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『食べて生きる人たち』マガジン

「あなたは今、食べて生きていますか?」 



この問いに間髪入れず「Yes」。スペイン語なら「Sí」と答えられる人は一体、何人いるだろう。

ただ、食べるだけではない。食べると生きるがちゃんと繋がってるかどうか。この問いの答えをこのマガジンでスペインを一緒に巡りながら探してみて欲しい。


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16世紀にヨーロッパ諸国の中でも『太陽の没するところなし』と称されるほど絶大な勢力を誇り、『日出ずる処』日本とも交流を交わしたスペイン。

21世紀の今も尚、ヨーロッパの玄関口として、特に地中海沿岸部の都市は、快適な気候と地理条件、豊富な食材という恵まれた環境から、世界で最も暮らしやすい都市として上位ランキングされている。年々、世界各国からの観光客だけでなく、この地で第二の生活をスタートさせる人たちが絶えない。

そう、2019年までは……。

2020年に世界中を襲ったパンデミックの影響により、国外だけでなく、国内ですら自由に移動することが出来なくなってしまった。観光業、飲食業をはじめ、多くの産業が経営面でのダメージを受けた。

おそらく、国によって受けた影響も現在の状況も異なるけれど、挨拶には頬にキスをし、男性同士なら肩を叩き、ハグをし合って身体中で感情を表現するこの国の人たちにとっては、人の温度を直接感じることができない精神的なダメージもままならない。全てが以前のように機能するにはかなりの時間がかかるのだろうと思う。

けれど、悪いことばかりではない。

人々の外出が規制された際、排気ガス量が減り、黄色みががかっていた空がスッキリとした青色になったことに気づいただろう。何十年ぶりだと驚いた大雪は、その季節には本来あるべき自然現象に過ぎない。家にいる時間が長くなり、愛する人たちが側にいて、一緒に過ごすことの素晴らしさを感じただろう。


We are what we eat. 

ドイツの哲学者であるルートヴィヒ・アンドレアス・フォイエルバッハのフレーズ 。私たちは「食」によって創られる。「食」として取り入れるものが明日の一部になっていく。

私たちは自然の中の一生物にすぎない。当然、自然の原理に基づく生態ピラミッドの中に組み入れられて、細胞に命を吹き込まれた瞬間から、別の命を体内に取り組むことで自らの命を繋ぎ、やがて土に戻っていく。

けれど、困ったことに私たちは、生態ピラミッドの頂点に自分たちが陣取っていると思ってしまう。人間の力ではコントロールしきれない力が存在する。そして、自然は人間よりも遥かに高い生命力、順応力、治癒力を持っていることに気づかずにいる。

パンデミックによって尊い命を失った方や、そのご家族の気持ちを想うと本当に心が痛む。けれど、残された人たちは、これからどう生きていくべきなのかを改めて考え、行動する機会を与えられたのではないか。

自分に向き合い、自身を知り、自分にとって大切なものを守りながら丁寧に生きる。それを思い出す鍵が自然から生まれる「食」にある。

「食」という字は「人」を「良」くすると書く。良の漢字には、「質のすぐれている」「上質な」といった意味がある。「上質な人」って、一体、何が上質なのだろう。

きっと、本当の意味で上質な人というのは、外見ではなく心や魂、細胞レベルでその人本来の輝きを持っている人だと思っている。



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スペインの地を踏んでから、あっという間に30年が経った。消去法で残ったスペイン語に出会い、海外旅行の経験のない私が、特に大きな計画もなくスペインにやって来た。そして、直感で決めた国際結婚。それぞれの出来事にちゃんとした理由なんてない。「ただの偶然」でしかなかった。

どうしてこの人生を選んだんだろう。日本にいれば、もっとたくさんの可能性があったのに……。

何度もそう思った。過去の出来事は、粉々に破れてしまった写真のように散らばったまま色褪せていくだけだった。けれど、知りたかった。ばらばらになった一つ一つの破片を繋ぎ合わせると、何かが見えるはずだと。

そして、長い長い時間をかけて一枚の写真が出来上がった。まだ抜けている個所もあるけれど、今までの私が写っている一枚の写真。



散らばっていた全ての偶然が必然だった。

村一人の日本人としての田舎暮らしも、ワンオペ状態の海外での3人の子育ても、不治の皮膚炎を患った経験も、自分を大切にする生き方の選択も、全ては、それらから得た「生きるためのエッセンス」を語り伝える必須因子だった。

自然に対し忠実で、家族を愛し、常にポシティブな笑顔を持つスペインの人たち。彼らの持つ人間力の高さは、単に栄養学的にバランスの取れた食事をしているだけではなく、生き方そのものが力となっていると実感する。

彼らから学んだことを伝えるために、私はこの地に呼ばれた。そして、自分自身で命の品質を管理をすることが強いられるこれからの時代だからこそ、「食べて生きる」とは何なのかを伝えるためにこの文章を書いている。



実は、今回の連載について、ふみぐら社さんに、編集のサポートをしていただいている。かなり以前から私が「お願いするなら絶対にこの人」と思っていたのがふみぐら社さんで、このお話をした時にも、すぐにやりましょうというお返事をくださった。

距離も年齢も離れているし、オンラインでしかお会いしたことのない人だけど、ちゃんと生きるを知っている人。お話をする度に、ずっと前から繋がっていた人だと感じられる人。本当に光栄です。

偶然読んでいただいた方の心に何か一つの光が残ればいい。その偶然がいつか必然になることを願って「売れない文章」を綴る。駿足の今の世の中ではサラリと読めるものしか読まれないと言われる。

それでも書き残す。
そのために今、ここにいるのだから。
私に与えられた使命なのだから。



***


本連載では、マドリードからバルセロナまでのスペイン一周の旅を想定し、歴史背景を組み込みながら各地方の名物料理・郷土料理と共に人々の息を伝えていく。

食べ歩きガイドブックでも、料理書でもない『食べて生きる人たち』のライフガイドマガジン。

スペインに興味のある方だけでなく、プロの料理人の方々、料理レシピや説明だけでは物足りないスペイン愛好家の方々、そして、食べて生きる姿に触れてみたい方にもぜひ読んでいただけたら、とても嬉しいです。




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