あるソーシャルワーカーの覚書

ソーシャルワーカーの仕事とその隙間についての覚書。

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ソーシャルワーカーの仕事とその隙間についての覚書。

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最近の記事

これ以上殴らないで下さい、勉強しますから

 学生の頃、「ソーシャルワーカーはカウンセラーではないよ」と言われていました。当時のわたしはカウンセラーになるつもりもなければ自分をカウンセラーと思ったこともありませんでした。わたしが最初に目撃したPSWは地域で当事者と共に生きる人たちだったので、当時は特に違和感なくこの言葉を受け取っていました。今にして思うと、何を言われているのかわかっていなかったかも知れません。  その割には心理学とか精神医学の本ばかり紹介しているし、カウンセリング理論にいっちょかみしているし、本当に何

    • 『退行を扱うということ』を読んだ

       この本は破格です。この本の内容のいくつかは2024年に出版されたものとは思えないほど社会倫理的な合意に対して挑戦的であり、また別の見方をすれば驚くほど古式ゆかしい本です。  わたしはセラピストとして退行を扱うよりは、もう少し離れたところで退行を目撃するといった立ち位置の人間ですけれども、そういう人間が読んでも為になる本だと思います。 ※本記事において母親は役割を指しており、器質的に母親であることを意味しません。父親も同様です。  そもそもわたし自身が退行というものをき

      • 社会運動のいつか来た道│「思想の強い女性カウンセラーが辛い」に寄せて

           Twitterでこんな記事が流れていてですね。しばらくリアクションを眺めていたんですがどうも辛抱ならなくてですね。Twitterに戻ってしまいました。何が辛抱ならなかったかと言うとですね、このトピックに言及している精神科医や心理職、ソーシャルワーカーのほとんど誰も、この記事の投稿者が傷ついた、という事実を受け止めて労いやいたわりの言葉を述べなかったからです。すべてを観察したわけではないので例外の存在は否定しませんが比率的に例外でしょう。  つらいね、とかそういう直観

        • 『アスペルガーの人はなぜ生きづらいのか? 大人の発達障害を考える』を読んだ+α

           直接にお付き合いがある訳ではありませんが、精神疾患を生物学的に研究している人たちのイメージについて、これまでは誤解を恐れずに言えば「なんとかして心の理論を迂回したい」ために脳の研究をしている、というものでした。特に神経症やうつ病についての研究は、誘発的な認知、コミュニケーション、対人関係のパターンとその形成過程における環境要因という人間的過程を所与にしたものに見えて、率直にいい印象を持っていませんでした。コメディカルとしてかつて身を置いていた精神科医療の片隅では、コメディカ

        これ以上殴らないで下さい、勉強しますから

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        • アタッチメント、トラウマ関連
          11本
        • ソーシャルワーク
          30本
        • 生活保護制度関連
          6本
        • 公園を巡ってみた
          4本

        記事

          「ふつう」を揺るがされる恐怖

           『アスペルガーの人はなぜ生きづらいのか?』という本を読んでおりました。わたしはこのnoteで発達障害、特に知的能力障害を伴わないカテゴリについてはほぼ何も発信しておりませんでしたがこれにはワケがあって、という話も含めて読書感想文+αはまた別に記事を書くつもりですけれども、この本で「ふつうの人たちは、ふつうの生活意識によって縛られているので、意識して自己の世界観や価値観に向き合わなくとも、自然な共感に従うだけで、間違いを避けて生きていくことができるのかもしれません。」(p.2

          「ふつう」を揺るがされる恐怖

          着想の備忘録。アスペルガー障害と愛着障害とは、発達における相互作用のどちら側に起因するかにおいて、鏡写しの存在なのかも知れない。

          着想の備忘録。アスペルガー障害と愛着障害とは、発達における相互作用のどちら側に起因するかにおいて、鏡写しの存在なのかも知れない。

          支援者が成長するコスト

           対人援助職の人たち、心理職に限らずこういう成長譚大好きですよね。この手のクライエントから教えてもらいましたという類の話。いやまあプロローグと目次から判断しているだけで、コンセプトは独学せよという話だからもちろん全部がそういう内容ではないと思いますけれど。  わたしは支援者であると同時にクライエントでもあるので、この手の話を麗しく描写することについてはちょっと思うところがあるんですよね。  支援者としては、クライエントからの学びは重要だと言うことはわかります。現実のニーズ

          おじさんはまだまだ頑張らないといけませんか

           孤独死まっしぐらのおじさんなので思わず笑ってしまいました。つくづく救いがありませんね。  学校を出てからというもの、ライフステージを駆け上がっていく周囲の人間を羨みながらここまで生きてきました。その間、仕事以外は特に何も実らなかった反面、とりあえずキャリア的には多少見通しが立つところまで来ました。気づけば、日本社会においては何をぶつけてもよい怨嗟の依代のような存在、いわゆるおじさんになっていました。  自分の人生の責任を誰かに求めたいわけではありません。人間関係の維持発

          おじさんはまだまだ頑張らないといけませんか

          自由についてのまとまりのない個人的な雑感

           以前から気になっていることなんですが、いわゆるリベラルの人たちは当局の対応や行政システム、さらに踏み込めば官僚や政治家のアティチュードに至るまでかなり鋭く批判してきている訳ですけれども、一方で公的責任とか行政責任、あるいは政治問題として彼らのプレゼンスを強調するじゃないですか。その内的整合性はどうなってるんだろう?と思うのです。  もう少し各論に落とし込んで言うと、計画相談の報酬が安いとかカウンセリングに保険が適用されないとかの公定価格に関するものですとか、ケアマネージャ

          自由についてのまとまりのない個人的な雑感

          心理援助者を抑圧する装置としてのチーム

           昨日はこちらのセミナーに参加していました。大変刺激的でよかったですね。同時に、『こころの秘密が脅かされるとき』の訳者の筒井さんが解題に綴った葛藤に対しては誰も何も言わなかったな、というのが印象的でした。  チーム守秘ついては、有事に「率直に謝る」ことも現実的なソリューションとしては極めて的確で、実際にわたし達はそれらを守秘義務と報告義務の衝突に対するソリューションとして活用しています。また「知られたくない」というクライエントに同一化してはいまいか、という岡野先生の指摘もそ

          心理援助者を抑圧する装置としてのチーム

          共感、理解、何もわからん

           ここのところ、家族や親族についてそれまでのわたしの理解を改めさせるエピソードが立て続けに起きていて、果たして理解とは、共感とは、ということがわからなくなりつつあります。  こころと向き合わないように思われていた人が実はわたしたちの内的な心理を鋭く洞察していて、普段から受け身なように見えて実は孤立を避け一貫して人の輪の中にいるような生存戦略を取ってきていたり、また別の人は、およそ他人にどう思われているかを一顧だにしないような気まま勝手に見えて、その実は家族関係の軛に完全に屈

          共感、理解、何もわからん

          桐生市的なものの成立過程 の補足

           勢いで書き上げた昨日の記事のあまりの迂遠さに思い至り、補足のようなものを書きました。  報道で見ている限り、実感としてもかなり異常な対応が日常的に行われていたことが窺えます。ちょっと常軌を逸しているなと思わざるを得ません。以前、都心部ではすでに放棄された異常な対応が地方では連綿と続けられているのではないか、という懸念を表明されているアカデミアの方の発言に接しましたが、実際にこういう異常事態がほかの自治体でも行われている疑いがあることは、既にいくつか報道で窺えますね。  

          桐生市的なものの成立過程 の補足

          桐生市的なものの成立過程

           今回の記事はフォロワーさんのつぶやきから着想を得ています。文化人類学が当時まだ民族学と呼ばれていた時代にほんの触りをかじっただけの私のアンテナがこういうテーマにも反応するのは、おそらくはサリヴァンのおかげでしょうか?以下は某市(ここでは桐生市)福祉事務所が取ってきた不当な、また不正な対応について個人的に思っていることを書いています。  桐生市の生活保護行政に問題があること、その問題が批判、是正されるべきことに特に異論はありません。わたしが関心を持っているのは、そういう桐生

          桐生市的なものの成立過程

          読みたい本が多すぎて頭がついていきません! plz集中力、plz読解力!(時間はある模様)

          読みたい本が多すぎて頭がついていきません! plz集中力、plz読解力!(時間はある模様)

          『知能の誕生』を読んでいます。難解ですが非常に興味深いです。

          『知能の誕生』を読んでいます。難解ですが非常に興味深いです。

          望ましさはスケールするのか

           このところ自分の進退を伺っており、それに合わせて幕引きを考えながら仕事をしているのですが、ここに至って、個別ケースを超えたもう少しマクロな目的についてやり方が、少なくとも今のフィールドにおいては実を結ばなかったのだなぁ、という結論に至って感傷に浸っています。  わたしの観測範囲において、勤務時間内にマクロな政策論や規範論を語らう人たちには個別対応があまり得意ではない(当人にその意識があるかは知りませんが)傾向があり、自分がワークしないことを棚上げするんじゃないよと鼻白んで

          望ましさはスケールするのか