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返信をわくわく待つこの気持ち

プロ野球のオリックスは神戸にゆかりがある。

イチローがいた頃は純然たる神戸の市民球団だったが、その後すったもんだがあり、大阪に移ってしまった。
それでもまだ神戸は準本拠地で、年間10試合ほどは神戸での開催だ。

神戸市は、そんな神戸開催の試合に市民を招待してくれる。
市民なら、事前に申し込んで抽選に当たれば無料で観覧できるのだ。

しかし、これがなんともアナログで、申込は往復はがき。
今どきの若い人は見たことも聞いたこともないかもしれない。
簡単に説明すれば、2枚のはがきがつながっていて、つながったまま送り、受け取った側はまん中でチョキンと切って送り返すはがきだ。
今でも同窓会の案内などで使われ…いや、出番はそれくらいかも。
とにかくオリックスの市民招待はその往復はがきで申し込むのだ。

オリックスはここ2年間パリーグを制したちょっと強いチーム。
しばらく万年最下位のようなちょっと弱いチームだったが、ちょっと強いチームになったらにわかに応援がしたくなってきた。
イチローを擁して日本一になったちょっと強いときもにわかファンだった。

これはもう市民招待に申し込むしかない。
3試合招待があるようなので、往復はがきは3枚必要だ。
でももちろん往復はがきなんて家に常備はしていない。
で、近所の郵便局に買いに行…くつもりが、手前にあるチケットショップのほうが1枚4円安いと分かり、そちらで。

――往復はがきください。

ショップのおばちゃんの顔が一瞬ゆがんだ。
おばちゃんも久々に「往復はがき」の単語を聞いたのかもしれない。
え、こいつ、今どき往復はがきなんか買うん?と思ったのかもしれない。
とにかく僕の「往復はがきください」の言葉を聞いて、顔がゆがんだのだ。

――3枚ください。

さらにおばちゃんの顔がゆがんだ。
わ、やっぱり何か思われている。

「お、お、往復はがきですか…?」

おばちゃんが不審そうに訊ねるから、説明をしようと思った。

――いや、実は…

オリックスのチケットを申し込もうと思って。
そう続けようとした矢先、

「昨日くらいから急に往復はがき売れ出したんやけど、なんで?」

え、そっち?
なんで今どき買うん?ではなく、なんでこんなに売れるん?だった。

――いや、実はオリックスのチケットを申し込もうと思って。

おばちゃんの驚きがどっちであれ、結局僕の説明は同じだった。
往復はがきが売れることが珍しい世になったのだ。

よろしくお願いします、と書いて投函する。
あとは運を天に任せて待つのみだ。
往復はがきだから、抽選結果にかかわらず返信は必ずある。

返信をわくわく待つこの気持ち、まるでnoteのコメントだな。
30年前にnoteがあれば、あるいはコメントは往復はがきで送ったのかもしれない。

(2023/6/1記)

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