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注目の作業療法の洋書ラッシュ①?

時折、研究法の本や作業療法の文献を探しにAmazonのサイトを見にいくようにしているんですが、今年は(いや今年もなのかもしれないけど)、面白そうな作業療法の洋書の発売が多いような気がして、勝手にワクワクしてます

ちなみに自分自身が洋書を読むようになったきっかけは、大学院での研究で様々な文献を探す際に、ご指導いただいていた先生方から、「『Willard & Spackman`s Occupational Therapy』のFamily Occupationの章と、Social Participation の章を読むと良いと思うけど、読める?コピー送ろうか?」と言われたことからでした。正直、「え?洋書?読めるわけない…」と尻込みしたものの、「いや大学院で研究をしているのにできないはないな」と思い直してから、何とか読み進めたことからです。まあ、Deep Lという便利な道具があったのと、『Willard & Spackman`s Occupational Therapy』は、作業療法設立100周年の記念号で、記念に持っていたのも大きかったのですが。今では積読気味ですが、様々な作業療法や作業科学の本を少しずつ訳しながら読んでます(Deep Lでざっと訳してもらって、じっくり読み込む際に自身で訳を修正してます)。

どうでもいい自分の話が長くなってしまいました💦。ということで、今回は個人的に注目している作業療法や作業科学の洋書を紹介したいと思います。洋書は少し値段は張るし、英語で書かれているので、敷居が高いように感じますが、Deep Lだけでなく様々なAIも発展してきているので、思い切ってチャレンジしてみると楽しいかな〜?と考えてます。では、以下は、書籍の紹介です。


『Willard & Spackman`s Occupational Therapy 第14版』

文献紹介

非常に長い間、世界の作業療法士、作業療法学生が愛読してきたと言われる実績をつ教科書の新版です。第13版を持ってますが、執筆陣が非常に豪華で、その領域のトップランナーの研究者が、現在の作業療法実践にとって、どのような知識、技術が必要なのかを一冊に網羅した本です。
例えば、第13版の人間作業モデルの章は、『人間作業モデル第5版』の監修者のRennie Taylor氏が、作業的不公正の章は、その概念を提唱した、Ann Wilcock氏とElizabeth Townsend氏が新たに執筆した章です。またASDについての章では、英語圏の作業療法のシステマティックレビューをまとめ、その上で書かれた章になっています。最新の知見は、日々新たに出てきている研究論文には劣りますが、作業療法の様々な概念や実践方法、もしくはこれまでの研究結果からどのような実践が望ましいのか、または様々な文化背景に合わせた実践や知見なども含まれています。つまり、現在の作業療法に必要と言われる、作業に根ざした実践(OBP、OCP、OFP)とエビデンスに根差した実践、文化に配慮した実践などに必要な知識や技術をこの1冊で学べるということです。そのため、あまり使いたくない言葉ですが、コスパの良い1冊の新版ということになります。(ただし、総ページ数は、1000ページを超えるものとなっており、自分も読み終えないまま、新しいのが出たというのが正直なところですが、海外の論文の値段の高さを考えたら、個人的には必要な部分を少し読むだけで、十分に元がとれると思います)。

個人的注目点

第13版からの変更点といえば、まず、作業療法実践のフレームワークがOTPF第3版から第4版へと改訂されています。そのため、それに伴った変更や加筆があるのではないかと予想されます。Amazonの紹介には、①作業的意識(Occupational Consciousness)、②川モデル、③作業的全体性(Occupational Wholeness)モデルなどの理論に関する章を拡充し、④日課と習慣(Routines and Habits)、⑤強制移住や幼少期のトラウマを経験した人々への作業療法(Occupational Therapy for People For Forced Migration and Childhood Trauma)の章が追加されることが明らかになっています。

例えば、第4版では文化に配慮した実践が改めて強調されているからなのか、日本の文化をもとに作られた②川モデル、中東の方が開発した③作業的全体性モデルが取り上げられるようになったのでしょう。『子どもと作業中心の実践(OCP本)』でも川モデルが取り上げられ、個人的にはこれから広がるのかなと思っていたら、残念ながら絶盤となってしまったようです。

作業的全体性モデルは、D+3Bから作業バランスを考えた研究をもとにしたモデルらしいです。D+3Bは、人を作業的存在として捉え、作業と健康、Well-beingとの関係を考えるための方法論でもあり、Wilcockの生徒だったHitchらは、D+3Bが主要な作業療法理論に共通する概念で、作業療法の中核概念なのでは?と主張していたり、様々な作業療法、作業科学の質的研究で、作業の意味をとらえた際にD+3Bというカテゴリーであったという研究もあるように、D+3Bという概念は作業療法において、重要となってきています。個人的には、修士での質的研究で、D+3Bという概念を使用したこともあり、この作業的全体性モデルは非常に楽しみですし、注目しています。D+3Bについて詳しく学びたい人は、Wilcockの著作をどうぞ。自分は院生時代に読みましたが、まだ消化不良ですね。何回も読み返しながら理解を深めたいところです。

またアメリカ作業療法協会は、2020年に公衆衛生に対する作業療法のアプローチとして、人々の集団やコミュニティ(地域)に対し、そして彼らの健康と幸福に影響を与える多くの要因に焦点を当てることを提案し、「作業療法実践者は、(地域の)人々の作業遂行と参加、[生活の質]、および作業的公正を高めるために、作業に根ざした健康へのアプローチを開発し実施する」としています。そうしたこともあって、④日課と習慣(Routines and Habits)、⑤強制移住や幼少期のトラウマを経験した人々への作業療法(Occupational Therapy for People For Forced Migration and Childhood Trauma)の章が追加されたのかもしれません。地域で作業療法をという方は、先行研究や先行事例を知るための資料としてこの本を通して学ぶのも良いかもしれません。

その他にも、「Expanding Our Perspectives」として、作業療法のテキストでは見逃されがちな人々やコミュニティについて、各章の内容について異なる視点を提示して、作業療法士として視野を広げるような工夫もされているようです。今回も総ページ数1344ページに及ぶ大作みたいですが、少しずつでも読んで行きたいなあと考えてます。過去には日本語訳も進められていたようで、そのような流れが止まってしまったのは個人的に残念です。発売される前にできるだけ、13版を読み進めていきたいですが…。ささやかな個人的なプロジェクトでは、この本の内容も取り込めていけたら良いなあ、とか、有志で分担翻訳とかしてみんなで知識を共有できたりすると良いなあ、と考えたりします。もしくは、また日本語翻訳版がまた世に出ると良いですよね、本当は。

Clinical and Professional Reasoning in Occupational Therapy

文献紹介

これは第3版になりますね。上述の『Willard & Spackman`s Occupational Therapy』と同じ出版社から出るようです。まだ来年の1月に出る予定みたいで、詳細は明かされていません。現在発売されているのは以下です。ちなみに『Willard & Spackman`s Occupational Therapy』のリーズニングの章も、この本の著者の方が執筆しています。このことからも、上記の『Willard & Spackman`s Occupational Therapy』の凄さがよくわかりますよね。Amazonの紹介によると、NICUから地域精神保健まで、さまざまな実践の場における推論のニュアンスを概説しているようで、急性期から地域での実践まで様々な場面でのリーズニングを学ぶことができるようです。対話的推論というのもあるらしく、その点も気になります。

個人的注目点

詳細な情報がないので、リズニング本について、徒然なるままに書いていきます。作業療法リーズニングは、今、日本でもHOTな話題の分野ですよね。日本でもリーズニングの研究が行われていますし、昨年は素晴らしい本が2冊出版されましたし、オンライン教材で学ぶものもありましたよね。ちなみに本は2冊とも購入して読んで、以下のオンライン講座も受講しました😁。より良い実践のキーになるのがリーズニングだと思うので、いくら学んでも学び足りない感じがするんですよね。この『Clinical and Professional Reasoning in Occupational Therapy』は、日本の作業療法リーズニングの書籍やオンライン講座でも参考文献として使われていましたし、まだ詳細は明かされていませんが、最新の研究の知見を通してどのような内容が追加されるのか楽しみですね。

ちなみに自身の学びのために『Clinical and Professional Reasoning in Occupational Therapy』も買おうかと考えたのですが、この本は新しいのが出そうだなと考えて、以下の本を買いました。これは2022年の4月に出たと買いてあったので、新しかったので、安心できたんですよね。 自身が受けたオンライン講座の参考文献でもあったので、「これは読んで勉強せねば」と思ったのもあります。あとこんな新しい本をもう読んでその内容を消化しているのかという驚きも当然ありましたが。「まだまだ何もわかってないんだからもっと勉強しないといけないよな」と思わされたのもありますね💦
ちなみに著者の1人のJane Clifford O'Brien氏は、『Case-Smith's Occupational Therapy for Children and Adolescents』の著者でもあり、今年新しく出る『人間作業モデル第6版』の執筆者の1人でもあります。現行よりも一つ前の『Case-Smith's Occupational Therapy for Children and Adolescents』も手に入れる機会があり、読んでいますが、学ぶことが多いです。

作業療法理論でもリーズニングに関してはあまり記述がないなあと思っていたら、先日、Amazonで、200円代という驚異的な値段で売られていたのが、人間作業モデルの評価から目標設定、介入を考えるための洋書です。著者の1人は、MOHOSTの開発者であるSue Parkinson氏ですね。Amazonでベストセラーになってるのは、値下げした時に世界で爆発的に売れたからだろうなあと。Twitterで紹介したら、「買いました」という方もちらほら。ちなみに今は元の価格に戻っています。もしかしたら今後日本でも、人間作業モデルのリーズニングもこれをもとにした事例報告が増えるかもしれませんね。

最後に

作業療法は奥が深く、また適切な、より良い実践をどうすればできるのか?を問い続けないといけないという意味でも、『哲学的実践論』だなと個人的に考えてます。大学院の研究を通して学んだことも多いですが、それ以上にいかに無知なまま実践に臨んでいたかを思い知った気もします。
ただ、翻訳アプリを使って修正しながら、ゆっくりと英語文献を読むのは、その様子を見る家族からすると、なんと非効率的なことをしているのかと思うようです笑。一緒にプロジェクトをする仲間たちからもやや呆れられていた気も…笑。ただ読了した本もありますし、今も少しずつですが、読了も見えてきた本も数冊出てきています。
かかる時間と労力からすると、やはり洋書を読むことは誰にでも勧めることができるわけではないので、洋書を翻訳して世に出してくださる先生方、世界中の研究について教材や講義でご教授してくださる先生方には本当に感謝しかありません
積読は罪悪感もありますが、でも購入しないと1ページすら読むこともできないのも事実だなと思います。また、専門書は大学や大学院の講義の料金を考えれば、途中までの段階で元は十分に取れているそうです。

だから人生は一度きりですし、何となく洋書や海外の動向が気になっている人は、上記以外の本でも良いと思いますし、思い切って、翻訳アプリを使用しながらでも洋書を読むことにチャレンジしてみませんか?

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