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vol.539「賃上げ当たり前時代…経営者に求められる覚悟とは?」



【賃上げ水準の高止まりが見込まれる背景】

連合から今年の中小企業の賃上げ率が発表されましたね。月額1万1916円、率にして4.50%。非常に高水準になりました。

それを受けてか、岸田首相が28日の記者会見で思い切った2つの約束をしました。「まず、24年、物価上昇を上回る所得を必ず実現する」と「25年以降に、物価上昇を上回る賃上げを必ず定着させる」。その締めくくりに「賃金が上がることが当たり前という前向きな意識を社会全体に定着させていく」と述べました。

このうち「賃上げが定着する」は当たり前だと思います。なぜなら、大企業も中小企業も賃上げせざるを得ない環境だからです。賃上げの背景には、人財不足があります。昨今は人口減の影響により、どれだけ募集しても中小企業には応募者が集まりません。今後、その傾向はますます強くなります。

【人件費高騰に対応せざるを得ない状況】

現在、全国の45~54歳人口は、1,916万人。これに対し10~19歳人口は、1,107万人。57.8%しかいないのです。東京都に至っては半分以下の47.4%です。

新卒を採りたいのであれば、初任給を魅力的な水準まで上げることが絶対条件。

現在、東京都の最低賃金は1,113円です。人は月間170時間働きますから、
これを月給に換算すると1113×170=18万9210円です。つまり高卒初任給を19万円以上に設定しないと、法律違反になります。となると、大卒初任給がいくらか自ずと見えてきます。

人手不足の先進業界である建設業界の公共工事労務単価の伸び率を見ると平成24(2012)年~令和5(2023)年の間に65.5%も上昇しています。人を採用しようと思えば、それだけ賃金を上げ続けないといけないということです。まさに中小企業の経営者は賃金を上げることを決断し、覚悟を持って挑まないといけません。

令和5年3月から適用する公共工事設計労務単価について
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001587029.pdf

【経営者の覚悟が必要な専権事項】

賃金水準に限らず、休みの日数、賞与の月数、決算賞与の支給、社員の誕生日にプレゼントを贈る、社員食堂のランチの品質を上げる、社員旅行を行うなど社内の福利厚生はトップの専権事項です。専権とは「単独で決めていい」という意味です。なぜなら、これらを幹部社員に相談すれば次のような意見が必ず出るからです。

「そんなに賃金をあげたら赤字になります。赤字になってもいいんですか?」「そんなに休日を増やしたら、生産量が落ちてしまいます。どうやってカバーするんですか?」
「社員旅行をやると言って、もし誰も来なかったらどうするんですか?」
など、必ずリスクを指摘する人がいます。

これらの意見は、トップが決断するときに、「やる以上、不退転の覚悟が必要だな」「赤字にならないように実行するのはよほど創意工夫する必要があるな」と気づかせる意味で有益です。が、リスクがあるからといってやらなければ、いつまで経っても職場は変わりません。

福利厚生は、設備投資と一緒です。「業績好調→結果として社員に報いる」ではなく、
「先に休みを増やすことや賃上げを決める
→そのために生産性を上げる
→社員に目標となる指標を与える
→社員が創意工夫してその実現を目指す
→実現し、それを喜び、達成感を味わう」。
この流れを作る先行投資です。だから、トップの専権事項なのです。

これを実践したのが松下幸之助です。彼は高度成長時代の1960年。どこよりも先駆けて5年後の週5日制の導入を発表します。そして約束の1965年、前年来の不況が深刻化し、従業員も「そんなに休んでいいの?」と思う中、実行します。それが従業員の勤労意欲と効率の向上に大きな役割を果たしたのです。

【社員に「納得目標」を提示することが重要】

昨今、私がお手伝いさせていただいたクライアントの中期ビジョンには、どの会社も実現すべき重点項目の一つに「休暇〇日」「賞与〇か月」などの目標が入っています。

これらは「できたらいいな」の願望ではなく、経営者が覚悟を持って実現したい、トップと社員共通の夢であり、約束なのです。そのためには、社員に「目標となる指標」を提示する必要があります。「今期これを実現したら、〇という評価になってあなたの給与はこれだけ上がるよ」と期初に約束できる指標です。

その指標は、会社への貢献に繋がるものであり、社員とってわかりやすく、納得できる「納得目標」でなければいけません。

営業職はわかりやすいです。売上や粗利、新規開拓の件数などが指標となるでしょう。技術や研究職では、どれだけのスキルを身に着けたかも重要な指標になるでしょう。また生産職では、1人1時間当でいくらの付加価値を生んだかという生産性指標が重要な指標となるでしょう。

例えば、カット+シャンプー+シェーブ込みの床屋の時間は約1時間です。
床屋の原材料はごくわずかです。ほとんどが人件費です。その床屋の料金は店によりますが、概ね4,000~5,000円です。それでいて贅沢な暮らしをしている床屋も貧乏そうな床屋も存在しません。床屋の料金は今の日本のサラリーマンが1時間当でアウトプットすべき付加価値額そのものを表しています。

その1時間当たり付加価値額を自分たちの創意工夫と改善活動によって
今よりも高めていければ賃金を上げることができます。そこを指標にするのです。あなたの会社ではそうした指標が提示できていますか?

【まとめ】

「賃金が上がることが当たり前という前向きな意識を社会全体に定着させていく」時代は、従来のような「ざっくり」「どんぶり」が通用しない時代です。「この会社にいた方が楽しいし、得だし」と感じた社員は離職などしません。

ぜひ丁寧な指標を作って、社員の働きがいを生み出しましょう。そして、この先何年も続く人件費高騰時代を乗り切りましょう。

【実践に役立つ動画の解説】

このメルマガを読んで、「自社でも取り組んでみたい」と思われた方は、以下のような疑問や質問に答えていますので、ぜひこちらの動画をご覧ください。

  • 「納得目標」となる具体的な指標設定の方法は?

  • 生産性が上がっているかをどうモニタリングすればいい?

  • 継続的に生産性を上げ続けることはできるのか?

  • 賃上げがずっと続く経済で経営していけるのか?


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