子供の喜ぶ顔を想像することはできる
五線譜を見ただけで、頭の中に音楽が鳴り響く人を尊敬する。
長くピアノをやっていたから、五線譜は読めるし指も動かせる。
しかし脳内に音楽は流れてこない。
そこはやっぱり才能なんだろう。
レシピを見ただけで、味が手に取るように分かる人も尊敬する。
料理は好きだからレシピは読むが、それ以上でもそれ以下でもない。
それもまた才能なのか。
***
ある晩ごはん当番の日のこと。
何を作ろうかとスーパーをうろつく。
ふと、先日高校生の息子に、うちって晩ごはん少なくない? と言われたことを思い出した。
小さい頃から食の細い息子が、ついに食欲を出したと嬉しくなった。
しかしそれ以上に、食べ盛り育ち盛りの高校生にひもじい思いをさせていたなら、親としてそれは痛恨の極みだった。
しっかり作ろう。
キッチンに立てば、やれパスタだハンバーグだと西洋料理を作りがちだ。
しかし、脂っこいものや味の濃いものが苦手な息子にとって、そんなものが何皿も並ぶのはきっとつらいだろう。
なら和だけでいこう。
「え? どしたん?」
そうそう、その驚きの声が聞きたかったんよ。
いつもおかず一品とかやけど、今日は…
「なんですまし汁?」
そっちかい!
僕は、すまし汁を好んでは飲まない。
味噌汁のほうが好きなのだ。
先日そんな話をしたばかりだから、息子が驚くのも無理はない。
そのとき息子はすまし汁が好きだと言っていたから、作ってみたのだ。
「ふぅっ、お腹いっぱい」
さらに、釜に少し残っていたごはんも「食べていい?」
いやぁ、そんな嬉しいこと言ってもらえるなんて。
大きな獲物を仕留めて子ライオンに腹いっぱい食わせる父ライオンの気分。
父ライオンがんばったぞ。
あ、狩りをするのは母ライオンか。
***
レシピを見ただけで味が想像できるまでにはまだ至らない。
でも料理しながら、子供の喜ぶ顔を想像することはできる。
それでいいか。
(2022/10/11記)
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