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私はビールが大好きだ

なんだかシャキッとしない。
かといって思い当たることも特にない。

そんなときはキンキンに冷えたビールを飲むことにしている。
ビールと一緒に憂鬱も流し込んでしまえば大体のことはどうにかなるので、私の冷蔵庫の中にはいつもビールがストックされている。

♦︎

いつからだろう。ビールの味が好きになったのは。
覚えている限り、お酒が飲める年齢になってからもしばらくの間は美味しいと思っていなかったはずだ。あの頃はビールも日本酒も美味しいとは思えずに、ジュースのように甘いカクテルばかり飲んでいた気がする。
お酒は飲みたいけれど、お酒から遠い味のするものばかりを選んでいた。美味しいと思えない事実が、子供にはまだ早いと言われている気がして悲しかったんだと思う。グラスにちょっぴりのビールを飲むのが、精一杯の背伸びだった。

でも、いつの頃からかビールは美味しい飲み物だと思うようになった。暑い日にビアガーデンで飲むビールも、仕事終わりに飲む『とりあえずビール』も、オクトーバーフェストで飲む、ドイツビールも。
今はそのどれもに美味しい思い出がつまっている。

♦︎

昔恋人に、ビール美味しいよねと言ったら「本当にそう思うの?」と聞かれた。彼は皆の前では好きなふりをしていたけれど、本当はお酒が好きじゃなかったから、多分ビールも好きじゃなかったんだと思う。すごく意地悪な声だった。

ビールより彼が好きだった私は「うーん。言われてみたらそんなにかな」と自分の気持ちを偽った。彼と同じ気持ちじゃないと嫌われてしまうかもしれない、なんて当時は本気で思っていた。
好みがひとつずれていく度に、距離も離れているように感じていたからかもしれない。まるで、あなたのことを理解できません、と言われているような感覚だった。

好みが同じじゃなくたって、それだけで好きになったり嫌いになったりしないんだと気づいたのは、ずっと後になってからだ。盲目な頃は、そんな簡単なことさえ見失ってしまっていた。

私という実体の境界が、どんどん曖昧になっていくあの感覚だけはもう二度と味わいたくない。だからちゃんと思い出せるように何度だって口に出しておこうと思う。私はビールが、大好きだ。




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