであるBenchmarkのBill Gurelyさんが既存のIPOプロセスを強く批判する「Going Public Circa 2020; Door #3: The SPAC」という投稿が話題になりました。Coral VenturesのNishimuraさんがここで日本でもわかりやすく解説しています。

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彼のポイントを簡単にまとめると以下の2点になります:

1. 投資銀行がIPO価格を意図的に低く設定していて、その結果、IPO直後に株価が跳ね上がる「IPO Pop」という現象が起きる。その結果、低いIPO価格で株を買えた投資家は不当な収益をあげている

2. IPOで新たに発行される株に対して、どの投資家にどれくらいの株をアロケーションするかのリストを投資銀行が自分たちの利害関係に従って作る

2点目に関しては私も同意です。1点目に関して、何かの問題があるということには私も異論はないのですが、投資銀行がわざと低いIPO価格を設定して不当な得をすることは違うんじゃないかと思うのです

今回は3回に分けて私が考える問題と、その改善策について話したいと思います。まずは、なぜ私がBill Gurelyさんと違う意見を持っているのか、そして何が本当に問題なのかについて話したいと思います。

初日の「値上がりした価格」が妥当なIPO価格なのか

下のテーブルは2019年上場した一部の会社のIPO価格、初日の価格、そして6ヶ月後の価格を表しています。6ヶ月後の価格を選んだのは、それくらいで大体株価が安定してきていると想定してるからです。創業者や早期投資家に普通は6ヶ月のロックアップの制限が設けられているのと同じロジックですね。

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(ソース:Google Financeのデータを元に著者が作成)

まず、初日の株価を見ると、確かにIPO価格よりもかなり高く、Bill Gurelyさんの主張が正しいように見えます。でも、6ヶ月後の株価を見ると、さらに上がっている会社があれば(グループA)、落ちている会社も(グループBーPagerdutyは6ヶ月二週間でIPO価格を下回る)あるのです。そもそもIPO価格ってどの時間軸の株価と一緒であれば正しいと呼ばれるのでしょうか。IPO初日の価格が正しい価格で、IPO価格もその価格を狙うべきなのでしょうか。

実際に、Andreessen HorowitzのジェネラルパートナーであるAlex Rampellさん及びScott Kuporさんの「In Defense of the IPO, and How to Improve It」という投稿で、IPO初日に株価が値上がりするのは構造的に期待されていると指摘しています。新規に発行される株が初日に全て売りに出るわけではない中(要するに供給が少ない中)、特にホットなIPO案件であればあるこそ需要は高いので、その分株価は上がってしまいます。彼らの調査によると2002年ー2007年のIPOでは平均28%株式が市場に出たのですが、2019年はその数値が16%と低くなっています。即ち、供給と需要のバランスの変化から、「IPO Pop」が起こりやすい環境になってきたとも言えますね。

また、それに加えて、例えば10年前とは随分株式市場の環境も変わってきていて、IPO会社の業界及びIPOの規模など、昔とはたくさんの変数が変わってきているように見えます。

本当の課題

上記を踏まえると、本当の課題というのは「IPOにおけるより精度の高い価格決定モデルの不在」だと思います。マーケットは常に変化していく中、その変化に合わせて価格決定モデルの精度を高めていかないと、当然正確に価格を決定することも難しくなってきているのです。銃の射撃訓練を想像してみましょう。標的が小さくなったり、早く動いたりと変化していく時に、視力を良くしたり、銃の性能を改善しない限り、標的を当てにくくなっていきます。

この会社の価値はいくらだ?という問いは、アメリカ大陸を見つけたコロンブスが航海のためにスペインから投資をもらうとき、その前の時代、そして現代でも問い続けられている質問です。企業のバリュエーション手法として今広く使われているDCFもすでに200~300年の歴史を持っているのです。これからも引き続き学術的・実務的な研究がされると思います。ただ、大きな需要と供給がある市場における反応を加味しない限り、IPO価格の精度をあげるのはかなり難しいのではないかと思います。

次のトピック

次回の記事では、上で議論した価格決定モデルの課題やアロケーションの課題の解決として最近注目を集めてきている以下の方法に関して話を深めたいと思います。それではまた!

- Direct Listing
- SPAC (Special Purpose Acquisition Company)
- イノベーションによる非上場市場の活性化(e.g., SharesPost, CartaX, LTSE)

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