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深い思索なしに直感をすぐアウトプットしがち

人生で初めて買ったCDはショパンだった。
大学入学直後のことだ。
奏者はフランスの天才、サンソン・フランソワ(Samson François)。
以来、ずっとこのショパンを聴き続けた。

小1から中1までピアノをやっていたが、あまりうまくもなかったので、ショパンには触れることなく憧れのままで終わった。
そこに、このCDだ。
ゆったりした中にも力強さのあるフランソワのピアノが自分の中でのショパンとなり、ヘビロテの1枚となった。
聴き込むうち自分でも触れたくなり、大学1回生の夏休み、エアコンのない実家で窓を閉め切って『ノクターン』の練習に励んでみたりもした。

最近、初めて別の奏者のショパンを聴く機会があった。
あまりにフランソワの存在が大きすぎて、それ以外を聴こうという気になったことがなかったのだ。
は、速い…キレのいいタッチが機械的…同じ曲目とは思えない。
誰それのショパンが好きというのはよく聞くが、こういうことだったのか。
やっぱり聴き慣れた奏者の方が…

ちょっと待て、まだ2人しか聴いていない。
確かなのは、今回聴いた奏者がフランソワに比べて速いということだけ。
遅速だけで論じるにしても、実はもっと速い人ばかりで、その2人を区別することが無意味なほどかもしれないし、逆にフランソワですらとびきり速いほうで、2人は全奏者の中のツートップかもしれない。
知らなすぎる。

SNSが発達し、誰もが評論家、誰もがメディアとなった。
今を伝えるというSNSの特性を活かそうと思えば、深い思索なしに直感をすぐアウトプットしがちだ。
正直に言えば、今回聴いた奏者はたまたま流れてきた『英雄ポロネーズ』の一節が耳に入ってきただけだし、そもそもフランソワも自分で選んだというより大学生協で売っていたのがその1枚だっただけなのだ。
危うい。

今、また別の奏者のショパンを聴きながらこれを書いている。
新しい世界、楽しいぞ。

(2021/2/28記)

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