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妊婦と便所飯


最初からどこにも居場所なんてないと感じていたし
職業もあれは良くてあれはダメだと決められていて
私に出来る事などないような気がして不安で寂しくてひとりぼっちだった


わざわざ離れた大きい街へ行き単発の仕事をすることもあった

秋から冬へ変わる頃
そのうち求人情報を見て、いつかやめる体で知り合いもいなそうな隣町で働いた

人間関係を気にせずいられて気楽で
仕事内容も楽しかった

研修中に別の売り場の方に
何故家から遠いここで働くのか?と聞かれた

その時は気を許していたのか本音を言ってしまった

自分の町には働く所があまりない
ここには知り合いもいないし
従業員がたくさんいる今の職場なら
いつかやめても後腐れ無さそうだからと言った

やめる前提で働いてる事に酷く驚かれたけど

本音以外の何ものでもなかった

無知と薄情と甘え
若さのせいには出来ないけど
時間があるので働くという事以外に目標が無かった

ある意味自分に正直でいられたのかもしれない

途中で妊婦になり
体は心配だったがストレス無く働かせてくれて
無理はせずに出来ることをさせてもらった

悲しい事も無くて毎月浮かれてたまごクラブを買う

未来が怖くなかった
母親になりたいと心から願った私は母になったのだから
母親の愛をもう二度と貰うことが出来無いなら
私が母になりたい
母と同じ母になってみたい
そう願ったのだから

ママとして先輩がたくさんいたので
色々教えてくれて参考になった

ある日従業員の休憩所でお昼にした
終わりの見えなそうな悪阻

初期に偏食になるのはよくある話
悪阻で食べたいものしか食べたくなかった

その日はお湯を入れるだけのワンタンスープとサラダとおにぎりだけ

何でもない普通の会話だった

一緒になった1人が
そんな体に悪いものダメ
もっとバランス考えて身体の為にも良いものを食べないと
と言うような事を言った

そうですね、なんて私は笑ったんだろう
周りの人もいたけど反応はどうだったかな

その後休憩所で休憩する事も、お昼を食べる事も無かった

休憩所では、もう私は一人でいたかったけど
ひとりぼっちに見られるのもなんだか嫌だった

弱虫な自分も出てしまう


ゆっくり座りたい日は
どこかのお店で無性に食べたくなるポテト食べたり

行く場所ないって感じた日は
トイレでおにぎり食べた

あ、私便所飯じゃん
これがよく言うあれか、こんな気分なんだな

どこか別の人見てるような感覚

悲しくはなかった

居場所が無いからそうしただけ

誰にも見られたくないし行く場所ないし
どうしていいか分からなかった

さっさと食べたら本屋で本を立ち読みしたり。

いつかやめるし
最初から諦めてたから結果平気だった


また休憩が終われば普通に戻る

自分の売り場は従業員休憩所から離れていたし
みんな交代で休憩に入るので
便所飯は辞めるまで誰にも気付かれる事はなかった

会社の店長が私たみたいな者を気にしてくれて
たまに売り場へ来た日は体調はどうかと声をかけてくれた


私みたいな薄情者の送別会をしようと店長が言い
売り場の皆さんと店長で素敵な送別会をしてくれた

短い間の妊婦と便所飯


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