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10月の読了

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くもをさがす

西加奈子さんが、カナダでがんになった。

言語はもちろん医療システムも全く違う国で癌だと診断され、治療を行う過程とご本人の心の動きがぎゅっと詰まった一冊。想像以上の激動さと、ありのままの感情の吐露にページを捲る手が止まらなかった。

最終的に彼女は両乳房全切除という選択をする。
術後に胸にまっすぐ引かれた直線をみて、彼女は「綺麗」だと思い、自分の身体を好きになったという。この辺りの心理的描写と、昨今の世の中の性別自認について、また、外見至上主義をめぐる様々な問題についてを織り交ぜた文章はこれが闘病記であることを一瞬忘れてしまうほど。作家さんの文章力って本当にすごい。

もしかしたら私は、他の人から見れば「かわいそうな女性」なのかもしれない。でも私は、自分のこの体を、心から誇りに思っていた。人生で自分の体を一番好きになった瞬間かもしれなかった。

私は私だ。「見え」は関係がない。自分が、自分自身がどう思うかが大切なのだ。
私は、私だ。私は女性で、そして最高だ。

仕事で毎日会う乳がん患者さんたちは、一人ひとりが西さんのいう「告知を受けたあの夜」を乗り越えたのだと改めて思う。放射線治療というステップに来るまできっと様々なことがあったんだと思う。
西さんが、匿名とはいえ医療従事者一人ひとりの名前と発言をしっかり書き記していたように、私も彼女たちの闘病を技術や言葉で支える登場人物のひとりになれていたらいいな。

追記
本を読んで、出てくる言葉や考え方を知る中で、多分西さんは西洋医学と東洋医学のバランスにおいて東洋を頼るウエイトが少し高い方なんだという印象を受けた。
病院に勤める者としては標準治療以外のあらゆるものに対して非常に慎重になる立場なのだけど、これらの何を信じて自分に取り入れるのかという難しい問題については「自分が自分のボス」というカナダの看護師からの言葉に全て集約するのかな・・・と納得することにする。

螺旋じかけの海

めっちゃ良い漫画に出会ってしまった。

遺伝子操作が当たり前のように行われ、「ヒト」と「ヒト未満」が存在する世界。そこで”生体操作師”として生きる音喜多(オト)が主人公。
相棒の雪晴や、多種多様な異種遺伝子を持った登場”人物”との関わりの中で、さまざまなことを考えさせられる。

それぞれのストーリーは短編だけど、張られる伏線や雪晴の壮絶すぎる過去、そもそもオトは何者なのか?という最初からふんわり隠されたテーマが最終話に向かってしっかり回収されていくのが凄い。結末を知って読み返すと、オトが自分のことを話すときの表現の違和感にとても納得がいく。

私が何者かの答えを与えてくれる者はこの世にはいない そんな答えを探すのはやめた
お前達の動かす線引きに振り回されるのはうんざりだ
私が何者かを決めるのは、私が何と生き何を愛すかによってだけだ

命は必ず死ぬ。それは誰でもわかっている。
だけどそれをどうにか引き延ばしたい、抗いたいと言うのが人間の性。
5巻で登場する鯨が、そんな人間たちを滑稽に話すシーンがある。でも鯨はけなしているわけでは決してなく、大事な人を失ったときにどう捉えて受け入れていくか、みたいな大きな大きな俯瞰の視点を教えてくれる。

ヒトがヒトを死なさないためにお前たちはいつも必死だ
生き物は皆死ぬ なのに死んではいけないというのは 大変だな

作者は現役の医師。なるほど生命観とか細胞や遺伝の話が緻密なわけだ・・・


なんと全5巻ともKindle Unlimitedで読めます。もっとバズれば良いのに!


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