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移住希望者にとって実はいちばん知りたい話かもしれない

移住の手伝いをする役に就いていたことがある。
2005年だったか、愛媛県から「移住サポーター」の役を委嘱されたのだ。
まだ移住が一般的でなく、行政も人口減に直面してようやく重い腰をあげた頃だ。

僕に白羽の矢が立ったのは、僕がまったく縁もゆかりもない愛媛に飛び込み、住み着いた移住者だったからだろう。
後に総務大臣賞を受賞することになる村おこしの事業を切り拓くのに心血を注いでいた頃だから、県からすればうってつけだったに違いない。

移住用語に、Uターン・Iターン・Jターンというものがある。

 Uターン
地方から都市部に移住した人が、再び故郷に戻ること
 Iターン
都市部から出身地ではない地方に移住すること
 Jターン
地方から都市部に移住した人が、故郷に近い地域に移住すること

僕の場合は神戸→東京→愛媛だから、Iターンということになる。

移住サポーターとしては、実体験で語れるIターンが得意領域ということになるが、地方移住という点ではUターンもJターンも大差ない。
きっと多くの移住希望者の手伝いができると意気込んだ。

***

県庁での初会合に県内各地から集まった10名ほどのサポーターの中には、僕のような移住実践者だけでなく地域のボス的な人もいる。
地域にも立場にも偏りが生じないようにとの県の差配はさすがだ。

開始早々、議論が伯仲…せず、止まった。

僕は、住居、仕事、教育、医療などの移住者の不安を解消し、新生活の青写真が描けるようにすれば移住はもっと進むと移住者側の視点で発言した。
これに対し地域のボスからは、なんでどこの馬の骨とも分からん奴らに先祖の仏壇がある大切な家を使わさなならんのや、と。

今ほど移住が言われていた時代でなかったのは一つ大きな要因と思う。
空き家とはいえ、先祖代々引き継いだ家を守り抜くことが自らの代に課せられた使命と考えるのも心情的にはなんとなく分かる。

しかし、しかしだ。
それを前提にしたうえで、ではどうすべきかを議論する場なのではない?
これでは移住サポートではなく移住ブロックだ。

日をおいた次の会合でも、その次の会合でも議論は同じところで止まった。
行政にとって移住者の受入は人口増だけでなく、空き家問題の解消ももくろんだ一挙両得のプランだったから、話は遅々として進まない。
数回の会合を経てもなお、移住者受入の気運は高まらなかった。

***

その後、僕はやむにやまれぬ理由で愛媛を去り、神戸に戻っている。
神戸→京都→東京→愛媛→神戸と巡った僕は、Oターン?

見知らぬ地に移住し、後に故郷に帰還したその顛末は、移住希望者にとって実はいちばん知りたい話かもしれない。
希望あらばいつでも話そう。
成功談ととるか、失敗談ととるか――それはあなた次第だ。

(2022/2/19記)

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