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五感の満足に近づく、ワインの役目

Vol.039
以前、「ファッションとワインのであい」を言語化するーーというタイトルでその考えを記しました。今回は、一歩進んで、「ファッションとワインのであい」を五感からとらえてみます。「視覚」「触覚」「味覚」「嗅覚」「聴覚」からなる五つの感覚を、あるひとつの場所や空間で、すべて堪能できるとしたら、この上なく満足するのではないか、と。
 
ファッションを感覚的にキャッチできるのは、圧倒的に「視覚」です。次に「触覚」。このふたつが大半を占めていて、「味覚」はほぼ例外なく認知できません。ファッションは食べるものではないですからね。
「嗅覚」は、ファッションだとそのニュアンスは微妙です。服には、生地自体に独特の香りが潜んでいますが、それをファッションの楽しみとしてとらえるひとはあまりいません。「嗅覚」もまたファッションから遠ざかるセンサーです。
では、「聴覚」は? 
たとえば、衣擦れという言葉があります。生地がこすれ合う繊細な音のことですが、これでは谷崎潤一郎『陰翳礼讃』の消えゆく文化への愛着のようですね。
 
ここでワインの登場です。ファッションでは満たせなかった五感のうち、「味覚」は間違いなく感じられます。五感のうちの筆頭格です。ワインの個性をかぎ分ける「嗅覚」で鼻孔をくすぐります。ワイングラスを手に取ったときは順番が逆ですが、五感の満足にいよいよ近づいてきました。
「視覚」と「触覚」が刺激されるのはファッションの領域。「味覚」と「嗅覚」はワインの領域。さらに、ワインは「視覚」も十分に反応します。色、濃度、液体の流れといった要素は、ワインの持ち味を見極める重要なポイントですから。
 
さて、宙づりのままになった「聴覚」。ファッションは、前述の生地の擦れあう音で、言及を保留にしていました。一方、ワインなら、ボトルから注いだ“トクトクトクトクトク”という、あの音色に耳を傾けるのもいいかもしれない。ともに「聴覚」の反応ではあるものの、なにか面白みが足りない。ファッションもワインも、それ自体から「聴覚」を取り出すのではなく、外の世界から取り込むほうが、自然。というのが、主(あるじ)のアイディアです。
 
あらためて、「ファッションとワインのであい」で、なぜ五感を満たそうとしているのか。
主の狙いは、自己満足のファッションに、味わいを共有できるワインを組み合わせれば、きっと、その場が楽しく充実した空間になる、と確信しているからです。

ファッションは、ある場所で披露することによって意味が生まれます。そこで会話の糸口がみつかります。服のつくりやディテールは、スタイルの意味を雄弁に語り、服そのものに、着ているひとに存在価値が示される。つまり、ファッションはワインとの組み合わせによって、それぞれが言語化され、その場が盛り上がり、ひいては豊かなライフスタイルにも拡大していくでしょう。
 
知覚をフル稼働させ、服やワインに潜んだストーリーをも分かちあう。五感をとおした共有が、「ファッションとワインのであい」のポイントなのです。
 
外部から取り込むというアイディアで止まっていた「聴覚」。
これはまた、近いうちにお話しましょう。
 
Instagramベイスも、どうぞよろしくお願いいたします。
次回の“ディアリオ ヴィーノサローネ”に続きます。


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