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【so.】三条 宗雄[2時間目]

 地理準備室に残ったまま、俺は面談の結果を記したノートを見返していた。校長の知りたがった原因については、いじめは確認できなかったのがまず一点。そして、失くし物を盗まれたと早合点した被害者はクラスの半数近くに探させたものの、失くしていなかったことに気づきそれを恥じ、思い余った末の自殺である、というもう一点を結果として提出することにする。それが真実かどうかなんて関係ない。今となっては知りようのないことは、客観的な事実を元に推察するしか出来ない。最もらしい結論を最もらしい論法でパッケージングすれば、最もらしい調査結果は出来上がるんだ。
 ノートをめくっていくと、細田の所に「裏サイト」と書き込んである。その存在を教えられたのは、先週末に面談をした時だった。連休中にそれを確認し、薄ら寒い思いでそのログを読み通したんだ。
 スマホを取り出し、開いたままの裏サイトに対して、ブラウザの更新ボタンを押してみた。

「グダグダ言ってねーで行動で示せよ!口だけヤロー」

「今日の被害チョーク…3本」

 書き込みが2件追加されていた。1時間目の間にも書き込んでいる生徒がいるということだ。別に生徒の不真面目さを暴き立てようというつもりはない。俺だって学生の頃は、授業中に漫画を読んでいたくらいだ。ただ恐ろしいなと思うのは、日頃見せない一面を持った生徒が何人もいるということだ。
 さらにノートのページをめくる。堀川は、事件前日の昼は吹奏楽部で視聴覚室へ行き、そこで昼を食べていたから何も知らなかった。そして山浦大和…。さっきの面談で、大和に不意に心奪われたことを思い出した。そこまで可愛くはないが、愛想は良い子だなと思っていた。他の教師からはあっても、なかなか生徒から「お疲れ様です」と言われることはない。何気ない一言だが気持ちは潤った。
 曽根は大和と仲が良かったりしないだろうか。部活が違うけれど運動部だし、何か接点を持っていないだろうか。待てよ、そもそも裏サイトの件も聞かなければいけない。知ったのは曽根に面談した後だったしな。時間割表を開いて見れば、次は体育。ちょうどサボり易くていいんじゃないか。俺は下唇を噛むと、スマホのメッセージングアプリFILOを立ち上げ曽根のアカウントにメッセージを打った。

「次の時間、来ないか?」

 それだけ送ると、すぐに既読の表示がついた。返事はない。まったく可愛げのない女だなと思う。顔は綺麗な方だと思うが、人形じゃないんだから、もうちょっと張り合いが欲しい。その点、大和っていう選択肢はアリかもしれない。俺は再び下唇を噛んだ。
 ずっと返事は来ないので、手にしていたスマホで再び裏サイトを開いてみると、新たな書き込みが増えていた。

「やってやるやってやるやってやるよ見とけよ」

 何だこれは。何の予告だ。ふざけるな、これ以上問題を起こされてたまるか。山浦か? 山浦が何かするつもりなのか? 時計を見るともうすぐ2時間目は終わろうとしている。3時間目の間、曽根は来るだろうか。あいつも嫌いじゃないようだからきっと来るはずだ。4時間目の間には保健室で細川と話すことにしていたから、昼休みの間にでも山浦と話をしないといけない。留学の件ではだいぶ振り回されたってのに、本当に面倒ばかり起こす生徒で嫌になるな。

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