少女の大罪 (2)

検査結果を見て彼に連絡をし病院を探した。
少しずつ集めた情報から陰性は間違いの可能性があるが、陽性だと間違いの可能性はほとんどないから病院に行くしかないとわかっていた。

できるだけ寮や大学から遠く中絶ができるところ。
私にはその選択肢か考えられなかった。
彼のことはとても愛しているが、今産んで一緒に育てるという未来は全く見えなかった。親にも言えない。多額のお金を出して信用してくれていた親を裏切って大学を辞めて将来を脅かすことはまず無理だと思った。
つわりも違和感も胎動も何も感じなかった。気がつくとどうにかなかったことにできないかと考えを巡らせながらお腹を繰り返し殴っていた。

そして不意にとてつもない罪悪感が襲ってきて、自分の愚かさ薄情さ軽率さを恥じた。お腹を撫でながら何度もごめんなさいごめんなさいと謝った。
どうにか自分に罰を与えたくて、包丁やナイフやカッターで自分を切りつけたり(大した傷にはできなかった)フライパンで体中を叩いた。

私は子どもやあかちゃんが昔から大好きだったし、兄弟のおむつを変えたりもしていたし公共の場で子どもが困っていたら必ず助けていつか自分の子どもでなくても養子でもたくさんの愛を持って育てたいと思っていた。もし子どもが道路に飛び出して轢かれそうだったら知らない子でもタッチのように身を呈してでも守りたいと思っていた。それぐらいあかちゃん、子どもは尊い。そんな私が中絶なんかをしようとしている。


性的なことにはもちろん今まで一切関わりがなく中絶についても一般の、偏見に少し汚されたような知識しかなかった。性犯罪やあかちゃんか母体に大きなリスクがある場合にしかしてはいけない。自分の都合で子どもを殺すなんてなんて身勝手で穢れた非道な人間のすること。何度考えても言い訳はできず考えるたびに自分を痛めつけようとした。

翌日彼が様子を見にきてくれたときには私の腕を折ってもらうように頼んだ。彼は嫌がったが何度も何度も頼むと彼は椅子を出して私を床に座らせ腕を出すように言った。私はありがとうと言い腕を出した。彼は私の腕に膝をのせ、本当にするの?と聞いた。私は息がし辛かった。息を飲んだ。
彼の膝に、私の腕にぐっと力がかかった。目を瞑ってしまった。
しかしそれ以上の力が加わることはなく、彼はやっぱりできないと言って泣いた。

私たちはその週末に少し遠くの病院に行った。
病院は清潔で綺麗で幸せそうな妊婦さんがたくさんいた。年齢も私たちより高く背も低い私は高校生のように見えただろう。

診察室は診察台とカーテンがあった。カーテンの向こうから看護師さんに「下着を脱いで診察台に上がってくださいと言われた。恥ずかしく惨めな気持ちがした。
カーテンの向こう側に下半身を露出したまましばらく待ち、カーテン越しに声だけで先生と挨拶をして診察をしていただいた。
別室に移動し説明を聞いた。前回の生理の時期からしてもう中期中絶になると説明され、手術のための入院日と持ち物と料金などの説明を受け赤ちゃんの写真を貰った。
帰りはいつの間にか大雨になっていて彼が持ってきてくれて大きな傘に2人で入った。気持ちを映してるようだねと彼は言った。

私はモンスターではなかった。

遊びまわって、軽い気持ちでそういう行為に及んでいたわけでもなかった。
(別にそうあってはいけないというわけではない)
自分のしたことは永遠に悔いている。
言い訳をしたいわけではない。懺悔でもない。
それは私だけの痛みであり私だけが向き合って償っていくものである。
批判をするのはいいが、今回は別のところが話したくて書いた。

私は子どもを堕すことについてなにも感じない人間だから妊娠し、中絶したわけではない。
ただただ無知だった。
何も知らなかった。何も知っていちゃいけないと思っていた。
子どもを殺すのが好きな穢れた非情な女ではなかった。
無垢を求められて、
純粋を信じられて、
清純を演じさせられた、
少女だった。

彼もまた少年だった。
友達やネットから聞いた情報を信じた。
経験を積むことを任せられた。
誰からもちゃんと教えてもらえずに知っていることを求められた。

私たちはモンスターではなかった。
勉強し、一流大学に通って、親から愛され、友達もいて、深く愛し合っていた。
殺すつもりも、傷つけるつもりも、傷つくつもりもなかった。

もし、私がちゃんと知っていたら同じようなことには決してならなかったと思う。
そして日本中に同じような"無知"を求められている少女たちがたくさんいると思う。もしかしたらたった1人かもしれないが、たった1人でも無知のせいで同じ間違いをするかもしれないのなら日本の教育に変換が必要なのではないかと思う。

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