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so.

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「so.(エスオー)」は、女子高のとあるクラスの一日の間に起こる出来事を、様々な時間、それぞれの視点から綴る群像劇です。
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2016年7月の記事一覧

【so.】田口 吉美[2時間目]

【so.】田口 吉美[2時間目]

 2時間目は生物室で授業をやるらしい。廊下へ出てロッカーから教科書を出していたら教室から和泉が出てきて目が合ったから、一緒に生物室まで行くことにした。後からつだまるも追いかけてきて、3人で歩いている。

「実験って何やんの?」

 ワタシが尋ねるとつだまるが答えた。

「観察とか言ってた」

「生きてく上で何の役に立つんだろうね。ワタシ、10年後にこの授業のこと感謝してる予感がこれっぽっちもないわ

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【so.】田口 吉美[1時間目]

【so.】田口 吉美[1時間目]

「おはよう!」

 またいつもの大声で現代文の逸見が入ってきた。ワタシの席は最前列の右から二番目だから、必要以上の音量にいつもウンザリしている。さらに逸見はチョークを強い力で、黒板に殴りつけるみたいにして文字を書くから、砕け散ったチョークの破片が粉になってワタシの机の方まで飛んで来る。いつもわざとらしく咳き込むんだけど、意に介さないところがまたムカつく。今もまた、やたら難しい2文字の漢字を書き殴っ

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【so.】田口 吉美[始業前]

【so.】田口 吉美[始業前]

 ワタシが乗っている路面電車の隣の車両に、同じクラスの曽根が乗っていることに気がついた。けれど別に話すような仲じゃない。中学でなんか問題を起こしたとかって噂はあったけど、別に悪さをするでもなく、クラスのおとなしいヤツらとつるんでいる。

 1月半ばの、まだ正月気分の抜け切らない気だるさが嫌。週末にはテレビでスペシャル番組をやったりするから、尚更お正月気分は抜けていかないんだ。
 こうやってひとりで

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【so.】大和 栞蔓[4時間目]

【so.】大和 栞蔓[4時間目]

 教室に入ってヨシミと別れ、自席へ戻る途中でつぐちゃんに小声で話しかけた。

「つぐちゃんさぁ、朝に言ってたこと、他に誰かに話した?」

 制服に着替えていたつぐちゃんは、ワンテンポ遅れて返事をした。

「ううん、言ってない」

 まあ、あれだけ強く口止めしたしね。

「それがいいよ。ホラ、誰が足を引っ張ってくるかわかんないしね」

 ハナスにはわたしが出るんだ。こんな子には出て欲しくない。念押し

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【so.】大和 栞蔓[3時間目]

【so.】大和 栞蔓[3時間目]

 教室に戻ると、委員長が次の体育は小ホールで卓球だと連絡した。この寒い中、グラウンドでやるのは嫌だなと思っていたから有り難かった。

「今日は寒いから暖房の効いた小ホールで卓球だ。喜べおまえらー。って、何だ少ないな今日。まぁいいや。トーナメントやるぞー」

 体育の石堂先生だけが元気良さそうだ。くじ引きをしたら、私の対戦相手はナオになった。

「面談さ、終業式の朝のこと聞かれた?」

 顔を合わす

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【so.】大和 栞蔓[2時間目]

【so.】大和 栞蔓[2時間目]

 三条先生にもらったジュースを飲みながら教室に戻ったら、みんな教室の外へと出て行く。おかしいなと思って時間割を見ると、生物になっている。そういえば実験をするとかなんとか島田のおじいちゃんがボソボソ言っていた気がした。わたしはロッカーから教科書とノートを取り出すと、ひとり生物室へと向かった。

 移動教室だとだいたい4人1組で班になって座るのだけれど、わたしのような出席番号が最後の方では、3人しかい

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【so.】大和 栞蔓[1時間目]

【so.】大和 栞蔓[1時間目]

 つぐちゃんを初めて見た時は可愛いコだなと思った。話してみたら天然で面白いコだなと思った。それから話を重ねるうちに段々と頭の悪さに腹が立ってきた。
 わたしは高校から編入した他の2人に比べて、随分上手くやって来たと思う。曽根さんはBグループで細川さんは不登校。わたしはAグループに食い込めたという自負があるし、ヨシミやのりんたちに比べたら控えめに言っても可愛い方だろう。そんな私をさておいて、Bグルー

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【so.】三条 宗雄[4時間目]

【so.】三条 宗雄[4時間目]

 不登校の細川サヨを呼び出したのは、もちろん復学を促すためだ。高校から編入した細川だったが、ほんのひと月ほどで不登校になって、そのままだ。一年経った時点で退学とするのが筋だが、細川の両親が学費だけは納めていたため、そういうわけにもいかなかった。毎年定員割れしているような現状では退学者を出したくない学校側としても、なるべく細川には学校に来てもらわなくてはならなかった。二年になってから校長が俺に確認を

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【so.】三条 宗雄[3時間目]

【so.】三条 宗雄[3時間目]

 ドアをノックして「失礼します」と言って曽根が入ってきた。俺はスマホを机の上に置いて立ち上がった。

「悪いな、急で」

 返事はなかったが、きっと来ると思っていた。

「いつもです」

「ごめんごめん」

 念のためドアの鍵を掛けると、冷蔵庫を開いて曽根に尋ねた。

「何か飲むか?」

「いらないです」

 曽根は愛想なく答えると、準備室の壁際に置いてあるソファの真ん中に深く腰を沈めた。

「面

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【so.】三条 宗雄[2時間目]

【so.】三条 宗雄[2時間目]

 地理準備室に残ったまま、俺は面談の結果を記したノートを見返していた。校長の知りたがった原因については、いじめは確認できなかったのがまず一点。そして、失くし物を盗まれたと早合点した被害者はクラスの半数近くに探させたものの、失くしていなかったことに気づきそれを恥じ、思い余った末の自殺である、というもう一点を結果として提出することにする。それが真実かどうかなんて関係ない。今となっては知りようのないこと

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【so.】三条 宗雄[1時間目]

【so.】三条 宗雄[1時間目]

 ノックの音に「どうぞ」と声をかけると、ドアを開けて入ってきたのは山浦だった。

「出発は明日か?」

「はい」

 山浦は準備室の補助椅子に勝手に腰掛けた。

「ホームステイ先の家族と仲良くな」

「はい」

「戻ってくるんだろ?」

「わかりません」

「休学扱いにしておくからな」

「これが面談なんですか」

「いや、それは後で聞く。一応お前は今日までだからな。本当にみんなに知らせないのか?

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【so.】曽根 興華[4時間目]

【so.】曽根 興華[4時間目]

「ねーそねちゃん! なんで!」

 大声を上げて、体操服姿のもじゃがパタパタと駆け寄ってきた。

「着替えないの?」

 体育が終わってそのまま地理準備室へ来たらしいもじゃと、傍らに近寄ってきたタイラー。さすがに想定外の出来事に、口から意味のない疑問がこぼれ出た。

「体調悪いんじゃなかったの?」

 もじゃはそれを無視して私に言った。参った。まさかこんなに早く露見するとは思っていなかった。私は何

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【so.】曽根 興華[3時間目]

【so.】曽根 興華[3時間目]

 いかにも体調が悪いんです、といった体を装って、生物室から戻ってすぐ、そそくさと教室を出てきた。教室からは離れたトイレまで行って個室に入り、便座の蓋の上から腰掛けてスマホを開いた。あと5分ほど時間を潰さないと休み時間が終わらない。こんな時いつも私はここで、スマホで撮った写真を見返して時間を潰していた。「やすちゃん」というフォルダの中に、中学の時に付き合っていた安田君との写真が沢山入っていた。そこに

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【so.】曽根 興華[2時間目]

【so.】曽根 興華[2時間目]

「ねえねえそねちゃん、どうお?」

 もじゃとタイラーと私。生物室へと歩きながら、もじゃがしつこく聞いてくる。

「何の話?」

 話の読めないタイラーがもじゃに聞いた。

「タイラーがジョーサンと親密になれるよう、応援しようって、FILOで言ってたのよ~」

 もじゃは私へ振り向いて続けた。

「どうなのよ~?」

 そして私の肩を揉んできた。仕方ないなと覚悟を決めて、もじゃの手を払いのけながら

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