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動物病院での犬と猫の病気:下痢(14) 蛋白漏出性腸症のつづき

千葉市で働く臨床経験17年目の獣医師です。

前回のnoteでは

蛋白漏出性腸症

についてお話をしました。


「低アルブミン血症」の鑑別診断の結果、やはり蛋白漏出性腸症が一番疑わしい。

そうなった場合は、ご家族に次の段階へのお話をするようになります。

それは

内視鏡による病理組織検査を行うかどうか

のお話です。


なぜ病理組織検査を行う必要があるのか?

これからその理由を説明したいと思います。

難しい病気の名前なども出てきますが、そのあたりは読み飛ばしてもらって大丈夫です。考え方などがうまく伝わってくれればと思います。

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蛋白漏出性腸症とは、「低アルブミン血症」につながる量の蛋白漏出が消化管で起きている病態(蛋白が逃げている状態のこと)をさします。

つまり蛋白漏出性腸症につながる病気は複数存在します。

具体的には難しい病気の名前の羅列になってしまいますが、

・腸リンパ管拡張症
・食事反応性腸症
・抗菌薬反応性腸症
・免疫抑制薬反応性腸症
・治療抵抗性腸症
・腸管型リンパ腫

などさまざまな病気が蛋白漏出性腸症になります。

上記のような難しい病気の名前を覚える必要はありません。

ざっくりと蛋白漏出性腸症につながる原因を説明しますと、

炎症性の病気か?

免疫異常の病気か?

腫瘍か?

蛋白漏出性腸症のほとんどがこの3つのどれかに当てはまります!


前回お伝えした「低アルブミン血症」の鑑別診断のときに画像検査を行いますが、超音波検査で腸の一部が腫れていたりすれば、超音波検査でもある程度病気の推定ができることもあります。

しかし病気の初期では超音波検査で正常な腸と病気の腸を判別するのは困難なことがほとんどです。

そのため「蛋白漏出性腸症」が実際どの病気で起きているかを調べるには、腸の組織を取って病理組織検査をすることが必要になります。

腸の組織を取るには
・内視鏡で腸の組織を切り取ってくる。
・開腹手術により腸を部分的に丸ごと切除してくる。

必要があります。

この二つの方法のどちらがいいかというのは状態によっても異なりますが、一般的には「低アルブミン血症」が進行していると傷の治りが悪い可能性があるので、病理組織検査を行うには内視鏡の方が安全性は高いと言われています。

ここでさらに注意すべき点は、内視鏡による病理組織検査は全ての動物病院でできるわけではないということです!

その理由は大きく二つあります。

➊ 内視鏡は高額な機器で、かつ機器の大きさもそれなりにあるため、小さな動物病院にはスペース的にも置くことが難しいことがあり、そもそも内視鏡がない病院が多い。

➋ 内視鏡による組織採取には高い技術を必要とする。


ちなみに私の勤務する動物病院にも内視鏡はありません。

そのため内視鏡を希望するご家族には、内視鏡ができる動物病院を紹介させていただいています。


蛋白漏出性腸症の治療していく上では理想としては、病理組織検査により病気の特定ができていることです。

なぜなら病気の種類により、治療方法が異なるからです。

病気によっては食事を変えるだけで改善させることもできます。

ただ大部分の蛋白漏出性腸症につながる病気は免疫の異常が絡んでいることが多いため、治療としては免疫抑制療法が主体になります。

免疫抑制療法といえば代表的なお薬がステロイド剤になります。

ステロイド剤に関してはいずれこのnoteでも詳しくお話ししようと思いますが、ステロイド剤は自分自身の過剰な免疫を抑える作用があるので、免疫異常の病気にはとても効果があります。

しかしここで注意点としては、蛋白漏出性腸症の病気の特定ができていないときにステロイド剤を使用すると病気の証拠を隠してしまうと言われていまることです。

蛋白漏出性腸症につながる病気の中で一番気を付けるべきものは腫瘍です。

免疫異常の病気であればステロイド剤でそのまま治すことが出来ることも多いですが、実際に腫瘍が隠れているとステロイド剤を使用していてもすっきり治すことが出来ません。

そのため理想としては治療前に病理組織検査で病気の特定ができていることが望ましいのです。


ただ以前私が参加したセミナーで

二次診療施設で内視鏡検査を行っている先生がおっしゃっていたのですが、

「たとえ病気の特定の前にステロイド剤を使っていたとしても、技術のある先生が内視鏡を行えばステロイド剤を使っている状態でもしっかり確定診断ができます。」

と自信を持って語っておられました。


一次診療に従事している私としてはとても頼もしく嬉しい言葉でした!


そのため私はご家族が内視鏡検査を希望されない時や、動物の具合が悪く早急に治療が必要と判断されるときは治療を優先し、病理組織検査を行わずにステロイド剤を使用することもあります。

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ちなみにそのセミナーの先生は、日本では柴犬に蛋白漏出性腸症が多い印象がある!

とおっしゃっていました。

そしてその柴犬に病理組織検査を行ってみると、比較的若い柴犬でも腫瘍が隠れていることが多いので注意が必要です!

ともおっしゃっていました。


柴犬のご家族を怖がらせようと思っているわけでは決してありません。

ただご自宅の柴犬が続く下痢をしている。

そのような時はもしかしたら単純な下痢ではないかもしれません。

下痢が続くようならお早めに主治医の先生にご相談ください。

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この蛋白漏出性腸症の話はとても複雑で、難しいかったと思います。

私も文字にするのがとても大変でした!
私の文章力もまだまだ磨かねばなりませんね。


次回は、

便の色を見るだけで病名が分かる!?

可能性がある下痢につながる病気のお話をしようと思っています。


次回に続く。




参考文献
・犬の内科診療Part3


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